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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
他所で公開しておりました作品を改正しUPしておりますが、一旦ここまでで休載いたします。
他所の整理がつき次第、再開する予定でおります。
それまで、のんびりお待ちください。
すぐに、空中に浮かぶタブレットも映像も消した。私ですら見続ける気にならないものだ。同族の彼らが見続けてよいとは思えない。
私の叫びに、その場にいる妖精族の誰もが私を注視した。
驚きに瞠目する者、怒りの形相に変わる者、口に手を当て涙を浮かべる者。さまざまに反応を示す妖精たちの中で、緑の王だけは眉間をひそめて目を閉じていた。
痺れを切らしたのは、私よりも先にグリア氏だった。彼は怒りを少し含んだ困惑に近い複雑な表情で、王と私を交互に見遣ると口を開いた。
「なぜ、いけないものなのだ!?」
「あれは……」
口にしかけて、私は先を言い淀んだ。
この場でそれを暴露してよいものか。それが元でリリアがあらぬ誤解を受けることにならないか、が心配だった。
あの魔樹と呼ばれるモノから、リリアは生まれた。いえ、枝分けされたと言った方が正確だ。そして、妖精族が魔樹になるという事実。このふたつの結果は、妖精族全体に衝撃を与えるだろう。
古の神の手によって創られた純粋な種族なのに、人の手が加えられることで魔獣に成り下がるんだ。私が彼らだったら、怒りと恐怖と悲しみと――ありとあらゆる感情に支配されて、何者にも止めることができない悪鬼になりそうだ。
「あれは、間違いなく我が娘のなれの果てだ。魔女よ。悪しきモノであるなら、遠慮はいらん。そなたの手で始末をつけて欲しい。ただ、願わくば、欠片でも良いから……」
目を閉じたまま苦悶の表情を浮かべた王は、力尽きたようなしわがれた低い声で告げた。
「賜りました。苦しめることなく、安らぎを。無害であるなら形見になる物をお持ちしましょう」
これで、謎のひとつが解けた。
リリアに決まった父親はおらず、母はいるが母体を介して誕生したのではないことが。つまり、血縁と呼べる間柄じゃなく人工的に作られたクローン体ということ。
私は、エンデやグリア氏を無視して王にだけ一礼すると、すぐにその場から家へ転移した。
ずっと無言で気配を消して肩に止まっていたルードが、家に着いたと同時に本体に戻った。それに向かって私はダイブし、顔を埋めて呻く。
「なんで、こんなこと……」
あの美しく儚い姿を持つ種族の女性だ。会ったことのない相手だけれど、きっととても綺麗なお姫様だっただろう。枝分けだから、リリアの将来の姿は母である王女にそっくりだろう。
なぜ女神の大陸なんかに居たのか判らないが、あんなに醜い姿に変えられていいわけはない。
――アズ…助けられないの?
私を追ってきたらしいエンデが、弱々しい声で問いかけてきた。
「無理。あれじゃ、もう妖精族とは言えないわ。別のモノよ」
『俺やカーバンクルとも……違うのか?』
「私や妖精族よりは近いけれど、もっと歪なモノなのよ。ああいったものは、基本的には神が創るものであって、人族が手を出してはいけない業なの。出せば……あの外道と同じよ。助けるとしても、すでに完成されてしまったモノをどうこうするのは……破壊するしかないわ」
――破壊したら、それは救うことじゃないっ
「だから無理だと言ってるのよっ」
神が創り出したモノなら、神の手でそれを元に戻すことはできるだろうが、人が偶然で神の業に近いモノを創り出してしまった。だが、そんな偶然が何度も起こるはずはない。それを戻すことなど、人の手では到底無理だ。
私はルードの胸元から顔を上げると、リュースの気配を探した。
家の中に居ないことは知っているが、ほとんど毎日入り浸っている古の神の大陸にすら気配がないのが気になった。
そして、見つけた先を確認して、思わず手で顔を覆った。
(なぜに君がそこにいるのっ。それに、隣りにいる正体不明な人物は誰!?)
心の中で喚いてせり上がって来た衝動を解消し、ぱしりっと頬を叩いて気合を入れ直した。
唐突にがらりと気配を変えた私に、ふたりは慣れたものですぐに樹海に警戒の目を向ける。
【地図】の左上で警報の赤いランプが点滅している。同時に、地図上に散らばる無数の赤い敵の表示。
出会った当初のアレクのような大きい赤丸はないけれど、グランバトロの軍隊などと比べ物にならないほどの大部隊が投入されたようだった。
「総出でこれより攻撃を開始します。エンデは自分と家の完全防御。ルードは樹海内に侵入した敵の殲滅。あ、なんならアレクを呼んでも構わないわ。ただし正体を隠してもらってね。私はパレストのリューの所へ!――戦闘開始!!」
号令一下。樹海と家は彼らに任せて、私はリュースの許に転移した。
もう息切れなんてせずにすんでますが、精神疲労が蓄積されて肩コリが激しいのなんの。
パレスト王城の上空に現れた私を、すぐにリュースの目は捉えたようだった。
あの紅い眼の威力は、本当に凄まじい進化を遂げ、肉体的な能力だけでいえば私より優秀だ。家に来た頃の彼しか知らない人が見たら、今の彼を同一人物とは思わないだろう。それくらい衝撃的な変化だ。
なんせ、アレクですら脱皮と言い放ったくらいだからね。
空中に滞空する私と、同じ高さに浮かぶリュースともうひとりの男。
見た目は、私やアレクと同年代の男性なのは判ったが、リュースとはどんな関係なのかが思いつかない。いつ、どこで出会って一緒に居るのか。
「リュー、ここで何してるの?」
「アズこそ、なんでここに?」
リュースが本当に不思議そうに私に問いかけ、ゆっくりと飛んで近づいてきた。
「今ね、樹海にここの暗殺部隊が大量潜入してきて、リリアと神獣お爺ちゃんを捜索してるのよ。それにね、一回目の捜索部隊を迎撃しちゃったから、ついでに私もお尋ね者になったみたい」
「なにやってるんだよ。で、ここには黒幕潰しに?」
リューの肩越しに、謎の人物が私に見えない触手を伸ばしてきた。それを軽く払いのけると、彼が驚きの表情を浮かべたのが見えた。
じっと凝視して牽制してみる。
「それもあるけど。ねぇ、あの人は誰?」
「ああ、彼はね、先代勇者だ。アズが探してたんだろう?」
え? だって、外見が違う。アレクの話じゃ、銀髪に碧眼の男って情報が。
【看破】
なーんだ。【偽装】していたのね。
彼の名は、グレンドルフ。すでに勇者の称号はついていないが、その代わりに英雄がついていた。
そして、職業欄には[狂戦士]が隠匿されている。
ええ? 『狂戦士』って職業になるの!? 私の『大魔導師』と並んで、それは職になるの!?
「ねぇ、英雄が狂戦士って、危なくない?」
「聖人が大魔導師ってのと、たいして違わないだろう?」
のほほんと返すリュースの肝の太さに、私は呆気にとられて彼をじっとりと見つめた。




