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 緑の王との謁見を終えた日から数日後、自宅に戻った私はメルディ氏の助言に従って旅立つ準備をしていた。

 その間にリリアは神獣お爺ちゃんとリュースをお供に妖精大陸へ何度か向かい、思いのほかスムースに妖精たちと慣れ親しんでいった。

 予想外だったのが、神獣お爺ちゃんが妖精大陸をとても気に入り、移住を希望したことだ。


 初めて見る神獣に緑の王自ら会いに現れ、初対面から妙に気が合ってお酒を酌み交わす仲になった。お爺ちゃんが、何げなく「ここは住み心地がよさそうだのぅ」と言ったら、「来ればよい」と応じてくれたのだそうだ。

 どんな話をして気が合ったの? と訊いたら、最初から終わりまでリリアの話しだったと。

 うふふ。リリア姫ったら、ジジィキラーなんだから~。


「ぬしさまも、いっしょにいってくれるの?」

『そうじゃ。リリアと一緒に向こうで暮らそうぞ?』

「はーい!」


 行け行け! ジジィ二人に溺愛されてろ!

 そんな二人の可愛い会話を聞いて、リュースとルードがニヤニヤしていた。


「ルードは行ってみたいと思わないの?」

『俺が行っても暇を持て余すだけだろう。ここが一番の楽園だ』


 着々と身辺整理が進む。

 本音をいえば、リュースも安全な場所に避難して欲しい。ここはエンデの神域結界内だけれど、ここから一歩出たら危険この上ない。

 ましてや、相手は大量殺人なんて屁でもない鬼畜だ。籠城戦になったら、結局は【空間門】で拠点へ逃げるしかない。それならいっそのこと先に避難しておいて欲しいのだけれど。

 でも、リュースは逃げないわよねぇ。初めは私の関係者でしかなかったのに、今は被害者一族の子孫になっちゃったしねぇ。できるなら仇を討って、汚名を雪ぎたいだろう。


 とりあえずは、もう一つの大陸へ行こう。

 あの口ぶりじゃ、きっとこの世界に関する重要な秘密が隠されている場所なんだろうね。


「それでは、行ってきます! リュー、留守番お願いねー。それと監視も!」

「了解! いってらっしゃい。何がでるか分からないんだから、気をつけて」

「はーい」


 リリスを真似て手を上げ応える。

 それに苦笑しながら、【空間門】の前で手を振って見送ってくれた。


 

 私の出発は、妖精大陸の【空間門】前から。わざわざお家から飛んで行くのは、時間の無駄だしね。

 びっくりするほど大きくなったエンデの本体と、【空間門】の観察に余念がない学者タイプの妖精たちに手を振って、【飛翔】と唱えて上昇する。

 後は体全体に【障壁】を纏わせ、猛スピードで一直線に目的地へと向かった。水平飛行で気分はスー〇ーマンだ。


 高高度から見下ろす海は、青や緑の濃淡色が混じり合い、島とまでは言えない岩礁に魔鳥の群れが止まっているのが見えたり、水中を巨大な影が進んで行くのを見送ったりと退屈せずにすんだ。


「あー、あそこで海水浴したいー」


 なんで、こんなことになってるんでしょうかね!?

 当初、自分が魔女だと知った時は驚きはしたけれど、これで楽に生活できると喜んでいたのよね。

 初めて使う魔法を楽しんで、あちらの世界にはなかった薬草で薬を作って売ったりして、のんびり暮らしながらたまに旅をして世界を回ればいいかなーと計画していたはず。

 そして、まとまった時間ができたら帰還魔法陣について研究しようと。

 リュースを拾った時だって、一人前の薬師に育て上げ、コーヒーで生活を安定させて、しっかりと独立基盤を作ってあげようと思っていただけだのにな。

 でも、現状はこれだ。


「好奇心は猫をも殺すって言うけれど、私の探求心は私のスローライフを殺したかぁ……」

 

 今更後悔はしてないけれど、なんだか複雑な物事が早く進み過ぎる気がして、アラサーとしては気持ちがついて行かないっていうか、精神がすんごく疲れて回復が遅い。

 あー、きっついなー。やだやだ。


「あ、あそこだ」


 思いのほか近かった。うだうだ考えながら猛スピードで飛んだからか、半日ほどで目的の大陸が見えてきた。

 妖精の大陸は、遠くから見ても緑濃い大陸だった。でも、ここは薄っすらと黄土色の線にしか見えない。ああ、地上が見えて来たなって程度だった。近づいていっても横に長い線にしか見えないってことは、話の通りに隆起した地形も動植物もない平らで不毛の地なんだろう。


 陸上の様子が見えるまでに近づいたところで、スピードを落としてゆっくりと大陸の中央へと向かった。

 見回せば、そこは本当に何もない土だけの地面が広がっている。そして、大きさもア・コール大陸の1/3ほどしかなく、中央上空で停止すると大陸の端がぐるりと見渡せた。土だけで出来た不定形の板が海上に浮かんでいる様なものだった。

 その中央に、件の神殿跡らしき風化し崩れた建築物が見て取れた。少しだけ降下して索敵し、離れた場所へと降り立った。


「だーれもなーんにもない……」


 大きい声で独り言を漏らしてみたが、なんの反応もない。

 一歩足を出し、そこでようやくここが不可解な場所だと気づいた。

 風が吹いていない。この小さな大陸には海風を遮るような山も森もないのに、だ。

 空を見上げれば、青空が広がり太陽と呼んでいいのか判らないが、似たような恒星からの陽がさんさんと降り注いでいるし、上空には薄い雲も浮いている。

 なのに、まったく風がない。足が舞い上げた土がすぐに落ち着く。

 私は、何かに急き立てられるような心持ちで、神殿跡へと一目散に走った。

 走って走って――周りは崩れているのに、そこだけは滅茶苦茶不自然なほど綺麗な石の扉の前で立ち止まった。


《許しを持つ者だけが触れよ》


 扉の中央に刻まれた古の文字に従い、指輪をした左手でそっと扉を押した。


 その瞬間、私は意識を失った。


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