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 案内された場所は、最上階の展望台のような客室。いや……たぶん客室なんだろーなーって感じの、二間続きのこじんまりした部屋。

 中央には例の透き通った根っこで編まれたテーブルと椅子があり、「どうそ」と勧められて腰を下ろした。

 藤製椅子のように固い感触かと思いきや、それはとてもソフトに腰を包み、慣れない姿勢で謁見していた体にはとてもありがたかった。

 ふー。楽チン楽チン。


 テーブルにはすでに軽食とお茶が用意されており、労わりの言葉と共に勧められ、初めて目にする果実や食事に興味を引かれて口にしてみた。

 緊張のあまりすっかり夕食のことなど忘れていて、食事を前にして体がやっと空腹を思い出した。リリアは、ケーキの様な果実で飾られたパンを食べ、美味しさに頬を押さえて目を白黒させていた。

 私は謎のグラタンの様な料理を一口。黄色い部分はカボチャかお芋で、黒い部分はベリー系のコンフィチュール。それを重ねて焼いたものらしい。こってり甘くて脳と体の疲れに効く~ぅ。お茶はハーブティよりも飲みやすいお味で、甘味に合うさっぱり感。


「美味しい……」

「うん……」


 夢のような幻想的な部屋で食べる、頬が落ちそうな美味しい食事。

 あー……旅行で来たい!!

 三人ともに黙々と食べ、最後にお茶を飲んだ時には満足の吐息。


「お口に合いましたかな?」

「はい! それはもう! お土産に持って帰りたいほどの美味でしたわ」

「ははは、それはそれは……」


 私の率直な感想に、グリア氏は楽しげに笑った。

 私たちの食事が終わった頃、一人の男性が現れた。それと同時に、女官のような女性たちがテーブルの上を片付け、お茶を入れ直して去って行った。

 男性は、グリア氏よりやや年下に見える文官タイプの方で、細身で長い銀髪をきっちりオールバックにして後ろでまとめ、やはり美しい容貌ながら無表情で固いイメージが際立つ人だった。これで眼鏡でもかけてたら、デキる男って感じかな?


「初めてお目にかかります。私は王の側近を務めさせて頂いておりますメルディと申します。以後お見知りおきを」

「魔女のアズです。こちらこそよろしくお願いします」

「さて……おや? リリア様はおねむでしょうか?」


 メルディ氏の声に横を見ると、私とリュースに挟まれて座っていたリリアが、半眼でゆらゆら揺れながら眠気と戦っている最中だった。

 おお、分かるぞー。この椅子の座り心地の良さは、愛用のカウチに通ずるものがある。美味しい物でお腹も満たされたら――。


「シェル、リリア様を隣室へ。少しだけ扉を開けておいてお休みさせて下さい」

「給わりました」


 メルディ氏がここへ案内してくれた女性にリリアを頼むと、彼女はそっとリリアを抱き上げて隣室へと入って行った。それを見送り、騒ぐことなく寝入ったのを確かめてから、再度向き合った。


「では、リリア様の今後についてお話をいたしましょう」


 そう話し合いの開始を告げ、メルディ氏は妖精族側の事情を話し出した。


 この大陸を、彼ら妖精族は《太古の大陸》と呼び、4つの種の妖精が共に協力し合って暮らしていると語った。

 大陸のほとんどを一番数の多い緑の妖精族が占めていて、主要な管理を任されている。というのも、樹や植物のすべてが緑の妖精族の管轄であり身内であり一族なのだそうだ。

 人族のように決められた国土の中で生活を営んでいるわけではなく、樹や草が一本でもあればその根が這う範囲は緑の妖精族の管理下になる。

 水の妖精族は、川や湖や泉と地下水脈を。雨が降ればその一粒一粒を。水溜まりができればそこを。

 火の妖精族は、火山とその地下の溶岩流を。

 風の妖精族は、北にある岩山の渓谷を溜まり場に、風の吹く上空を。

 つまり領土の大きさではなく、自然の事象によって活動範囲が変化するのは当然のこととして生活している。


「ゆえに、この大陸のほとんどを緑の妖精族が占めているわけです。とはいえ、自然の摂理と同じく他の妖精族が欠けては一大事。水がおりませんと我々は生活がままならず、水は火がおりませんと雨になることもなく海へ押し流されてしまう。それを押しとどめているのが我々緑の者。そして風がおりませんと、我々も水も隅々まで快適な営みを育めません。こうして大陸の中で我々は循環しております。ですので、争いはなく外からの物は必要なく、王とその手足となる側近と領主のみで、長い年月を過ごしております。この大陸は、妖精族の地なのです」


 とても分かり易い説明だわ。各々の役割分担のみに価値を見出した生活。それ以外を欲することはなく、自然のままに。


「有体にいえば、妖精族とは人族と全く異なる者たちと?」

「ええ、生態もですが肉体的にもですね。そして、持つ力の種類も」

「それが、妖力と……」

「はい。人族の持つ魔力と違い、妖力とは自然の力を樹木(本体)に集め溜めこんだ素力です。それを現象に移すのは魔力と同様ですが、その現象の一つが我々のような人化になります」

「でもリリア姫は……長らく地下に監禁されていました。ですが、本体らしき植物は見当たりませんでしたが、先ほどグリア様はリリアの中に妖力がと……」

「それは、姫様が半人であるせいかと思われます。人族は魔力を体内に溜める臓器がある。それと同じように妖力を溜める臓器をお持ちなのでしょう。本体もいらず、人族と似た生身を持ち、そして妖力を集めて溜める者」


 そうか……だから私にはリリアが魔力無しとしか感じず、触れたことのない妖力を見つけることはできなかったんだ。

 なら、あのパレストの魔術師たちは、リリアが半妖だと知っていて妖力を奪っていたのかしら?


「妖精族の妖力に関しては、一部の人族には知られていることなのでしょうか?」

「と……言うと?」

「リリア姫が捕らえられていた理由ですが、私が彼女を見つけた時、彼女は囚われた神獣の檻の鍵の代用になっていました」


 う~ん。詳しく話すのは厳しいなぁ。

 私が詳しく話すことによって、彼らの中に恨みや怒りを植え付けてしまったら。それに、今の時点でまだ解決していないリリアの両親の行方。

 これが人族のせいで最悪の結果だった場合、リリアに対する仕打ち以上の怨嗟の声があがるんじゃないか不安だ。

 結果、海を越えての諍いになりはしないか。考えると怖い。

 実際、要点のみの説明ですら、目の前のメルディ氏は表情を変えた。

 美人の怒り顔は般若だ。


「ほう。妖精族を檻の封印に……ですか?」


 性別不明の美しい美貌の唇から、ドスの効いた低い声が漏れた。


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