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新年あけましておめでとうございます。

今年も、どーぞよろしくお願いします。



 皆様、黒くて艶々テカテカした背中で、部屋の隅や台所なんかにカサカサ音を立てて動き、敵対するといきなりこっちに飛んできて恐怖に陥れるアノ黒いあんちくしょー! はお好きですか?

 私は嫌いです。

 大っっっ嫌いです。見るのも触るのもですが、名前を口にすることすら嫌です。


 ただ今、この樹海の中をソレに激似な格好の方々が、たぶん(魔女)を探してこそこそと捜索中の模様。


『ねぇ、あれはマントなの? ローブなの?』


 気配を消して葉の生い茂った枝に止まり、離れた枝上で身を潜めているルードに念話を飛ばす。

 捜索部隊は真っ黒な装備に身を包み、足音や気配を忍ばせてあちらこちらを行ったり来たりしている。その装備なんだけど、マントだと言われれば変わったデザインなのねで納得できる。でも背中に真っ黒な羽。二枚の花びらみたいな形のマントをフードの下に靡かせ、その下の装備自体も真っ黒だからまるでGのような有様。


『あれは空中を滑空するための装備だ。俺たちのように枝から枝へ飛び移るためのな』


 うわー! そのまんまじゃん! アレとそっくりじゃん!


『空を飛べないって……魔術師じゃないの?』

『術師は後で来る。あいつらは、いわゆる斥候だな』


 【看破】を使って正体を調べると、アレ似の連中はパレストの暗殺部隊らしい。斥候は十人ほどで、樹海内へと満遍なく散って調べまくっている。

 薄暗い環境を味方につけて木々の間を小走りしては身を隠し、腰を低くしてまた走り。幹を登っては枝を渡り、気配を探っては地上の仲間に指で合図する。

 絶対に、わあ忍者だー! とは言ってやらぬ! 我が故郷のプロフェッショナルたちと同等になんて見てやらぬ。


 展開しておいた【地図】を見て、後続部隊が駐留している樹海の入り口付近にルードを掴んで転移する。こちらは魔術師や魔法使いの一団らしいので、斥候連中より距離を取ってから【迷彩】を張って近づいた。


「――いまだに見つからんとは、本当に存在してるのか!? 魔女などもはや死滅したと」

「だが、地下牢に残された魔力の名残は、この樹海特有の気配に――」

「神獣を捕えておくなど、あってはならぬ所業だったのじゃないか? だから女神様が――」


 斥候の報告待ちらしく、武装しながらも焚火を囲んで雑談している彼らに嗤い、その内容の鋭さに感心し、上層部への愚痴に同意した。


『ルード、どっちを生け捕りにしに行く?』

『俺は向こうの連中を』

『では、私はこっちね。一網打尽にしたら、”外”に用意しておいた檻の中に入れておいて。放り込めば勝手に逃亡不可になるから』

『了解した』


 ルードの姿が消えたのを見届け、私はそろりと焚火へと寄っていった。

 

 昼間でも薄暗い樹海の中は、じっとしていると今の時期は肌寒い。焚火にあたりながら斥候が戻ってきて、樹海奥の状況報告してくれるのを待っているんだろう。魔術師となれば範囲索敵くらいは展開しているだろうから、魔獣の接近に関しては余裕で迎撃できると思って。


「こんにちはー。今日は少し寒いわねー」


 彼らの横に腰を下ろし焚火に手を翳して暖まりながら、そこで【迷彩】を解除して軽く声をかけた。

 瞬時に飛び退って距離を置くところは、さすがは裏の部隊だわ。魔術師とはいえ、いや、魔術師だからこそ接近されることを警戒して対処を身につける訓練をしているんだろう。


「なっ、なんだ!? お前は!」

「なんだって、あなた方がお探しの地下襲撃犯ですよ?」


 緊張高まる場所でのんびり答えた私に、彼らは間髪を入れずに攻撃を開始した。

 いくつかの火の矢は僅かな動きでかわし、焚火に飛び込んだ風の刃と火球は大木の枝に飛び移って距離を置いた。

 空気と炎を加えた焚火は当然のこと暴発して、火のついた薪が四散する。飛んできた薪を蹴り下ろし、それを反射的に腕を上げて避けようとしたひとりに【氷華】をぶつけて氷の世界へご招待。一瞬の内に氷漬けになった魔術師は、詠唱できずにオブジェと化している。

 私の隙を狙って風の枷を撃ってきた相手には、障壁で叩き落すとそのまま【暴風(小)】を返して黙らせた。


「こんなところで火に風を使ったらどうなるか、頭が悪いったらないわ!」


 彼らの相手をしながら消火に勤めていた私は、またもや火魔法を使おうとした魔術師を睨み据えた。

 その時、樹海の奥から地表を揺るがすほどの爆音が響いた。

 ルードが戦っているのだろうと見当がついたが、それを知らない魔術師たちは一瞬それに気を取られ、発動詠唱が疎かになった。


「眠りの蔓よ。樹海に仇成す者を捕えよ 【誘惑(アルラウネ)の縛り手】」

 

 私の一声で、周囲の樹木から緑と紫のまだらな蔓が勢い良く伸びてくると、残った魔術師たちを有無を言わさず拘束する。口と手を押さえられては何もできなくなる彼らは、その時点で勝負がついたことを自覚したようだった。

 後は、自害されては面倒なので大人しく眠っていてもらう。

 纏めて檻の中へ、転移でぽいっとしておいた。



 さ、お次は尋問です。

 荒野の端っこで、真っ赤な柵に囲まれた正方形の檻の中に、黒い奴らがぎゅーぎゅーに詰まってます。

 できれば真っ赤な屋根のお家形にして、床にねばねばでも敷いておけばよかったかな? とも思ったのだけれど、そこから先を想像して即却下した。


「さて、アンタたちはあそこへ何をしに来たの? 犯人抹殺? 逃亡した神獣を捕縛?」

「我らを何だと思っている! 死にたくなくばここから出せ!!」

「女神様に仇成す魔女め!」


 人が優しく質問しているのに、こいつらまったく聞きゃーしねーし!! 黒い奴らが喚きながら檻の格子を掴んで揺すったり叩いたり蹴ったりと、うごうご忙しそうだ。


「そーですか。回答拒否ですか。分かりました。それなら――えいっ!」


 ♪なにがでるかな? なにがでるかな~♪【浮遊】【暴風(中)】


 巨大サイコロ(状の檻)がころころ~っとね。いや、ごろんごろっごーんごろ、かな?

 ぎゅうぎゅう詰めだから、中であちこち転がってぶつかることはないし、割と安全かなと考えていた。のだが、逆さになって止まったのを見て、何人か逝ったかな……と思わず青くなった。

 檻の中は阿鼻叫喚の地獄絵図。


『……鬼畜』


 ルードが、樹海の際から全身の毛を逆立ててこちらを眺めていた。


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