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 グロシアン帝国の神子召喚陣を破壊したのは、やはり先代勇者グレンドルフだった。


「俺がなぜ破壊工作に走ったのか。答えは単純だ。俺が嫌だと思ったからだ」

「それなら、なんで勇者召喚の陣を先に壊さなかったの?」


 彼の言い分は解る。私だってあんな物はないほうがいい。存在してしまったから、私は巻き込まれて魔女なんてモノにされてしまっている。

 迷惑甚だしいったらない。

 でもだ。グレンドルフが召喚陣を破壊できる術をもっているのなら、自分をこの世界に拉致してきた勇者の召喚陣を壊すのが先じゃない? そうすれば、アレクだって召喚されることはなかったんだし。


「当然、勇者の剣が手にある内に破壊しようとした。だが、何度試しても無理だった。打ち下ろそうが刺し貫こうが、魔力枯渇寸前までスキルを使おうが、傷ひとつつかん。そこで一旦諦めてしまった」

「でも、次の勇者が召喚されて勇者の剣も渡って……そんな状況で、よく神子の召喚陣を壊せたわね?」

「……出会ったのだ。力を失った神子と()()に」


 グレンドルフが語ってくれた、帝国の召喚陣破壊工作の全容。それは、なんとも不思議な運命の出会いから始まったらしい。

 勇者という称号は、邪竜や邪獣を倒した時点で役目を終えたとばかりに英雄に変わる。アレクもそうだけれど、勇者の剣を所有していながらも称号は英雄だ。

 そして、再び邪竜が蘇り、討伐のために勇者召喚が行われ、勇者の剣はグレンドルフの手からアレクに渡る。

 勇者の剣を失い、代わりに自由を手に入れた。英雄の称号はそのままの元勇者の身体能力を持つ戦士は、貴族位や大枚などに目もくれず旅立った。

 旅すがら体を鍛え、召喚に関する情報を集めるために帝国に向かい、貴族の養子に入っていた元神子のふたりに会った。先代勇者である身分をかざせば、それほど無理ではなかったとか。

 そのふたりが、破壊工作の手引き犯として捕まった人たちだそうで、ふたりを介して不思議な能力を持つ女性に出会う。


「名を教えられたが、誰にも発音できない難しい名でな。皆はティファと呼んでいた」

「その女の人、海の向こうの大陸に棲む妖精族のお姫様なの。長くて面倒な名前だったんでしょう?」

「ああ。……そうか、妖精族か。名は教えてくれたが、それ以外は――理解できない力を貸してくれた以外は明かしてもらえずに別れた」


 役者は揃った。揃ってしまった。

 残り僅かだが力を温存していた神子ふたりと、勇者の剣と称号を失っただけで勇者と変わりはない英雄。足りないものは、英雄が持つ力を十全に発揮できる武器と援護だけ。


「彼女は俺たちと共に神子の召喚陣の前まで来ると、俺が所持していた剣を作り変えた。俺は、錬金術師かその類なのだと思っていたが……妖精族の能力だったのだろう」

「その剣で、召喚陣を?」

「そう、破壊はできた。だが、剣も同じく壊れ去った」


 あー、元がちょっと高性能な剣ってだけだったから、一回使えば終わりって具合だったのねぇ。

 結局、その時に残りの力をグレンドルフに譲渡してしまった神子たちはただの人になってしまい、グレンドルフを逃がすためにわざと捕まった。後に、グレンドルフは助けに舞い戻ったけれど。


「で、その女性は?」

「神子たちと共に捕らえられたと思ったのだが、助けに戻った時にはすでにパレストに送られたと」

「そこから、彼女にとっての地獄が……」

「教えてくれ! 彼女は!?」


 どうしよう。

 今の彼に真実を話してもいいものか。妖精族だった女性の末路だ。

 私がぼそりと零してしまった呟き程度で、すでに彼は動揺している。


「ちょっと落ち着いて。じゃないと話せない」


 手のひらをグレンドルフに向けて、気持ちを抑えるようにと促す。

 だって、怖いじゃない? 彼の職業『狂戦士(バーサーカー)』よ? ここでもし激昂でもされたら、家どころか城下町一帯が廃墟と化しそう。

 私が叩きのめしたいのはパレスト国民じゃなくて、あの城と教会に巣食う連中だ。

 でも、一体、どこでそんな職業を取得したのかよ。ホント怖いっ。


「ふーっ……すまん」

「現在の彼女は、確かにあの城の地下に囚われているわ。その上に、あなたの知ってる彼女じゃなくなっている」


 私の言葉に、グレンドルフだけじゃなくリュースまで肩先を揺らした。


「彼女には娘がいるの。どういった方法でかまだ解らないんだけれど、彼女は娘という分身を生み出したの」

「娘だと!?」

「便宜上、娘と言ったけれど、正しくは枝分かれというか……挿し木のような方法みたい。彼女は今、魔樹と呼ばれる植物の魔物に変えられているのよ」

「……聞いたことないぞ? そんな魔物は」

「パレストの連中が人工的に創りだしたの。何のためなのか、どんな能力を持つのかまでは、まだ探り出せていないのだけれどね」


 小さな空間に、怒りの波動がひたひたと満ちてゆく。グレンドルフだけじゃなく、私やリュースのソレも一緒に混じって。


「そんな外道な行いを悲しむ人たちに依頼されて、私は彼女を救うためにここに来たの」


 彼女にとっての救いなのか。

 破壊でしかない、救い。

 冷めたお茶をぐっと飲み干し、腹を決める。


「そして、そんな非道な実験を行える場を作り出した、頭のおかしな異世界人を討伐するのが、私の真の目的なの」

「え? アズ、見つけたの?」


 借り家を訪れて初めて口を開いたリュースは、目を見開いて私を見た。


「うん。あのクソ外道もあの城の……教会の真下にいる。凄いわよねぇ? 寝ながらにしてさまざまな物や人から力を吸い取るために、そんな機能を備えた寝室を造り上げてるなんてさ」


 でも、誰も侵入も脱出もできない。ヤツが横たわる空間は、どこにも繋がっていない。

 いや、ヤツの寝台になっている供給の魔法陣と地下の実験室を繋ぐ、魔力で作られたコードが唯一の繋がりか。

 充電器の上は、さぞかし寝心地がいいんでしょうねぇ?

 邪悪な剣を作るだけじゃ飽きたらず、自分まで吸血鬼じみた邪獣に成り下がるなんて。


 大魔導士の名は、返上していただきますね。

  

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