『1』 一転二転三転
対峙している魔法遣い(みたいなコスプレをしている女の子)は空中に落ちることなく留まっている。
「つまり、自分の好きな世界観で出来た領域を創れるって能力なわけだな」
「そうよ、だから『村人1』みたいな貴方は私に手も足もでないの」
空中の魔法少女は高笑いしている。
お互いの能力が干渉しないのは、火の玉が飛んでくる攻撃のときに確認できた。
「じゃぁ、お前はただの村人1にこれからやられることになるんだな」
こっちの能力が使えるならばこの幻想的な世界観のなかでも十分に勝機はある。
「なによ、さっきから避けてばっかりのくせして。勝てると思ってるの? どうせあなたの能力なんて役にたたないわ」
「やってみるさ」
「いけぇ『ホーリー』!!」
魔法少女の持っているステッキの先に強烈に光る純白の弾が無数に俺に向かって放たれた。 俺は、軽く10メートルほど跳び上がった。
「あなたの能力って肉体を強化するだけなの? さっきから私の魔法が当たらないのはその運動能力のおかげでしょ」
光の弾には追尾能力があるらしい、跳び上がった俺に方向を変えて追ってくる。
「跳んだら避けられないよね」
魔法少女はそう言う間にも続けて魔法を打っていた。
「よし!!」
1秒後には魔法の弾ける音と純白の光で辺りが満ちていた。
パキンッ
「えっ?」
少女に付いていた腕輪が半分に割れた。
瞬間、周りのファンシーな情景が一変してただの住宅街になった。
一人の中学生と思われる少女と俺だけが街灯に照らされ突っ立ている。
少女は目を見開いき、わけもわからず地面にへたりこんでいた。
「じゃぁな」
そう一声かけて俺は自宅へ向かった。 子供でさえ巻き込まれているこんな戦いはさっさと完結させてしまうべきだ。といつも思っている。
リングさえ壊して仕舞えば終わる戦いだが、その戦いで傷付けば、戦いが終わっても傷はついたままで、死んでしまったならやはり死んだままだ。
――殺した人間がいうのだから間違いない。
一刻も早く終わらせなければ。
「ただいま」
1ヶ月前までは帰ってきても誰も待っていなかった部屋には時々、『女神』と名乗る少女がいる。
「アア――帰ってきたんだ」
ワンルームの俺が借りているアパートに置いてあるベットに腰掛けながらショートケーキを食べている。
「死んでてほしかったか?」
「イヤイヤ、別に死ななくても終わるのだから無理に死ぬ必要もないさ」
嫌味か。と言おうと思ったが、言わなかった。たぶん、こいつはそういうことに興味がない。
俺に能力を与えたのは紛れも無くこいつなのだ。
能力を与えたくせに目的を聞いてもろくな返事が帰ってこない。
「世界のタメダ」
それだけしか言わない。そのくせ能力の使い方だけは詳しく教えてくれる。
この1ヶ月で6人の能力を持った人間と戦った。
6人の内5人は今でも普通に生活しているだろう。
最初の一人だけは冷たい土の下で俺のことを呪っているだろう。日常とは違う非日常を得て舞い上がっていた俺のことを。
「ソノチカラには慣れてきたか?」
「ああ、お蔭様で」
「チナミに、まだその能力は使いやすくなる」
こいつはあたかもこの能力が使えるような口ぶりで俺に説明する。
「で、どうすればこの戦いは終るんだ?」
「チカラを持った人間が一人だけになったら終わる」
「今日は答えてくれるんだな」
能力について以外の質問にはいつも答えないのがこの『女神』だったのだが。
「18ジカン前に人間を選抜をし終えた。だからあとは待つだけ」
「一人になるまでか?」
「イヤイヤ、100人になればシマに集める」
「島?」
教えない、と言ったきり寝てしまった。そして、この『女神』寝てしまったら何しても起きない。頬をつねっても、胸を揉んでも、呼吸できなくしても、頭を金づちで叩いてみても起きなかった。
「はぁ」
仕方がないので、さっさと銭湯にいって寝てしまおう。一人暮らしの朝は辛い。
――寝てしまえば朝も意外と早く来てしまうもので。
起きた時にはもう自称女神少女は部屋にいなかった。ついでに食パンも無くなっていた。
「行くか」
1枚だけ残ったパンを食べて学校に行くことにした。
「はい『僕に挨拶』して」
「おはようございます」
俺は扉を閉めるとそのまま、通路に立っていたやつに自然とお辞儀をしていた。
「ああ、おはよう」
同じ学生服を身にまとった男だった。
「くっ、誰だお前」
「3組の白田ですよ。白田篭衣」
「能力か」
「ええ」
俺の能力だとこの状況は圧倒的に不利だ。それに、相手の能力もわからない。逃げよう。
「じゃぁな」 能力で身体を強化してれば4階くらいからなら飛び降りれるはず。
真横の柵を飛び越えようとした。
「はい『僕に挨拶』」
「おはようございます」
俺は自然に白田に挨拶していた。
「いきなり逃げちゃったら話ができないじゃないか! それにここから飛び降りはさすがに危ないでしょ」
「話す事はない。4階なら平気。じゃぁな」
再度飛び降りを実行した。
「はい『僕に挨拶』」
「おは、よ、うござい、ます」
今度は自然じゃなかった。
「やっぱり抵抗出来ちゃうんだね。完全じゃないなーこの能力」
「なんなんだその能力」
「言葉で生き物を操れるみたいよ。生き物ならなんでもね。それよりも君が話す気になってくれたみたいで本当にうれしいよ! 君から話を振ってくれたこともプラスポイントさ! ちなみに今君を倒してしまうつもりはないし、どうもそう簡単には終わりそうもないしね。連続で同じ人を操ると耐性ができるみたいだし」
「倒さないなら、何するんだ。お前と学校に行く理由も遊びに行く理由もない」
「ああ、ただ頼みがあるんだよ。一緒に戦ってほしい相手がいる」
「いやだ」
「仕方ないか。じゃぁ今日だけ一緒に学校に行こう! さぁ行こう」
白田は俺の手首を掴むとアパートの出口へと歩きだした。
結局、手を掴まれたまま学校の校門についてしまった。
「もう一度聞くよ。一緒に戦ってくれ」
「い――」
「『いいよ、と言う』」
「いいよ」
自然だった。
「そうかい! ありがとう! 恩に着るよ! じゃぁ放課後に校門で!」
そう言って白田は走って昇降口へ行ってしまった。
「おい、ふざけんな」
俺の抗議も虚しく空振りだった。