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 私が拐われ軟禁されてからどのくらい経ったのかしら


 日記でも、と思ったけれどペンも紙もない。頼んでみたらリザードマンに一睨みされて終わってしまった。でも確実にそこそこの時間が経っている、はず。テーブルの上にあったフルーツ盛は葡萄のみになった。おまけにその葡萄は実が半分程減っている



「ぷ!」

「今日の食事ね、ありがとう」

「ぷぷぅ!」



 今日も扉が開けられる。開けられるのは大抵食事を持ってきた時と食事終わりの時。そしてその時にはリザードマンとスライムがやってくる。スライムは頭に焼いただけの肉の入った器を乗せていた。私がしゃがんで受け取り、テーブルに置くとリザードマンは職務を終えたとばかりに背を向ける。見えなくなってしまう前に呼び止めた。すると鋭さを含む真っ暗な目でこちらを見てきて、一瞬怯む。だけど私も命や国がかかっているため、言葉を続けた



「我が母国はどうなっているのでしょう? 愛する我が国なのです。国王様は何か手配をしたのでしょうか」

「聞いてどうする」



 ここで閉じ込められて何も出来ないお前が

 嘲るような目がそう言っていた。拳と両足に力を込め、その目を真っ直ぐ見つめた



「私はアレキサンドリア国の王女です。自国を気にするのは当然でしょう」

「……フン。それじゃあ愛国心の強いお姫様に教えてやろう。――勇者がここを目指して旅立ったそうだ。国もまだ無事だ。良かったなぁ?」

「……勇者?」



 国が無事だと聞きホッと安堵の息を吐く。しかし一つ気になるものが出来た


 ――勇者。勇気ある者。騎士団の誰かかしら。まさかあの時の……?


 ハッと我に返ればリザードマンはいつの間にかいない。残ったのはスライムと私だけ。私はソファーと倒れ込むようにして座る。深く深く息を吐いた。唇が震えていて吐息も不安定。今度は大きく息を吸ってから吐き出して呼吸を整える。スライムが隣に跳び乗って来た。そんな姿を見れば自然と笑みが浮かぶ。笑い掛けて葡萄の実を一粒とってスライムにあげた。葡萄はスライムの体内へと取り込まれ吸収される。食欲はないけれど無理矢理にでも食事をしようと厚切り肉と向き合った



 食事が終わると両手を洗いに行く。今では一連の流れになっているわね。汚れを落として戻るとスライムがまだ部屋の中にいた。何も乗っていない器の前でじっとしている



「どうしたの?」

「のせる? のせる!」

「嗚呼……でも本当に大丈夫? いつも不安なのよね……」

「のせる!」

「はい」



 スライムの頭にそっと器を乗せる。するとスライムは僅かに形を変え、器を支えた。軟体生物の利点よね。私からすれば小さい子が食器を持っているみたいでハラハラするけれど。弾んでも落ちないところを何度も見たけどそれでも気になってしまう

 食器を支えながら器用にドアを開閉して出て行くまでしっかりと見守ってしまった



 スライムもいなくなったところでソファーに腰を落とし、背もたれにもたれかかってリザードマンの言葉を思い出す。ここに向かって勇者が旅に出た。誰かはわからないけれど、助けに向かってくれているっていうことよね

 ――――もう少しの辛抱だわ


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