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 案内されたのは落ち着いた談話室で、室内に入ったところでカーテシーをして、アレクの手招きでソファの隣りへ腰を下ろした。

 向かいには、白く長いお髭にツルッパ頭のおじいちゃん。


「ようこそ、アズリー嬢。儂は宮廷書館長のブロン=ジャージルじゃ。時に、聖女様や勇者様などの召喚者に関してお調べとか?」

「はい。亡くなった父が考古学者でして、その血を継いだのか私も歴史に興味を持って学び、召喚された代々の偉人様方の歴史を追っております。そのお話をアレク様に致しましたら大変興味を持って下さり、グロシアン帝国の神子様についての調査に協力下さった次第です」


 真っ白な庇みたいな眉の下の温和そうな眼差しが、私をしっかり見つめている。私も後ろめたいことなどないって風で、品よい微笑みを意識しながら返した。


「ほう……。なれば、召喚術にではなくご降臨された方々自身を?」

「はい。術に関しては畑違いですし、偉人の方々の人生を知りたいと。ただ、こちらに関しては、もう神子様の召喚はないとお聞きしましたので、さしつかえないようでしたら理由をお教え願えればと」


「むふ。それでは、色々と記録書なぞご用意し、明日にでも再度お招きいたしましょう。それでよろしいか?」

「はい! 是非お願いしたします」


 満面の笑みを向けて、学問馬鹿を全面に押し出して頷いた。それを見てブロン氏は何度も頷き、会談は終わった。アレクと共に礼を述べ、部屋を後にする。

 その際、当然ながら間諜を放った。ちっさい蜘蛛がおじいちゃんの衣装の裾裏にするりと入って行く。あ、この間諜蜘蛛はアレクにもくっつけて、宮廷内の他の連中にも差し向けた。

 さあ、何の作為もなく、素直に開示してもらるのかしら。


 夜はやはり歓迎の夜会があったが、アレクを見送って私とリアンは部屋で夕食を取った。

 なんと、温泉が湧いてるとかで、宮殿へ詰めている者達も専用の浴場があった。そこを遣わせてもらえて、リアンと大はしゃぎでお湯に浸かり、ホカホカで寝酒を貰ってさっさと就寝。私は一室で、隣りに続いた召使用の小部屋にリアン。

 さぁ、夜の活動ですよー。魔力を練って現身を作り、就寝偽装。私はマント着用の上で迷彩を展開しながら行動開始した。ブロンおじいちゃんに取り付いた蜘蛛によって、宮殿の書庫の位置は分かっている。そこへまっしぐらにGO!


 【消音】をかけて宮殿内へスパイ開始!


 入り込んだ書庫は、思いもよらず広大だった。某市の図書館なんて目じゃない広さだよ。それに加えて、書棚の高さと言ったら……。

 どこから漏れるか知れないから、灯りは使わず【夜目】を使って書棚を眺めた。

 巻物状になってる物が半分に紐閉じと背表紙に装丁のある本が半分。う~んと唸ったきり動けない。まさかこれを一つ一つ中を確認する訳にはいかないし、見ないと分からないし――と、眺めていた時、部屋の端にある小型の机の上に視線がとまった。

 足音を忍ばせて近づき、その上に積まれた書を手にして広げてみた。ああ、これは私にみせるために用意された物だなと見当がついた内容で、せっかくだけれど先に見せてもらうことにした。ざっと目を通して重要な部分だけを読み込む。それを続けて、用意された物だけは読み終えた。


「召喚陣が破壊された事柄が書かれていない…」


 確かに召喚術には興味の無いような話しをした。が、壊された事件を秘匿する意味はないはず。この書を見せてもらった後にでも、すっとぼけて訊いてみようか……と思いながら、この巻物が収められていたと思われる空間を開けた書棚をあさった。

 で、出てきたよ。奥の方に隠すように布袋の中に入れられて二本の巻物が。封印の術まで掛けられてましたよ。

 これじゃ、『この書が核心です』とバラしてるようなもんだ。あっはは。

 インベントリから錬金で作ったパルプ製用紙に【転写】で内容を全て写し、可及的速やかに部屋へと戻った。これを読むのは、この国を去ってからだ。


 翌日は午後からのお迎えで、昨日通された部屋へ招かれた。

 出してくれた書は、やはり深夜に覗き見た物ばかりで、嬉しげな笑顔を装いながら礼を述べて書を丁寧に開いた。

 この国が召喚した神子は四人。それぞれ召喚した年代と容姿の特徴と年齢。側に付いた者たちの名と彼らが見た奇跡や神子の行いが、事細かに綴られていた。四人の内の一人がどうも日本人らしく、黒い髪と黒い目に黄味がかった肌と書いてあり、年齢に至っては十歳と。なんだか心が重く切なくなった。


「この方々は、神子様として一生を終えたのですか?」

「それは……どういった?」

「その……勇者様も聖女様もお役目を終えると、ご結婚なさったり叙爵されて貴族になったり、あるいはご自分の好きな道を歩まれたりとお聞きしてますので、神子様はどうなのかと?」

「ああ、それはですね。神子様は何年か過ごされるとお力が弱まりまして、そうなったら退位なさって貴族のご養子にお迎えされたり教会へ身を寄せたりとなさったようです」


 お茶で喉を潤して頷き、最後の書を眺める。


「なるほど……。幸せに過ごされたのですね。ところで、この方以降は神子様はご降臨なされないのですか?」


 私が最後の神子の書を手にしながら尋ねると、ブロン氏にわずかな動揺が見えた。


「え、ええ……。我が国は、幸いにも神子様を召喚せずとも豊かに過ごしておりますからな」

「それは、とても喜ばしいことですわね」

「はい……」


 他意はないよーってな笑みで返してみたが、ブロンおじいちゃんは歯切れの悪い返事をするのみだった。

 隠してるつもりが隠れていないって。そんなに動揺したら、マジで大変なことがあったとしか思えないって。本当に外交官が相手じゃなくて良かった。

 それからは何気ない雑談でお茶を濁し、深くお礼を述べお暇させていただいた。


「首尾はどうだった?」

「後で整理してみないと分からないわ。楽しみにしてて」


 なぜか私の部屋でお茶をしてるアレクに冷たい視線を投げながら、真っ赤にのぼせた顔で、慌てて部屋を飛び出していったリアンを視界の隅で見送った。


「アレク……女遊びは私の目の届かないところでやって。じゃないと、ここでお別れするわ」

「女遊びって――おいおい、ただちょっと口説いてただけだろう? まさか嫉t」

「リアンには何事もなく本国へ帰ってもらいたいの。あんたの十人目になんかさせたくないわっ!」

「なんだよー妬いてくれてんのかと思えば、小娘の心配かよ」

「当然でしょ? バカと手癖の悪い男は、大嫌いなの」


 暇に飽かせてリアンを構っていただけだろうことはすぐに分かったが、表向きは私はアレクの婚約者として紹介されているんだ。この先の旅の間、私に対するリアンの態度が居心地悪いものになったら面倒だろうが!

 せっかく癒しの女の子なのに! お姉さんの目の黒い内は、絶対に手を出させないからね!


「さて、ちょっと家へ帰って来るから少しの間、誤魔化しておいて」


 手を上げて了解を示してくれたアレクの前で、家へ転移した。

 いきなり現れた私に、出荷作業中だったリュースが目を丸くして手を止めた。


「無事に昨日到着したわよー。明日は街へ出るから、商会の支店へ卸す荷物を受け取りに帰ったの」


 私の報告に、リュースが猛然と用意を再開した。その間に、チーズとサラミの試作品をインベントリへ投げ込み、コーヒーで一息つく。

 デッキに転がって昼寝をしていたルードが、薄眼を開けて私を見た。


『何か分かったか?』

「まだ、帝国だしね。ただ、私と同郷の子供が一人だけ召喚されてた……。明日は、その子のお墓参りに行ってくる予定」

『そうか……』

「しっかしさー! 書庫へ侵入してみたはいいけど、量が半端ないのよ! どうやって目的の情報が記されてる物をみつけたらいいか途方に暮れたわ!」


 帝国でこれだ。パレストなんてどれだけあるやら……。


『ん? 書を探す方法に悩んでいるのか?』

「うん。一つ一つ開いて確認してる訳にいかないじゃない? 時間はないし面倒だし――」

『そんなものは【看破】と【捜索】でいけるだろうが?』


 ………。あ、私ってバカだ。アレクよりバカだ。


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