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「お家君、リリアの一族を知ってる?」


 まずは、いちばん頼りになる相手に尋ねてみる。

 同じく妖精族の仲間だし、ご両親のことは知らなくても魔境大陸や妖精族に関する知識を持っているはずだ。


 ――知っているよ。緑の妖精族だ。僕と同じ一族だね。ただし、僕は大昔に嵐に巻き込まれてここに飛ばされ根付いたから、それきり故郷には帰っていないんだよ。だから、現在の状況はわからないよ。


「そうかぁ……。ご両親は、魔境大陸にいるのかこっちにいるのか、どうなんだろう。もしかしたら亡くなって……ん~」


 ――妖精族は、本体からは離れて生きられない。小枝に魔力を送り込みながらの移動なら2・3年は大丈夫だけど、それ以上は無理。本体が枯れてしまえば、僕らも消える。


「なら、両親でこちらにってのはないかぁ。そなると、やっぱり大陸に行ってみるしかないかなぁ?」


 ――行くなら、僕が案内するよ?僕も帰ってみたいし……。


「おお! それなら、まずは私達だけで探索に行って、事情を話してみるのがイイかしらね」

『儂もいってみ――』

「お爺ちゃんにはリリアの世話をしてもらわないと。それに養生もね」


 私の即答に、神獣お爺ちゃんは耳も尻尾もへなりと垂らしてしょげた。

 だってさ、前人未到の魔境だよ? そんな所に魔獣を連れて入って行ったら、妖精族側からしたら即敵認定だよ。

 それでなくても、ろくでもない行為をした事実があるってのにさ。

 お爺ちゃんを優しく撫でて慰め、頭の中でいろいろと予定を立てていた。

 がさりと近くで草を踏む音がした。顔を上げると、収穫したココの籠を持って立つリュースがいた。


「僕も行く! いつもルードかアレクばっかりと行ってさっ」

「あらら、アレクみたいなこといってぇ。営業と卸しはどーすんの?」

「【空間門】で繋げてもらえばいいよ? アズだって、そのつもりだっただろ?」

「それじゃ、気晴らしも兼ねて行きますか!」

「……うん」

 

 気分を変えるためにって考えを私に見透かされ、リュースは口を尖らせながらも頷いた。

 そんなことで不服そうに膨れたって、お姉さんには可愛いくみえるだけだぞ。


 集めた資料で調べ出さなきゃならない疑問は、まだまだたくさんある。

 神子の召喚術が壊された経緯や、大国にだけ召喚術を渡したのは何故なのか。

 そして、消滅したはずの女神やいなくなった神の《愛し子》と別名を持つ者が、いまだ召喚されるのは何故か。

 ただの二つ名? それとも本当に神の力を使っているの?

 それに、また新たな疑問も沸いて出てきた。

 あの外道の本当の称号は、『聖人』なのか『大魔導士』なのか。何故、女神や神は、あんな外道の召喚を許したのか。

 そして――私の称号が何を意味しているのか。

 前半はともかく、後半は資料集めも糞もないね。これらは本人に会って訊くしかない。外道と女神様にね。


「……お爺ちゃん。パレストには今でも聖人召喚の陣はあるの?」


 もふもふ爺ちゃんは私の頭から梃でも動かず、そのまま移動しても乗っかり続けている。なのに、軽いのは、ジジィだからかしら。まだ体調が戻っていないから?


『パレストには聖人の召喚陣は残っておらん。彼奴(きゃつ)は、己を呼んだ陣を弄り回して、別の者を呼ぶ陣を改造しておったからのぅ』

「やっぱりかー」


 自分以外の聖人だか大魔導士だかを、再度召喚されたら困るもんね。

 仲間になってくれるならいいだろうけれど、敵に回られたら大変だ。あんな外道はそうそういないだろうし。

 それに、どうも奴は自己顕示欲や認証欲求が強いタイプみたい。自分より強い者の存在が許せないとか、強く賢い自分を崇めて欲しいって性格だわね。


「じゃあ、その改造召喚陣は?」

『少し前まではあったが、今はすべて消滅しておる。誰じゃったかがのぅ、部屋ごと壊して行きおった』

「はぁ!?……誰?」

『覚えておらん』


 ナイスだ、誰か! ざまぁ、パレスト!


 閑話休題。

 魔境大陸遠征に話しを戻すが。

 今回の遠征は、可及的速やかに進めなければならない理由がある。

 まず、リリアの身元捜査が最優先事項。人族が父母のどちらか分からないけれど、さすがになんのヒントもなしに、大陸中に散らばる人族の中から探すのは無理。となると、妖精族にお伺いした方が早いんじゃないかってことで、大魔境へとなった訳だが。

 乳児期に誘拐された(だろう)子供を、親は血眼になって探しているだろう。もう6年だもん。だから、さっさと親元に帰してあげたい。もしも、両親がなんらかの事情で亡くなっていた場合、それでも妖精族へ渡してあげた方がいいのじゃないかと。

 だって、私たちには妖精族に関する知識がまったくない。お家君こと『大樹の主』はいるけれど、彼には妖精族と人族のハーフの子供を養育する知識はない。食べ物や習慣――病気になっても、人族と同じ治療や薬でいいのか判らない。

 恐いよ。子供なんて、ちょっとの薬が劇薬になる場合もある。

 そして、いつ来るか分からないパレスト及び不老不死の魔導師の、魔の手から逃れるため。あの外道が、逃した魚を無視するわけないし、こっちはリリアが急所になってしまう。

 だから、急いで向こうへ行って話をつけないと。


「まずは三日。その間だけは、ルードとお爺ちゃんには頑張ってもらいたいの。あっちに着いたら安全な場所を見つけて、すぐに【空間門】を繋げるから」

『三日で大丈夫かのぅ?』

「う、うん。がんばる! リリアのために!」


 リュースと野菜の収穫をしていたリリアは、自分の名が聞こえたのか手を止めて振り返り、私が腕を振り上げているのを見て自分も拳を掲げている。

 皆で爆笑した。

 ああ、かわいいなぁ。



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