第一章 プロローグ 2話 「魔法鉄道と少女」
魔法鉄道を探す為、北を目指したアスラオス。無事、魔法鉄道があるとされる森にたどり着く。
魔法鉄道を見つけたアスラオス。それと同時に謎の少女に出会う。
満天の星空。星一つ一つが鮮明に見える。涼しい風が平原を駆け抜け、アスラオスの肌にあたる。
「北は… こっちか。」
アスラオスは天文に関する知識があったので、星を見て方角を確かめた。
「にしても、全く魔物が出ないなんて珍しいな。下級魔物ならいつでてもおかしくないのに…」
アスラオスは不思議に思いながら足を進めた。魔法剣士だけあり、体力は普通の人間の比ではないので、なんなく歩き続けることができた。
~早朝~
歩き続けて半日。アスラオスは不思議な魔力を放つ森を見つけた。休憩無しで歩き続けたため、通常の二倍の速さで森にたどり着いた。
「入るか。」
アスラオスは森に入った。魔物がいつ出ても対応出来る様に、サーベルを握って森を進んだ。微弱に感じる魔力を頼りに、30分ほど森をさ迷った。そして、一際魔力の強い、開けた空間に出た。そしてそこにあったのは、錆びた蒸気機関車だった。
「これが… 魔法鉄道…?」
ボロボロに錆びた機関車。炭水車もあるが、同じくボロボロ。客車は無い。所々に小さな穴がある。
アスラオスはしばらく機関車を観察した。直に触ったり、見れる所は覗いたりした。
「これ、いつからここにあるんだ?」
いつからここにあるのかすら分からない、しかし魔法鉄道の可能性がある車両を半ば興味本位で見ていた時。
「何してるの?」
突然背後から声を掛けられ、驚いたアスラオスは反射的にサーベルを抜き取り、声のした方向に刃を向けた。
「私に何か用?」
声の主は、可愛らしい少女だった。アスラオスを不思議そうに見つめるつぶらな瞳。黒を基調とした服で、スカートを身につけている。身長は12、13歳ほどしかない、少女だった。
「君は誰だ。」
アスラオスはサーベルを向けたまま少女に質問した。
「貴方こそ、何をしているの?」
少女は質問の主旨を変えようとしない。諦めたアスラオスは、サーベルを鞘に収め、魔法鉄道捜索の件を説明した。
「俺はこの機関車を探していたんだ。」
アスラオスが続きを言おうとした時だった。
ゴゴゴゴゴゴ
急に地面が揺れ、後ろの木々が倒れる。そして奥から現れたのは、巨大な木の魔物だった。
「ちっ、ここにきて魔物か!!」
アスラオスはサーベルを再び抜き取り、魔物に向かって走った。そして、魔物に向かって高くジャンプした。
アスラオスが空中で突きの構えをした時、サーベルの刀身が炎に包まれる。
「バーニングフレア!!」
アスラオスは炎魔法中級攻撃魔法を繰り出した。
攻撃は命中。衝撃で煙が発生し、当たりの視界を奪う。
「植物魔物に対して炎属性は有効。一発で仕留めれればいいが…」
アスラオスは一応の防御態勢をとった。そして煙が晴れたその時。
大きな影がアスラオスに迫る。それに気付いたアスラオスは守護魔法陣を展開させるが、反応が遅かった。展開途中の守護魔法陣は木っ端微塵に粉砕され、強烈な打撃を受けた。アスラオスはそのまま吹き飛ばされ、後方の大木に叩きつけられた。
「かはっ」
アスラオスは吐血する。大木に叩きつけられた衝撃で、内臓が急激に圧迫され、肺の空気が一気に抜ける。背骨にも衝撃が走り、立っているは困難だった。
アスラオスはそのまま倒れ込んだ。しかし、大きな足音がするので前方を確認した。そこには、腕を大きく振りかぶった魔物の姿があった。
そして魔物は、アスラオスに向かって腕を思い切り振り下ろした。
衝撃で土煙が舞い、地面が抉れる。しかしアスラオスは生きていた。アスラオスは自分の顔を触り、生きている事を確認する。何故生きていたのか。前を見ると、守護魔法陣を展開して、魔物の攻撃を容易く受け止めている少女の姿があった。
「大丈夫?」
少女が心配そうにアスラオスを見つめる。
「背骨をやられちまった…」
アスラオスは背骨の事を少女に伝える。
「分かった。」
少女はそう言うと、魔物に向かって歩きだした。
「よ、よせ…」
アスラオスは少女をひき止めようとするが、うまく呼吸が出来ない為、大きな声が出せない。
「グオオオオオオ!!!」
魔物が大きな声を出し、少女に向かって腕を振り下ろす。
「軽すぎね。」
少女はそう呟くと、魔物の腕を瞬間的に受け止め、手に魔力を込め、すぐに魔力を解放した。
「グオアアアア!!!」
魔物の悲痛な叫びが森に響く。少女が魔力を解放した瞬間、魔物の腕は溶け、魔物の身体中から緑色の液体が溢れる。そして魔物は倒れ、死んだ。
アスラオスが呆然と少女を見つめる。
「私に何か付いてる?」
少女は傾げながら近寄ってきた。
「あの強力な魔力… 君は一体何者なんだ?」
アスラオスは少女に質問する。
「魔法鉄道の力、案外侮れないでしょ?」
少女の回答にアスラオスは困る。出会った時も少しおかしな回答をされたので少し引っ掛かっていた。アスラオスはもう一つ質問した。
「君の回答は、君自身が魔法鉄道の様な答え方をしているが、どういう事だ?」
アスラオスの質問に、少女は冷静に答える。
「私自身が魔法鉄道だよ。」
「いや、あの錆びた鉄道が魔法鉄道なのは分かるが、君が魔法鉄道ってのはどうも理解出来ないな…」
少女は、あ~と言うと、説明を始めた。
「あの錆びた鉄道は魔法鉄道。魔法鉄道には魂が宿るの。そしてその魂の具現化が私。万物には魂が宿る、八百万の神って聞いたことない?」
「なるほど。要は、君はただの少女では無く、神様なんだな。」
「そういう事。それに、魔法鉄道の魂を持った八百万の神は、位が神の中でも上の方なのよ。意外でしょ~。」
少女のちょっと笑いを狙った言葉に、アスラオスはつい笑ってしまった。
「神様も、案外面白いんだな。 それより、さっきは助けてくれてありがとう。」
「ま、当然ね。」
すると少女は、アスラオスの隣に座った。
「久しぶりに魔力を使ったから疲れた~!」
少女が背を伸ばす。アスラオスはその時、少女の首に下がったネックレスに目が行った。
ネックレスに付いていたのは蒼く輝る宝石の様な物。アスラオスはすぐに、それがアステロイト鉱石だと分かった。
「なぁ、そのネックレス、アステロイト鉱石だろ?」
少女はネックレスを撫でて言った。
「これはね、昔、大きな戦いがあった時に私を守ってくれた魔法剣士から貰ったの。でもその魔法剣士は戦いの時、私を庇おうとして亡くなったの… 貴方みたいなサーベル使いだったよ。」
アスラオスは、その人物の事が気になって仕方がなかった。
「なぁ、その人の名前って分かるか?」
「忘れる訳ないよ。恩人だもん… 名前は、『ルシウス・セプテルバーン』っていうのよ。」
その言葉を聞いた時、アスラオスの目から涙が垂れた。
「え!?ちょ、ちょっといきなりどうしたの!?」
少女に慰められ、アスラオスの涙は収まった。アスラオスは、涙の訳を説明した。
「そのルシウスって人、俺の祖父だよ… 死んだ理由が分からなかったけど、ようやく分かったよ。まさかお前と関わりがあるとはな…」
少女からの返答はない。数秒の静寂の後、少女はアスラオスに問いかけた。
「貴方、名前は何ていうの?」
アスラオスは静かに答える。
「アスラオス・セプテルバーンだ。」
アスラオスが名前を言った時。突然風が吹き、錆びた鉄道が光りだした。
「な、なんだ…!?」
アスラオスは眩しくて目を開けてられなかった。
数秒すると光は収まった。光は収まったが、そこには錆びた鉄道は無く、代わりに、黒光りする綺麗な車体、左右に4つずつ動輪を携え、その動輪を連結棒が繋いでいる。見るからに高級感溢れる蒸気機関車が一両、鎮座していた。その蒸気機関車を見ていると、少女が更に近寄ってきた。
「やっと出会えたね…」
少女はそう言うと、アスラオスを小さい体で抱き締めた。
おはようございます、こんにちは、こんばんは。筆者のleyteです。
今回、本当はもっと早く投稿出来る予定だったのですが、一回書いた2話目を誤操作で消してしまったんですよね笑
ですが、なんとか2話目を投稿する事が出来ました。謎の少女の正体は魔法鉄道だった!こういう事、書いてみたかったんですよねぇ。
では、今回はこの当たりで。