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「ほほう、我らが姫を檻の鍵なぞに……人族はなんと愚かなっ」


 般若な美人と阿修羅な美男が放つ怒気をあてられ、私たちにはとても居心地が悪い思いをしている。なんとなく視線を明後日の方向へ向け、目を合わせないようにしたい…したい! のに、したら瞬殺されそうで怖い。

 ごくりと唾を飲み込んで、脳裏を巡る語彙からこれ以上彼らの感情を逆なでしない選択する。


「え、ええ……。そこで彼女の妖力が使われていたのかしら? と思いまして……ハイ」


 これに『隷属の首輪もされて~』なんて言ったら、私たちはどうなるんだろうか。


「それは無理でしょう。妖力を持っておいででしたが、体外へ発現させる方法を知ったのは先ほどだったご様子。強制的に引き出されたりしておりましたら、すでに感覚として知っているはずですから」

「でも、彼女に魔力は感じられませんでしたが?」

「多分ですが、妖力を引き出そうと試みたが無理だった。なので、魔力を持たせる、あるいは回復させる薬でも使われていたとか……」


 そこまで言われて、はたとリリアの告白を思い出した。

 確か彼女は『あかいみずを』と言っていたじゃないの!


「ああ、それでしたら、リリア姫がそれらしいことをお話ししてくださいました。「あかいみず」を飲まされた後……()()()()にされたと」

「……万死に値しますな!」


 憤懣やるかたないといった風情で、グリア氏とメルディ氏は鼻息荒く断じた。

 私も同意だ。

 さて、今度はこちらからの確認事項だ。


「それで、率直に伺いたいのですが、彼女をそちらで受け入れて頂けますか?」

「当然です! 我々にとっては初めての姫様ですから!」


 怒り冷めやらぬ状態で、メルディ氏は身を乗り出して訴えてきた。

 初めの無表情が嘘みたいだわ。

 私たちは、そこで少しだけ肩の荷が下りたのを感じてほっとした。

 しかし、初めての姫って? 王様にはリリアの母親以外にも何人かお子様がいる様な言い方をしていたような……。お孫さんは、男子しかいなくて孫姫欲しい~と思っているのかしら? まぁ、大事にしてもらえそうなら心配無用か。


「良かった……半人半妖ということで、もしかして受け入れは無理かもと考えていましたので。本当に良かった……」

「ただ……今すぐは、無理でしょうな」

「ええ、彼女がこちらに慣れるまでは、移住は少し先と思っております。でも、なるべく早くと」


 腕を組んで話していたグリア氏が、私の最後の物言いに片眉を上げた。

 先に事情を話しておいたほうが、のちのち何かが起こった場合の対処をスムースに行えるだろうと思い至った。

 

「実は――」


 二人の妖精族に促され、私はリリアを助けた件からそれに関連する外道とその関係者について、端的にまとめて話して聞かせた。

 それだけでも、彼らの表情が段々と変わってゆくのがわかった。


「――という訳で、まだ魔女(わたし)の仕業とはバレてはいないでしょうが、相手は油断ならない怪物です。それがなくても、パレストの裏組織が来ないとも限りません。エンデが護ってくれるとはいえ、絶対の保証もできないのにリリア姫を側に置くわけにもまいりませんし――」

「姫様の安全が第一! それは、わかりました。だが、貴方がたは大丈夫なのですか?」


 メルディ氏の緑色の眼が、私とリュースを交互に見やる。

 たぶん、私よりもリュースのほうを心配に思ってくれているのだろう。しかし、密かに私の防具の端を引く、リュースの意思を無下にはしたくない。


「はい。私はもちろん弟子も有能ですから」

「それなら結構。大至急こちらも受け入れ態勢と末王女様の情報集めをいたしましょう」

「よろしくお願いします。こちらとしては、リリア姫が信頼を置いている神獣カーバンクルをお供に付けて、何度か行き来すれば慣れも早いかと。可能でしたら泊りがけで」


 お爺ちゃん子のリリアだ。私やリュースよりよほど信頼関係にある。

 彼がたえず一緒なら一泊二泊は心配ないかな。たとえ不機嫌になってぐずってもすぐにお家に戻れるし、エンデもフォローしてくれるでしょう。

 ただ、私が神獣の名を出した途端に、二人は微妙な表情を浮かべた。

 今度は私の方から、それを促す。


「……神獣カーバンクルと言えば、確か雑食だったはず。アズ様もお気づきかと思うが、我々妖精族は食事と言えるほどの欲求はなく、口にしても果実か茶の類です。そして、この大陸には魔物や大型獣はおりません。そうなると、神獣に来ていただいても食料になるような……」

「そこはご心配には及びません。こちらから持って行かせますし、リリア姫も半人ですからその分も配送します。足りない様なら、すぐに帰れますしね」

「それなら、不安はありませんな!」


 これで、一番重要な話し合いは終わった。

 話し合いが良好に終わったと実感した四人が、いっせいに安堵の溜息をついたのには全員で笑った。それをきっかけに、いっきに和やかな雰囲気になった。

 それからは、リリアが目覚めるまでの時間を使って、この大陸と人族との歴史について聞かせてもらった。

 以前に聞いた大昔の人族側の占領軍の船隊に関してだけれど、あれは妖力で張った結界で上陸させなかったのだそうで、魔術師隊がバンバン攻撃してきたが、びくともせずに終わったのだそうだ。それでもあきらめず、大陸の周りを探索し始めたが、嵐にあって大破し沈没。

 そんなことが2・3度あったきり、来なくなった。


「流れ着いた人族などは、いなかったんですか?」


 リリアに関しての話し合いではじっと黙して語らずだったリュースが、雑談になった途端に興味深げに色々と質問を繰り出した。

 領主と側近ペアも、人族側の情報提供もあってか機嫌よく答えてくれていた。


「この大陸の周辺は、海中は水の妖精が、上空は風の妖精が、異物の流入を阻止しておるんだ。万が一漂着しても今度は我々の結界に阻まれる。まぁ、今までに一度もないがね」

「凄い……」

 

 だから、私も一つだけ気になる点を尋ねた。


「一つ気になったことを伺いたいのですが、こちらではア・コール大陸を『女神の大陸』と呼んでいるようですが、それはどういった……?」


 その一言で、にわかに二人の顔色が変わった。


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