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 好奇心は猫をも殺す、というのは向こうの世界のイギリスの諺だ。

 本来、猫は九つの命を持っており、そうは容易に死なない。そんな猫ですら、あまりに好奇心を発揮し過ぎると死ぬ場合がある、という意味がある。つまり、過剰な好奇心や探求心は身を滅ぼすよーってことだ。

 過剰な好奇心を持った挙句に人としての一線を越え、自ら魔物同然になった連中を、私は生かしておくつもりはない。

 神も女神もいない今、この世界で天誅を行える代行者は私だけだから。


 そして、朱に交われば朱くなるってのがある。こっちは中国の諺だったかな? 付き合う相手の良し悪しによって、善悪どちらであっても感化されるのは容易いよーって意味だ。

 これから私が相対する罪人は、一体どっちなのかな、と。

 善人だったのに悪に染まったのか。元々が悪の泥の中で育ち、善悪の判断すら付かずに生きてきたのか。


「知ったからって、情状酌量するつもりはまったくないけれどね」


 ただ、純粋に疑問なのだ。

 ことに、悪の聖人様。

 彼は、己の中の残忍さをどこで育てたんだろう。悪人気質の日本人が召喚され、最強の力を手に入れたんで我慢してたサイコな部分を開放したのか。逆に、召喚され、何らかの原因で闇堕ちしたのか。

 前者は、そんな人間を神が迎え入れるものかしらと。いくら人間が召喚したとは言っても、異世界から来る者を神が見逃すとは思えないんだよ。神だけじゃなく、女神もいたのにだよ? 神の傀儡だとしても、身を削って魔女を作って送り出すって防衛システムを働かせていたんだしさ。

 ならば、後者かと思ってみるが、ヤツが闇堕ちするような原因が出てこない。異世界人を召喚して隷属させ、無理難題を言って闇堕ちさせた? それとも、召喚されたこと自体を恨んで?

 まあ、それは後でいいか。本人に訊けば。

 

 では、表の悪の親玉にご挨拶といこうか。

 私が目的の部屋を見つけたと同時ぐらいに、王城が突き上げられるように縦に揺れ、鈍い爆音が断続的に起こって震動となり地を震わす。

 石壁にへばり付いてるから微震がダイレクトに伝わり、これは凄いとニンマリしてしまった。

 案の定、親玉は飛び上がって起き、城内を走り回る警備兵に大声で状況を説明しろと怒鳴っている。

 早く避難すればいいのに、完璧なお迎えが来ない限りは部屋から出ないのよね。こーゆー人って。


「こんばんはー。初めまして。私は『森羅万象の魔女』アズでーす。お見知りおきを」


 私は【転移】で侵入すると、あたふたしながら従者に衣服を着せてもらってるおじさんに、礼儀正しくお辞儀をして名乗らせてもらった。

 いまやパレストの天敵となった魔女の名を。



◇◆◇



 私が汚い荷物と一緒に地下の召喚の間跡に着いた時、そこはまさに血の海に浮かぶ瓦礫の島という凄惨な光景があった。

 何かの液体や薬剤が混じった中に、新旧の死体や()()が加わって凄まじい悪臭が漂い、足の踏み場どころか踏み込むことさえ躊躇する有様だ。

 魔女の私が嫌悪したくらいだ。公にはお綺麗な日々を過ごしていた宰相様もさすがにショックだろうと憐れに思いかけたが、見ればまったくそんな状態にないのには呆れた。

 怯えるどころか、破壊された地下を見て怒りだしたのだ。

 思わず、嗤ったわよ。


「なっ! 我が国の一大事業である研究施設を破壊するとは、この不届き者らめが!! その上、女神フェルディナを祀る聖地を汚すなど、貴様ら異端の者たちか!!」

「汚してるのはあんたたちだよ!!」


 棘のない【いば(ローゼ・)(オブ・)の冠(クラウン)】で縛り上げてきた宰相を血の海に投げ込むと、魔力をちょいと注いでゆっくり棘を生えさせた。

 ぶつりと音を立てて、宰相のでっぷりと太った体のどこかに棘が食い込む。すぐに、彼の情けない絶叫に掻き消されたが。


「ねぇ、あんたたちはここで何していたの? 神獣や異種族を使って、何を造ろうとしてたの?」

「がぁ!! あぐっ……尊き女神への貢ぎを……き、きさまに理解できようはずはっ!! がああああぁぁぁ!!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。女神フェルディナが生贄なんか欲しがるわけないでしょ!?」


 この地下実験を、女神が望んでいるだって!?

 狂ってるとしか言いようがない。


「我らは、この地に新たな人族を創り出す、しっ、ししし使命を帯びておるのだぁぁっ!」

「ねぇ、魔術師長様、宰相様の言ってることは、ホント?」


 木製樽や石壁の残骸、ガラスに似た透明な謎の破片や粉々になった陶器、変形した巨大な金属の器の上に、四肢をもぎ取られた老魔術師長が放り出されている。

 荒い息と呪詛のような呻きを漏らしながら、そう遠くない死を浮かべる瞳を覗き込む。


「これじゃ、話せないわね。ほら、すこしだけ()()してあげる」


 魔女が神聖属性の【治癒】を使ったことに驚いたのか、止血し胴体を再生した私を見開いた目で見上げた。


「なっ、なぜだ。なぜ、魔女が神聖魔法を扱える……!?」

「魔女は女神の使徒だもの。使えて当然でしょう? そんなことも知らないで、女神の信徒を名乗ってたの?」

「嘘を申すな!! 女神フェルディナ様はぁ!! フェルディナ様は! 我らパレストの主ぞ!! 我らは聖人様から聖文をいただき、フェルディナ様より進化を許された特別なっ!!――ぎゃあああぁぁぁ!!」

「馬鹿は死ななきゃ治らないってのは本当ね。女神フェルディナは消えたわ。あなたたちが崇拝してきた聖人様によって……」


 またどこかで、ドンッと突き上げるような揺れが起こる。今度は王城の地あたりか。


「あの世で詫びなさい。もっとも……あなたたちが送られるのは天の世界じゃないだろうけれど、ね」


 



 

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