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磁石な恋心  作者: 腕時計
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再会

昔何かの小説で読んだ。思い出は美化されるらしい。

悲しい思い出も美化される。優しい思い出も美化される。


ふと思う。美化された思い出は元に戻らないのだろうか。

どんな思いも大切なんじゃないのか。美しく都合の良いモノだけが残るのか。


数学教師の心地よいリズムのチョーク音を聞きながら眠気をたっぷりと含んだ俺はボーッと考えながら静かに目を瞑った、授業中に…

高校二年生の春、クラス替えも済んだ特にやることのない5月の話だ。数日前から天気が、梅雨と勘違いしているのかと思うほど雨が続いている。窓ガラスに打ち付けられた雨粒を眺める。

昼休み、太一がそそくさと俺の席に来る。


「あのさ、ちょっと相談ってかさ」

「…また、金欠か?」

「いや、違ぇよ!人を貧乏人扱いすんなよ!」


財布を出して小銭を数える振りをする俺に何故かキレ気味だ。

えらく不満な様だがコイツは俺に750円の借金がまだある、油断は禁物。

この身長約140センチの男子は俺の高校の初めての友達だ。

お調子者のお喋り野郎だが人懐っこい笑顔で女子にも人気という苛つく奴。

しかし、なんだかんだで1年と1ヶ月の付き合いになる。最近彼女が出来て自慢がより激しくなってウザい…


「なんかさ、最近彼女が冷たくてさ…」

「お、もうお別れ?そりゃ残念♪」


凹みながら相談する友人を尻目にニヤニヤしながら、購買で買ってきた焼きそばパンにかじりつく。やはり昼のパンはこれに限る。


「なんか喜んでないか…」 


よく見ると、目が赤い。本当に半泣きの様である。

…しかし、どうだろう。

高校生になってから周りの男子、女子が付き合うのを何度も見ているが、だいたいどのカップルも3ヶ月以内に別れていた気がする。女子が1ヶ月記念の寄せ書きみたいなものを書いているのは流石にヤバいと思っていたなそういえば…

そう考えるとコイツはちゃんと3ヶ月を超えて付き合ってたわけだ。素晴らしいな我が友。


「いうて3ヶ月超えたんだから充分じゃね?お前も言ってたじゃん」

「超えたって…3ヶ月と1日じゃ、カッコもつかねぇよ!」

「まぁまぁ殿中でござる、殿中でござる」

「殿なんていねぇよ!」


よく殿中を知ってたなコイツ。国語、社会共に評定2のくせに…


「まぁ、でも浮気されてないだけマシじゃね結構あるじゃん二股」

「マシって…」

「たぶんそれはない感じだろ?お前の元カノそういう所真面目ぽい」

「元じゃねよ!まだ違うわ!」 

「それ別れるって言ってるようなモノじゃん」


コイツの彼女はナントカ美保チャン…正直興味もそこまでないのであんまり覚えてはいない。

気が強めの茶髪。学年でもかなり上位の美人ではあるが俺のタイプではないのだろう。名前すらちゃんと覚えられてないし。

ただ、結構キッチリした真面目な奴っていうのは聞いている。

茶髪も水泳で髪の色が抜けたか何かで変わったらしい。本人に興味がなくとも、評判は頭に残るものである。


「俺さ、何がダメだったんだろ」


呟く様に太一が言う。


「相性とかも合ったんじゃないのか?」


少しはフォローもする。ちょっと可哀想な気もするし…


「相性か…悪くないと思ったんだけなぁ」

「仕方ないだろコレばっかりわ」

「はぁ…」

「しゃあない。カラオケ帰り寄ろ田代も呼んでさ。な!」




ーーー放課後

隣のクラスの友達の田代も誘い、隣町のカラオケに行く事に。

田代は太一とは真逆の身長180センチを誇る巨人だ。俺も中々の身長だと思っていたが10センチも奴のほうが上だ。性格は兄貴肌で面倒見が良い。サッパリとした性格な奴はやっぱり付き合いやすい。


雨のホームで電車を待つ。帰宅部二人とサボりのラグビー部一人の他にも生徒はチラホラいるが、元々部活に所属するのがほぼ義務みたいなウチの高校で放課後即帰宅している奴は珍しい。

帰宅部の俺らも元は文化系の部活だったりする。


「にしてもさ、やっぱ不便だよな準急とか普通しか止まらないと」


田代が雨に濡れているレールをボーッと眺めながら言う。

場所的には田舎であるここには残念ながら多くの電車止まらない。先ほども一本乗り遅れてしまい、こうして15分律儀に待っているわけだ。


「普段もぼんやりと思ってることだけど、いつもと違うと意識しちまうよな」

「辞めろ…その言葉、今俺にとって致命傷だ」

「致命傷ならもう何しても変わらんし、大丈夫だろう」


太一が田代を恨めしそうな顔で見る。


「悪い悪い。そんなつもりはないんだって」

「そうだよ太一、あんま気にすんな。ほら電車も来た」


電車が雨の中、音をたててこちらに向かってくる。この時間なら人も少ないのでゆったりと椅子に座れるのだ。目の前で音を立てながら開かれる扉に入っていく。電車特有の埃っぽい匂いを受けながら三人並びにドッカリと座る。

真ん中に俺が座り右には太一、左に田代が座る。田代が親指を太一に向けながら俺に聞く。


「なぁ、佐渡?ちゃんと聞いてないがコイツの失恋を励ますためなのカラオケっていう認識で合ってるよな」

「うん。一応、まだらしいけどほぼ確だ」


沈んで携帯を弄っている太一に話田代が話しかける。


「ざまぁねぇな太一、3ヶ月しか付き合ってねぇじゃないか!あん時は散々バカにされたもんなぁ!」

「ふざけんな!3ヶ月と1日じゃ!」


おいおい、カッコつかないんじゃないのかソレ…

一応田代も去年の9月までは彼女がいたが今は一人だ。その時に太一が散々煽っていたから田代がこんな態度になっている。


といっても他のグループと違い俺らだいたいこんな感じの関係だ。一人がやらかせば残りの二人が煽る。ハタから見ると、仲が悪くみえる事もあるらしいが、三人グループ特有の二人が極端に仲が良い場合より、よっぽど良いバランスではないのか?


携帯を取り出しながらふとそんな考えをする。

俺の携帯はある意味でスマートフォンなどよりもよっぽどスマート抜群な…ガラケーである。

今の所そこまでガラケーで苦労はしていないが、周りは基本スマホであり、LINE が使えないことはやはりネックだ。

だが、携帯代を親に払ってもらっている俺は未だに買い換えの宣言出来ない。大学になればスマホを買ってもらえる訳だが、自分で買い換えるのもアリかなとは最近思う。


「とりま、カラオケ行こ?そこで愚痴な!」

「よっしゃあ金欠で先月全然行けてなかったから今月は歌いまくるぞぅ」

「あんだけ小遣いもらってて金欠はヤベぇわ」

「食欲が違うわ!お前らとはな」


よく分からない事に胸を張る田代と会話していると、電車が止まり、そこそこの数の人が乗り換えのために電車を降りていく。

この車両にいるのは俺たちだけになった。貸切状態は電車でも気持ちが良い。


しかし、すぐに人が入ってきた。違う学校の制服を着た女子だ。顔は見ていないがスカートを見れば分かる。

…スカート短くね?あれでも…あれ?まじまじとスカートを、決してまじまじと見たわけではないが一瞬見ただけでそう感じるほどスカートが短いように感じた。


(ありゃ、この感覚)


既視感を感じた。昔にも似たようなそんなどこか懐かしい感覚。

ただ、その懐かしい感覚がスカートを見て思うのは如何なものかと顔を赤らめる。


というか、何故かその女子生徒は座らず、対面の席の吊革を持っていて、さらにはこちらを眺めている様に感じる。


無茶苦茶怖い…いやスカートを見たのは事実だけど、そんな中身を見たいとかじゃなくて、ただただ見ただけなんですと、相手に伝わるはずもない心の中で謝罪という名の言い訳が飛び交う。


(こっちに来た!!)


女子生徒がこちらに真っ直ぐ近づく。僅か数メートル。

いや、もっと近い!一瞬で様々な事が頭に浮かぶ。

田代と太一は全く気付いていない。今コイツらはお互いの事をけなしあってる。後でしろ!後で!

強気に出てみるか…いや、口ゲンカでマトモな勝率ではない俺がそんなことをしても無駄だ。

謝ろう。相手が辟易するぐらい謝って許してもらおう。何事もまずは謝罪だ。誠意だ。クラーク博士も言っていたらしいじゃないか。


ボーイズ・ビー・アンビシャス!


絶対にこんな場面のための意味ではない言葉を片仮名に直して心の中で叫ぶ。片仮名にするとダサいな…


一瞬の覚悟を決め、前を向く。


「え…」


あれこの顔見たことあるぞ


「やっぱりsじゃん」

「N?」


久々に呼ばれるあだ名。

そこには中学の頃と変わらない笑顔があった。

スポーツ万能でお料理上手、歌も…綺麗だったな。

クラスでも友達が多く、いつも皆の中心でありながら深く誰とも関わろうとしなかった彼女。すごく猫という印象が残っている。

そして僕は忘れない。

中学三年生の秋、放課後。夕方特有の寂しげな空模様をよく覚えている。

流石に、ドラマにあるような屋上ではない。確か閉鎖されていたなぁ…誰もいない廊下。


この雰囲気。告白だ…まだ、何を言われるか分かってない俺は確か浮かれていた。クラスの人気者であり、ミステリアスな彼女が出来るのだ。浮かれない人のほうが少ない。


実際の所告白には違いなかった。…だいぶ思っていたのとは違ったが。

唇が乾いていて緊張しているのが分かる…腹痛も覚えている。そんな俺にドラマのワンシーンのように夕暮れをバックに彼女が告げた。


「あのさ、だいたい分かっていると思うんだけどさ…」

「うん」

「あたしさ、実はさ!」


Nこと榎本早紀が顔を紅潮させながら続ける。


「レズなんだ」


記憶はここで途切れている。















「なぁ、なんか二人の世界に入り込んだぞ」


田代が呟く。

俺も田代もこんな間抜け面の佐渡は初めてだ。…たまには気を利かせるか。


「おいタッシー気を遣え」

「初めて呼ばれたぞ、そのあだ名」


あだ名は否定されたが同意見の様だ。

といっても何かするわけでもない。静かに携帯を弄るだけだ。

心地よい電車の走る音を聴きながら目を伏せる。


「今日はカラオケなしかな」


そんなことを、ふと思った。

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