第66話「穏やかな日常の為に」
更新の間が空いてしまいすみません。
リルやグーリたちと合流した後、少し休んでから伯都に帰って来た。
皆で巨大ウナギを引きずり、街に戻ってきた。
帰って来た時、衛兵や街の人に奇異な目で見られたけど、なんかもう今さらだ。
持ち帰った巨大ウナギは凍ったまま、使っていなかった倉庫の中に放り込んだ。
今度、倉庫を本格的に改造して、冷凍庫がわりの氷室作りに挑戦してみようと思ったよ。
あれから数日経ち、今は自宅の庭でゴロゴロしている。
「良い天気だね~」
「クルニャー(日向ぼっこ日和だね~)」
リルのご飯を食べて、ゴロゴロと。
リルに抱っこされたまま芝生の上に横になり、物理的にゴロゴロと転がったりしている。
これぞ俺の求めていた生活、とばかりに全力でくつろいでいるところだ。
まだ日中で皆が働いている時間だと思うと、くつろぎが捗るというものだ。
昼間からビールを飲むのが楽しいという人たちの気持ちが少し分かった気がする。
こんな風にのんびりしてるのは、侯爵領の件が、解決したわけではないけど一旦の落ち着きにいたったからだ。
……
…………
キマリスのことをどうしようかと考えてるうちに、街に戻ってきてから数日が経った時のことだった。
リルと俺は伯爵に呼び出され、隣の侯爵領について驚きの情報を聞くことになった。
なんと侯爵が怪死を遂げたとのことだ。
何の前触れも無く、外から襲撃を受けた様子も無く、侯爵以下主要な幹部連中が遺体で発見されたとのことだった。
俺の頭に浮かんだのは、キマリスというあの若い男。
強力な魔法を操り、ケルベロスを使役していたあの男だ。
侯爵の怪死には間違いなくキマリスが関わっているだろう。
推測の域を出ないが、用済みになったということだろうか。
もしかしたら、足がつかないようにしたのかもしれない。
侯爵領には王都から代官が派遣されてくるとのことだ。
市民には大きな影響などは出ていないみたいで、いたって平穏な様子らしい。
猫に優しい住民が頭に浮かんだ俺は、そのことに少しほっとした。
結局、俺はキマリスへの手がかりを無くしたということだ。
王都にある教会の本部に行けば、何か分かるのだろうか。
いや、おそらく大した手がかりは得られないだろう。
今の俺にできることは、警戒を怠らず、より強くなっていくことだろう。
遠くない未来に、戦う時がやってくる予感がある。
今よりもっと強くなんなきゃな……。
その時までに、爪を研いでおこう……。
…………
……
「ほら~、シュン、動かないで~!」
リルの声で、俺はふと我に返った。
今は、庭でリルの膝の上、伸びた爪をやすりで研いでもらっているところだ。
竜骨製のやすりで、シャリシャリと爪を研いでもらっている。
「クルニャー(リル! くすぐったいってば!)」
猫の爪は、神経が途中まで通っていて敏感なのだ。
それに、俺は普段から爪を使ってるから、研ぐ必要はあまりないのだ。
「ガルルゥ(シュン様も、リル様にかかれば、ただの猫ですね)」
グーリが微笑ましいものを見るかのように、そんなことを言う。
爪とぎから脱出しようと思えば、簡単に脱出はできるだろう。
でも……、たまにはこんな穏やかな日常も良いかもしれないな……。
ああ、リルに撫でられていたら、眠くなってきた……。
根元からモフモフと優しく撫でられるのは、とても気持ち良いのだ。
「…………シュンに、お客様」
ライミーが、声をかけてくる。
どうやら誰かが来たみたいだ。
眠りそうだった俺は、瞼を持ち上げる。
家の門の方から、女の子の元気な声が聞こえてきた。
「猫ちゃ~ん! あそぼ~なの~!!」
狐っ娘のレンカが遊びに来たようだ。
レンカとその家族は、この家から近い所に住むことになったらしく、ちょくちょく家に遊びに来るのだ。
レンカは、グリフォンたちを怖がることもなく、むしろ懐いているくらいで、この前なんかはグリフォンの背中に乗ってキャッキャッと喜んでいた。
ただ、猫やグリフォンたちと遊ぶのは良いのだが、どうも最近は火魔法にはまってるみたいで、ちょっと気をつけないといけない。
こういう穏やかな日々を過ごしていると、こんな日々が続くように、もっと頑張って強くならないといけないなと思う。
今回は、ライミーの助けやグーリたちの頑張りが無かったら、無事に今を迎えられなかっただろう。
「クルニャン!(もっと頑張るよ!)」
強くなるために頑張ろう、たくさん食べて自分の血肉にしていこう。
「ガルゥ……?(どうされました?)」
独り言だったのだが、グーリに問いかけられたから、ただの決意だよと伝えた。
なぜか尊敬の眼差しを向けられた……。
その時、家の扉が開いてミーナが出てきた。
両手で大きな皿を持っているのだが……。
「シュン~! パイを作ったの! 今回は料理に使う素材をしっかり味見したから大丈夫だよ!」
ミーナは、近くまできてそんなことを言う。
あ、味見って、俺の記憶が正しければ、料理途中とか料理が完成したらするものだよね?
料理前の素材を味見って……、なかなか斬新だね……。
怯んでいた俺の前に、皿が置かれる。
…………。
俺の語彙力では表現できない何かがそこにあった。
先ほどの決意は、早くも崩れ去りそうなのだった――。
ここで第二章を終わりとさせていただきます。
次話から第三章に入ります。




