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会場で十位を越えたらと言ったな?あれは嘘だ。


ゼロ票でも連載するために、開催前から予約投稿してあるのだよ。

「書けぬ。」


 そういって私はPCに向かったまま、心を空にする意味を込めて悩みを口に出してみる。それでも話は全く思い浮かばないし、それで思い浮かぶならばここでこんな弱音のような言葉は吐くまい。はくまい、か。腹がすいてしまっているようだ。腹が減ったなら立つこともあるまいが、などと洒落にもならない事を考えつつ台所に向かう。結局書けない理由を他に転嫁するためであり、この場合は空腹に書けない理由を転嫁しているのである。逆を言えば、腹を満たしてしまえばやはり書けないとき、何も言い訳ができなくなるから、勢いで書くと心に決めたに等しくもある。心は支離滅裂であるがそもそも支離滅裂でなくてどうして物語が紡げようか。


 台所をあされば出てきたのは日清食品が栄光、チキンラーメンである。これは私の好物であって、これが癒しでもある。奇特な人とはよく言われるが、これもその理由の一つである。何ならば一週間の昼食が連続でこれでもいいと思っているのだから。もしここが漫画か何かの中であればシアワセ、という擬音じみたものが出てきそうなほどの満面の笑みと共にどんぶりを引っ張り出して、袋から麺塊を開ける。

 使い勝手が良い大きさの手鍋に水を張り、至急点火、沸騰を試みる。そうして沸騰を待つまでの間に呆としつつどうして物語を紡ぐか考えるのであるが、全くおかしいことにその方向性すら見えてこないのである。焦りは募るが、かといって焦っても書けるはずがないのである。むしろどんづまるだけだ。そんな思考の袋小路を振り払うために、考えることをやめることにした。そうもこうもしていれば湯も沸く。湯は沸くが話は湧かない。南無妙法蓮華経。


 湯を注いでやってふたをし、どんぶりが熱いのを耐えながら運んで食卓に置く。この瞬間も一つの醍醐味だ。それで、砂時計を反して時を待つ。そうしておおよそ冷静になった状態で自己を分析してみる。何故書けないのか。それは結局己の不徳がいたすところなのである。この頃目が肥えて、要はどうして「良いもの」が書けるのかわからなくなっているのである。書くことに理屈を求めすぎている状態と言ってもよい。これまで特に創作論なども持ち合わせて居らなかったのだが、いろいろ縁のある方々のそういった論に触れる機会があったからと言ってもよい。これ自体は喜ばしい事であるが、今ここではただの障碍と化している。さて、どうしてくれようか。


 そこまで考えていると砂が間もなく落ちきる。どんぶりにかけおいた蓋を取れば、まぅと湯気が上がる。この瞬間は至福である。それまでの創作論が云々という考えともつかぬ何かも、きれいさっぱり消え失せてしまうほどには。香ばしいチキンラーメンの薫り。

 チキンラーメンは五感で楽しむものだ。何ら彩も無いように見えるスープはしかし、万能ねぎを散らしてやれば色の対比もあってか映える。さらに僅かに適度な脂を浮かべておりこれが良い。

 匂いはこの香ばしさを言葉にできようもなく、もしできるモノならこれをずっと記憶にとどめたいと思うほどだ。

 そして、ここまで来れば食わぬという選択肢はない、それは冒涜である。


 箸をとって食す。食感は良し。ぐいと絡み付いた麺は不思議とよくほぐれて、伸びやかに啜れる。然して、歯応えも抜群である。のびたら多少ぶよつくのでその前に食べきらねばならぬ。チキンラーメンはかくごとく勢いを以て食わねばならぬ。チキンラーメンについて話を書くならばどう書くか、と思い付いたが考慮に入れる前にとにかく食わねばならぬ。のびたらそれは冒涜どころか罪だ。罪を負うくらいならば、書けなくともよいから喰わねばならぬ。


 食いきったのであるが、何だかお話の筋書きを思い付いた気がするのだ。しかしそれをどうやら忘れてしまった。どうにもならぬ。書けない。いっそ辞退して、やめてしまえば楽にもなろうか。いや、この書き出し祭りで打倒したい人がいる。だからやめるわけにもいかぬ。挺身斬り込みのごとく激烈なる執筆攻勢を行って勝つしかないのだ。勝つまでやめるわけにもいかぬ。憧れのあの人に認められたい、それ故に。


 どうにもならぬ。そして熱いものを食べたので汗かいた。風呂でも入ろうか。そしたら書けるかもしれぬ。試行錯誤、いや、思考錯誤かもしれぬが、やらぬよりはましだ。それで話が思い付けば万々歳、思い付かなくとも現状維持だ、損はない。


 風呂に入っておるときに天啓を得たかのごとく浮かぶのは、そもそも何故書けなくなったかを分析せよとの声。それはあまりに回りの影響を受けて理屈っぽくなったからだ。ならば、その理屈を排して馬鹿になれば書けるのではなかろうか、いや、書ける。ならば、馬鹿ならどうやって書くことにするか。書けないことを書けばよい。それも普段書かないものを。

 書けると思うものを理屈で書こうとするから書けぬのだ。馬鹿になるには最初から書けないものを書くから無茶をするために背伸びをすると考えねばならぬ。そうすれば、書くことに精一杯になって理屈になることは減るだろう。まったく無茶苦茶な理論ではあるが風呂で思い浮かぶ理論などそんなものだ。しかしそれで未来は開けた。普段書かぬことを書けばよいのだ。


 ならば、何を書こうか。それもいま思い付いた。これはなかなか素晴らしいのではないか?続きをいくらでも作れるだろう。そもそもこの祭りは続きを読みたいと思わせるための祭りだ。続きが思い付きやすいものが正義だ。ならばこれしかあるまい。うだつの上がらない最底辺の文字書きが何かを間違えて書き出し祭りに参加してしまう話だ。きっと賛否両論だろう。だからいい。私のような阿呆が注目されるには炎上するしかないのだから、これがある種最良の手段なのだ。本当に書ける人なら要らないだろう手法だが、全く書けない人間である以上、話題に上がるにはこれしかない。これしかないからこれをするのだ。なんと浅ましいことか、なんと無様なことか。ここまでくれば外から見たら滑稽かもしれん。


 この話なら続きを作るときに面白いことができる。感想を見た執筆者の一喜一憂をまったきに使って話が作れる。何なら感想を書いた人の許可をもらってそのまま作中に出してもよいし、出さなくともある程度改変して投げ込めばよい。感想に振り回されるるのは駄作というが、感想そのものを使った話は過去にあるまい。読者参加型の作品など、聞いたこともないから耳目を集めるだろう。何番煎じかは知らないが、あまり例がないようなら。




 風呂から上がり、忘れぬうちに一挙に書かねばとPCの前に駆ける。もしかしたら千載不朽の迷作になるかもしれぬ。それを書くことができねば恥、いや、罪、いや、地獄へ導く咎だ。パスワードを入れるのすらもどかしい。早くせねば、早く。

 さぁ、題は『#書き出し祭り』が適しているだろう。中身は書き出し祭りで一喜一憂する小物が、右往左往する様なのだから。いや、それだと祭りそのものの名と重なってしまって感想を拾えないだろう。特にツイッターなんかではそれが顕著になる。ならば、そうだ。祭りの字を変えよう。祀りにでもしておけば間違えるものも居るまい。もし間違えるような者がいたなら、その者とは縁がないということで諦めるしかない。それはあまりおいしくない。しかしまさか『毒者も錯者ももう旧い!これからは読者参加型の時代だと叫んでみる試験』のような長い題もおかしいだろう。と言うかなんだ。いまのこれだと小物感が失せてしまっているな。なんか、どころか完全に的を外しているという意味でも大間違いだ。


 ある程度書いたところで気がついた。いつもの悪癖が出て、空行が少なく、読みにくいのだ。実際携帯電話でプレビューを見てみれば画面の黒いこと黒いこと。目が滑ることも多そうだ。しかし、切り方がわからぬ。自画自賛するなら一段落辺りの情報量を増しぎみにしたのだと胸を張ってみるのだが、それで読みにくければ本末転倒である。しかし切り方が何度見返してもわからぬ。もういい。どうにとでも為れだ。それで何か言われたら、そのときはそのときだ。


 私は普段は短文を得意としてきた。三千から四千字というのは初めて書く量ではないが、なかなか書かないもので苦手なものだ。だから努力をしなければならない。此はきっと糧になると信じて。と言うか信じなければ書き得ぬ。それほどしなければ書けないほど私は小物なのだ。だから、このような至らない点は他にも多いだろう。それを全く自覚していない。ならば、もうこれでいい。そのあとに改良すればよいのだ。


 さぁ、書き上がった。あとは日付を待つばかり。運を天に任せて行くのみ。そうだな。会場で十位以内に入ったら、続きを出せるようにしよう。ただ、結果が出る前にいろいろと書いて行こう。例えば第一会場を目指して遅くまで起きてPCの前で待機している様とか。

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