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 妖精族の幼女の正体はわかった。

 半人半妖なんて不思議な人種だったことが原因で、神獣カーバンクルのお爺ちゃんと一緒に監禁されてたのも理解した。

 しかし、これだけじゃリリアリスティリアがどこの誰の子か分からない。

 もう一度、家探しに行かないとかなぁ?

 さもなくば、パレストの魔術士を取っ摑まえてちょっとお仕置きして聞き出すとか?

 それにだ。妖精族って種族がいた事実に驚いた。

 こうなると『森羅万象』の称号は、一体何を指して私の称号の冠になってるのか判らない。

 森羅万象の意味は解るわよ? この世を含めた宇宙の中の、ありとあらゆる事象現象のことだよね? だから、理に接触したりオリジナルに近い魔法スキルを生やしたりできる。

 でも、魔法に限ってってのはどうよ? 称号にまでなって自称するなら、この世界のことくらい知っていなきゃならないんじゃないの?

 魔女の知識は歴代の魔女たちの物で、その歴代は森羅万象なんて冠はついてなかった。その魔女たちの叡智が集まったからって、森羅万象と称するにはあまりにも不完全だ。

 こんな冠がついてるから、私は今の今まで勘違いしていたんだ。

 魔女の叡智には、魔女の基となった女神様の知恵まで含まれているんだと。女神様個人の記憶はないが、知恵や知識は魔女たちに分け与えられていて、その集大成が今の私の中にあるんだと勘違いしていたんだ。

 あああ!! 何度思い違いしたら私は自覚するんだろうか。

 魔女は、女神様の末端機器でしかなかったと。指示は貰えても、それ以外は与えられていないと。

 それもこれも『森羅万象』が悪い!!


「なんだか、恥ずかしくなってきた……」

「いきなりどうしたの?」


 がばっと身を伏せて土下座状態になった私に、焦った声でリュースが尋ねて来た。

 赤面してる顔を上げられない。


「知らないことばっかりでてきて……森羅万象の魔女なんて自称してた己が恥ずかしいっ!」

『まぁ……確かにな』

「まだ、魔女たちの下さった知恵や記憶が馴染んでないだけかもしれないよ?」


 くぐもった声で言い募った私の背中を、暖かな手がさすって慰めてくれる。

 リュースの優しさに泣きそうだ。お姉さんなのに!大人なのに!!



 自分の正体まで謎になった『森羅万象(仮)の魔女』ことアズです。もうすぐここへ召喚されて一年が経ちそうで、五月生まれの私はすでに28になってる気がするアラサーです。

 あの後、凹みに凹んでしまった私は、ルードとカーバンクルのお爺ちゃんの勧めで入浴して就寝した。リリアリスティリアことリリアちゃんは、お爺ちゃんから離すのは無理だってことで、彼と共に暖炉の前に寝具を持ち込んでお休みさせた。ご飯は、お爺ちゃんの勧めでやっと食べてくれ、持って来たリュースに「おいしい…」と初めて笑顔を見せてくれたそうだ。ぐぎぎっ!妬ましいっ(涙)

 翌朝、まだぐっすり寝込んでいる二人をそっとしておくために、私達は朝食を持ってツリーハウスへと移動した。

 まだ一日しかたっていないからリュースの作業は始まったばかりで、テーブル上に紙の山が複数立っていた。リュースの説明に耳を貸しながら朝食を開始し、所々で提案を挟んで最後のお茶の頃には手順が決まった。


 さて、と立ち上がった時いきなり窓からアレクが顔を出し、驚いた弾みに私はコーヒーを零し、ルードは変化が解けかけ、リュースに至っては反対の窓から飛び出しかけて墜落しそうになった。当然のように3人はアレクを責め、着いた早々にボコボコにされた。ノックを知らんのか!馬鹿者が!

 なのにだ! このクソ野郎は!


「なんだ? あのガキは。俺とアズのk、うがっ!!」


 冗談にも程がある。キモチワルイどころか気色悪いわ!渾身の空気球を喰らって、彼は遠い場所へと飛んで行った。

 そんなアクシデントを挟みつつも作業開始とばかりに、山になった紙の山を上から手に取った。

 始めにするのは、年代分け。初代魔女の時代あたりから国ごとに分けて行く。ルードは字を読むことはできないから、覚えのある年代にあたる不明な情報の確認を。

 小山が次々と並んで行き、ボロボロのアレクが戻ってきた頃には、初代の勇者召喚に関する事項がでてきた。


「帝国の文書か。……初代勇者が大魔導士と共に召喚の方陣を?」

「それはいいから、作業の邪魔すんな!」

「俺にも手伝わせろ!」

「アレク、これは何て読むの?」

「こりゃーええと、『山の民よりも谷の民の――』か? なんか、調べていたようだな……いや、こりゃ魔術の実験結果か?」

「それは、この辺りね。同じようなものがあるわ」


 あちこちに散らばるワードを揃え、それを年代順に並べ……整理中にも関わらず、朧気ながら見えて来るものがちらほらあった。微笑ましい物ならいいけれど、そのどれもが心に刺さり胃の辺りが重く冷たくなって行く。隣りで手を動かしていたリュースも、段々と顔色が悪くなって行き、時折長い間に手が止まったりした。


「……一休みしましょ。リリアちゃんの様子もみたいから、母屋へ」


 この部屋に、長い時間いられなかった。

 複写した紙は私が創った新品なのに、一枚開く度にどす黒い気配が漂う。幻だって分かるけれど、それくらい空気が悪くなる。まるで呪いの様に。本当に呪いのある世界で、文章を読むだけで発動してるんじゃなかと疑いたくなる。

 申し合わせた訳じゃないのに、デッキに揃った私たちは美味しい空気を肺一杯に吸い込んだ。深呼吸は、肺に残った二酸化炭素を排出するだけじゃなく、肺を膨らますことで胸筋・腹筋・背筋を動かす。疲れと凝りの溜まった体から、悪いモノを全て散らせる。そして、足音を忍ばせて居間へと入った。

 もっふもふに埋もれて眠る、銀髪の妖精さん。

 こんな可愛い子を電池代わりにするなんて! それだけで、有罪だ!


「パレスト……ぶっ飛ばしたい!」


 高笑いしながら焦土と化したい! そうしたら、現れるかな? あの糞坊主!あ、もしかしたら私より年上かな?ふひひ。

 作業の途中で2人の付き添いを頼んでおいたルードが、私を胡乱な目で見上げた。


『心の内が漏れとるぞ……』

「今、皆の代弁しただけよ」

「それより腹減った」

「頭使ったもんねぇ。めっずらしく?」


 気分転換がてら久しぶりに台所に立ち、軽食を作った。いつもは、軽食ながらお肉もたっぷりな料理が並んだが、今日はそんな気分じゃない。事によっては、この後に再開する作業中にマジで食事を戻しかねないかも知れなかった。それくらい胸糞悪い記述がバリバリ出て来るのだ。

 お爺ちゃんとリリアの事も考えて、消化の良いポタージュスープと野菜とひき肉をパテにしてパンに挟んだサンドイッチにした。お供はコーヒーか果実ジュース。


「はーい、起きて―。ご飯だよー。」


 リュースがリリアたちの分をトレイに並べて運んでくれる。それを見送って、食堂のテーブルに私たちの分をどかどか並べた。先に食べだしたアレクが、ポタージュを飲んで満足の吐息を漏らす。


「うめぇ……胃があったけぇ」


 スプーンを動かしながらも鳩尾を擦って呟いた。無神経な男でも、さすがに影響があったようだわね。

 戻って来ないリュースの分を居間に運んでやり、甲斐甲斐しくリリアの食事介助をしている光景に心和ませた。お兄ちゃんと妹かぁ。

 そっと側に近づいて腰を下ろし、大きく見えてしまうスプーンからポタージュを啜るリリアの顔を覗き込んだ。


「美味しい?」


 片手に小さく切ったサンドイッチを持って、リュースの差し出すスプーンのポタージュを飲む。それからやっと、私ににっこりと笑顔で頷いてくれた。

 私の笑顔も彼女の瞳に映っていた。


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