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 ながーい旅をグランバトロの王都で終え、とっとと家へ転移で帰ってきた私は、ツリーハウスに広いローテーブルを設置して、その上にドカドカッと集めた資料を積み上げた。

 広さ三十畳ほどの部屋の中が、あっと言う間に狭くなる。先に戻っていたリュースとルードは、それを見て何ともいえない顔で眺めていた。

 基本はコピーのように一枚の紙に転写されているけれど、巻物からの転写は同じくながーい紙にそのまま写しておいた。楔文字に類似した文字から、それを崩して現在の大陸共通文字に埋まったさまざまな紙。紙の塔に巻紙のピラミッドの完成だ!


「……ここに、今度はロンベルドとグランバトロの分が積まれるんだよね?」


 まだ何もしない内からうんざりした表情でリュースが尋ねる。わたしも同じ顔をしていると自覚があるから、文句は言わずに頷いた。


「それだけじゃないわよ。リューが持って来る《赤目の民》に関することや、ルードが他の神獣から聞き出してくれるだろう情報も加わるんだよー」

『俺もか……』

「当然でしょう? じゃなかったら、仲間に加えないわよ。嫌なら抜けて? のんびりお家君とお留守番してていいわ。《協定》契約であって、《隷属》契約じゃないんだから」


 私の言葉に他意はない。無理やり押しつけるつもりはないし、もとは無関係な事柄なのだから。そんなふうに軽く言ったつもりだったが、ルードは『いきなりの仲間外れ宣言』に慌てた。どうもそれは不本意だったらしい。

 小さい足を踏ん張ってすくっと立ち上がると鼻息荒く宣言した。


『俺の底力を見て、後で平身低頭するがいい……クククッ』


 と、目を細めて鼻に皺を寄せ、牙をむき出し含み笑いながら巨大化すると外へ飛び出して行った。

 それを見送ったリュースが、堪えきれずにお腹を抱えて笑いだした。


「アズ、人をのせるのが巧いよね? 人間不信だなんだって言うけどさ」

「う~ん……これは身内だからなんだと思う。裏表なく、遠慮なしに嫌なら嫌って言えて、それを嫌味なく受け入れられる関係だからね」

「なるほど……。だから、居心地がいいんだ。ここは」

「ところで、リューの方の収穫はどうだった?」


 パレストで腕輪を渡した後、ルードをお供に外へ出かける予定は聞いていた。

 幼い頃に年寄り連中から聞いた『昔ばなし』を記憶を頼りに、現地で《赤目の民》が住んでいた谷を探そうとあちこち歩き回っていたそうだ。

 乗合馬車を使って村々を渡り、伝説を集める学者の弟子を名乗って人々から語ってもらう。私がグランバトロの王都の酒場で使っていた手だ。

 その合間に、ルードが森や山に飛んで魔物や獣たちから情報収取して来る。

 いいコンビだわ。


「場所はだいたいの位置を割り出せたんだけど、ちょっと簡単には行けない所でね。アズに助けてもらおうかと思ってたんだ」

「ん? 道が険しくって行けないとか?――ではないよね? 風魔法を使えるんだし」

「そうじゃないんだ。谷へ向かう道の途中に封印が施されてて通れなかったんだ」

「それは――私の出番か!」


 頷くリュースを見やり、その真剣な眼差しにニヤリと悪い笑みを向けた。


「封印……ねぇ。どう見ても怪しいよねぇ?」

「うん。何かを隠してるって証拠だ。それで、その封印をルードに【鑑定】してもらったら、光魔法で何重にも封印が掛けられてるって」

「光属性の封印かぁ。《赤目の民》は使えたのかなぁ」


 なんだかイヤ~な気分になった。

 光属性の封印ってワードで、あの禁書庫の封印が脳裏に浮かんだ。


「……僕ら《赤目の民》の魔力とは違う、別の気を感じるんだって。それと同じ気を城からも感じたそうだよ」

「なるほどー。《赤目の民》なんて聞いたこともないってな話だったけれど、昔の関係者は情報の封印だけじゃなくって、現物そのものすら封印したようだねぇ。誰が誰に対して何を秘密にしたいのか知らないけど」


 それじゃ、そちらを先に解明しに行きますか。魔女に繋がるんだか無関係なんだか分からないけどねー。

 こうなると、《魔族》呼びされている人たちの成り立ちすら、なんだかでっち上げみたい思えてくるから不思議だ。


「ねぇ、リューがお年寄りから聞いた昔話の中に、自分たち《赤目の民》の成り立ちってあった? どんなに浮世離れした話しでもいいから」

「成り立ちって、どうして目が赤くて魔力の多い一族になったかってこと?」

「うん。今流れてる通説は、邪獣と同様に魔に侵されかけたけれど半転化ですんだ人たちが生き残ってって話だけれど……」

「小さい頃にさ、母に何度か聞いた覚えがあるんだ。なんで僕らは目が紅いんだって。でも母も祖父母も曖昧に笑うだけで……誰からも話は聞けなかった」

「そうなのかぁ。それだと通説通りってことにもなるんだよねぇ」


 皆にはまだ話していないが、私の中では聖人という人物は胡散臭さナンバー1に位置付けられている。

 しかし、召喚したパレスト関係者が語るならいざ知らず、《赤目の民》が密かに語り継いできた聖人のあまりにも真っ当な人柄が、私の中でおぼろげにできかけている聖人の人物像を否定する材料になってしまっている。

 パレスト関係者じゃない分、とても真実味があるせいで。

 本当に聖人は、旧パレストを助けて王子を戴冠させ、大聖堂を作り、王に助言を与え、巡幸先で《赤目の民》に目をかけて引き立てたりして戻って行っただけの、真に聖人らしい人物だったのか……。

 目の前のお宝の山を崩し、辺境にある封印を解くのが楽しみだわ。

 何が出て来るのかしら。


 封印されている場所というのは、パレストの王都から馬車で三日は優にかかる辺境にあるのだそうだ。そこは切り立った険しい山々の連なった谷底で、道なき道を登って下った先に。

 その場所に行ったことがあるのはリュースとルードだけで、ルードは飛び出して行ったきり帰って来ないので、リュースしかあてにはできない。

 けれどもリュースは【転移】できないし――。


「よし! 試してみるか!」

「えぇ!?」


 私たちは、ツリーハウスを出て家の裏手にある空地に向かった。

 転移じゃなく【空間移動】の陣を地面に描き下ろし、その陣の中で私に補助されながらリュースが魔力を流した。


「封印のある場所を、はっきりと頭の中に思い浮かべて! 封印のそばじゃなくて広い場所を」


 陣の中で向かい合わせでリュースと両手を握り合い、励ますように強く伝える。苦悶を浮かべながらもリュースは黙って私の魔力を受け入れ、陣に流し込んだ。

 一瞬の浮遊感と胃が捻じれる様な不快感の後に、陽のさす明るい場所に私たちは立っていた。

 へにゃっとリュースが頽れた。


「成功! リュー、頑張った。よくやったよ! 少し休んでからおいで」


 見下ろした背をパンっとひとつ叩いて、封印の方へ歩き出す。教えられなくても感じる違和感のある場所。

 そこは、視る目のない者には岩の壁が立ちはだかっているだけだ。けれど私の目には、垂直の岩壁の間に空いた、人が二人並んで通れるほどの三角形の入口が視えている。

 そして、その隙間の入口一杯に何層にも重ねられた複雑な封印が広がっていた。

 【看破】で確認しなくても解かる。

 禁書庫前で視た封印と同種の紋が、幾重にも重なって複雑な模様を浮かべている。そして、その一つひとつが年代を空けて術が掛けられている。


「封印を掛けた術者が死んだら、また新たな術者が新たに掛けに来てるんだよ。そして、常時三重の封印を維持し続けているのね」


 術者が亡くなると術は解ける。だから、次の術者が掛けに来る。この何百年もの間、パレストの教会関係者の一部が秘密裏に継続している重要事項。そこまでして、一体何を閉じ込めているの?


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