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お待たせしました。ようやくの再開です。

あと数話ですが、最後までお付き合いください。

よろしくお願いします。

 本人が望んでいない選択を迫る行為は、この世界へ強制的に召喚した女神や新たなる神と同罪な気がしてくるのは何故だろう。

 勝手に判定し、勝手に召喚し、勝手に断罪しているのだ。ふたつの選択肢を示したのは私だけれど、これは梶の魂を消滅させない方法がこれしかなかったからだ。神に任せてしまっては、躊躇なく消すだろうことは確実だと思えたから。

 でも、その神が私が示した二択から答えろと梶に迫っている。

 儚い揺らめきからは、慄き惑っている感情が滲む。

 

 彼は多くの命を奪った。

 傲慢な召喚に対して、恨みと怒りが召喚した者を通り越して異世界そのものに敵意を向けた。

 神を倒し、残された無力な世界を蹂躙し、密かに破滅の道へと案内しておく。長い年月をかけて綻びだす世界に忍び笑い、その間に帰還の方法を見つけだすつもりでいたらしい。

 梶も古の神も、この世界を不必要なものと思っている。

 梶は憎悪。古き神は己が望んだ物ではないから。

 ならば、私は?


 私は梶と同じ立場だ。いいや、梶以上に異分子だ。

 魔女の力がなかったら……考えただけで冷汗が浮かぶ。古の神が私に目をつけていなかったら。


「私は……貴方のおかげで平穏な異世界生活を送ってこれたのですね……」

「クククッ……これを平穏と言える貴女だからこそだ」

「貴方に思惑があったとしても、私としては助かったということが真実ですから」


 己が創った世界を弄り回され、挙句に虜囚とされてしまったんだ。世界を取り戻すために、手を打とうと考えるのは当然だ。そこに都合よく私が引きずり込まれてきたし、絶好のチャンスと捉えるのは間違いじゃない。

 いわば、WinWinというものだ。

 私が心から感謝を伝えると、初めて神は表情を崩した。

 なんとも複雑な感情を露わにして目を伏せ、言い難そうに先を続けた。


「……この先を聞けば、貴女は私に向けた好意を後悔することだろう……。アズ、確かに貴女は元の世界に帰還できる。だが、それと同時にこの世界を管理する義務を負うことになる。権利ではなく、義務だ」

「えぇっ!?」

「貴女は望んだ。アレの置き土産(人間)を残せと。私にそのつもりはない。ならば、貴女に管理してもらう他ないだろう。どうする?」


 ちょっ、ちょっと待って。

 えーっと、私って魔女よね? 森羅なんちゃらが付いてるけど魔女でしかない身よね? なんで、魔女が世界を管理するのよ?


「あのー、世界の管理者が魔女ってのはぁ……」

「別に称号などどうとでもなるが? 神――否、女神がいいか?」


 やーめーてーっ!!

 内容もだけど、大仰な動作で脚を組みかえてポーズをつけるのも、やめて欲しい。

 私の妄想力が貧しいからなのか、認めたくないけど私自身が神格化してるからなのか……畏怖の念どころか残念としか思えない神の姿を追い払うために、どうにか動かせる瞼をぎゅっと瞑った。

 ちらつく雑念を押しのけながら、神の提案を反芻して考える。

 私が拒絶すれば、神は管理を放棄すると言ってるのよね? 世界の崩壊は免れることになったけれど、『女神の大陸とそこに生きる人々』を認めるとは言ってない。

 確かに、そんな約束はしてないわ……。

 くうっ……これって弱みに付け込まれたってことかな……。

 

「ほう……異議があるようだな? 無念か? ククッ……痛快この上なし」


 目を閉じているから、声だけがするりと思考の邪魔をしてくる。

 耳は塞げないし、下手に答えてあげあしを取られたくないし、ここは無視するしかないと沈黙を続ける。


「それほど自らの力に自信があるならば、試してみるがいい。……万能感とは、これほど生き物を変質させるものなのだな……」


 あれ? 私、ディスられている? と不穏な流れに気づいて、そろそろと瞼を上げて薄目で神を見た。


「何とお話をなさっているんですか?」

「あの矮小なるケダモノの魂とな」


 確かに神の双眸は私ではなく、心許なく揺らめいている梶に向けられていた。


「彼が何か?」

「この世界を管理する権利は己にある、それだけの能力を有しているとぬかしている」

「……で? 試してみろと? 何をさせるつもり――」


 まさか拒否をした私の代わりにとでも言うのかと警戒し、それだけはやめてくれと訴えようとした途端、またもやどこかに強制移動されてしまった。


『何をして有能なるか、知るがいい。己がどれほど無知無能か、自覚するがいい』


 今度は光の洪水の中に叩き込まれ、もみくちゃにされて動けない。手足も頭も自由になったってのに、光の圧に拘束されてでもいるように逃げ出すことは叶わなかった。

 悲鳴が喉を突いて出かけるが、口を開ければ水のごとく光が滑り込んでくる。熱はままならず、眩しすぎて目は開けず……。

 ああ、これは、召喚された時の漆黒の闇の中で経験した苦痛に似ている。

 集めた神力が吸い取られ、代わりに何かが練り込まれる。意識だけを残す魂のまわりを粘土のように捏ねられて固められ――。

 なぜ私までこんな苦渋を味わわなくてはいけないの!

 怒りに無理やり目を見開き、視界が奪われる可能性など構わず光源を睨みつけた。

 裾を翻すコートの形をした暗黒の中から、数多の光の矢が放たれ降り注いでいる。正反対のコントラストに、まるでコート自体が神のようだ。


『――女神が嫌なのであれば、魔女でいるがいい。称号とはいえ、傀儡と同じ階位を与えるのは業腹だからな』


 魔女でいい。女神なんて柄じゃないし、私は天界じゃなく地上に住みたいんだ。あのお気に入りのお家で。

 向こうの世界は恋しいけれど、きっと寂しくなる。友達や同僚はいても、いつも最後は独りだから。


『ならば、魔女のままーー』


 仕方ありません。承りますわ。

 ただし、称号の頭にくっついてるモノは無しの方向で。


『――人という生き物は、ほんに面倒なものだ……』


 頭蓋内を振動させる《声》を最後に、光源は強さを増し、純白の中に漆黒の形は滲んで消えた。


 そして、私も。苦痛からの解放と同時に、溶けた。

 

お仕事は先月末に終わったのですが、良性発作性頭位めまい症なんていう妙な病に犯されまして。

耳の周辺を押さえて同じ方向に肘立てて寝そべったり、同じ方向で横向きで就寝したりなど長期に渡って続けた時、内耳にある耳石が定位置から離れて三半規管に侵入してしまう場合があります。

これが地獄! 上下が反転するようなめまいに常時襲われ、嘔吐感に悩まされて動けなくなります。

眠ってても目が回るって経験、初めて味わいました(涙)

薬はなく、体操でリハビリして軽減させるしか治療方法はないそうで……皆様、お気をつけてください。


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