それぞれの事情2
驚きだ。鹿倉さんが『名無し』とのハーフだったなんて。
「でも、前に『名無し』は生殖できないって」
「いや、ないだけでできないわけじゃないんだよ。女性の『名無し』はできないかも知れないけど、、」
新しい情報が多く理解に苦しむ。ないのにできるのか体の構造が人間とは違うのだろう。
「どういうことですか?」
「君は資料の中で『コンタクト』についてみたよね」
俺は以前みた資料について思い出した。
「『名無し』の共通する能力で、他の生命体に対して自身の体を分子化することで干渉することができ、基本的には『ネイムレス』同士と人間にのみ有効とされる。ですよね」
「うん、詳しくは少し違うけど。まずその能力は誰に対してでも使えるわけではなく、ある程度お互いが信頼とでも言うのかな、そうじゃなきゃできないんだ。」
「それがどうしたんですか?」
「あれは、心と体に影響をあたえることができる。心に比べて体に影響を与えるのはそれだけ互いに信頼関係がなければならないんだけどね」
未知のものに体に影響を及ぼされるなんて相当の覚悟が必要だ、俺は無理だろう。
「私の母親は人間なんだけど、父親は『名無し』なんだ。母体が人間なら『名無し』でも子供は作れるんだよ、私が証拠だね。まあ、普通の『名無し』も人間からうまれるからね。ただ、彼らのように完璧な力があるわけではない私は操れても生み出せないんだ。中途半端な存在だよ私は、人間として生きるにはこの力が邪魔だし、あそこで働くには不十分なんだよ」
べつに見た目に影響がないなら隠して人間として働けばいいのに。それに資料を作るだけなら問題ない。
「どうして、風船に力を使ったんですか?隠してるんですよね?」
「あえていうなら、見てられなかったんだよ、木にひっかり空にもいかず地にいるわけもないあの風船、まるで自分をみてるみたいでさ」
、、、、俺にはよくわからなかった。
「対策課にはなんでいるんですか?やっぱり生まれたときに施設へ?」
「いや、私が生まれたときはそんな制度はなかったし『名無し』の事もしられてなっか
った。それに、私は見た目は人間と変わらないからね。それにここにいるのは父親を捜しているのかも
しれない」
「かもしれないっていうのは?」
「いや、実際にあったことはないから会えるかもわからないし、会いたいかもわからないんだよ」
「まあ、なんにしても資料ができたら私はここを辞めるよ。質問はこのへんでいいかな?
もう、私に語ることはないしね」
他にも聞きたいことがないわけでもなかったが、鹿倉さんの態度からこれ以上の質問はあきらめ
そこで俺たちは解散となった。
帰り道の中さっきの話を思い出す。能力を隠しているのに使ったり、施設にいたわけでもなく対策課に
いるってことは、自分で明かしたってことだろうか。行動に矛盾があるようでよくわからないが、鹿倉
さんにしかわからないことなのだろう。
しかし、『名無し』のことなど一般人の俺からするとわかるわけもなく、家に着くと
何も考えないことにし、その日は眠りについた。
俺なんかにわかるはずがないのだから