第6話「肩の上が定位置だよ」
ガルムは壁にぶつかったきり起きてこない。
だいぶ加減したから、生きてはいるはず……。
「クルニャン?(これって勝ちだよな?)」
鹿よりもだいぶ弱かったガルムに、勝利の実感が薄い。
こういう時の立会人。
ハンズの方を見てみる。
俺の勝ちでいいんだよね?
「何今の動き。全然見えなかった……」
ハンズが口をパクパクしながら呟いている。
これは演出じゃなくて、本当に見えていなかったのだと俺も気づく。
さすがの俺も、あることを勘違いしていたんじゃないかと思い始めている。
そんな中、空気を読まない奴らがいた。
「てめえ、なにインチキしやがった!」
「そうだそうだ、ガルムがワイルドキャットなんかに負けるはずないんだ! ウヒッ」
ガロン兄弟が文句を言いながらこっちに歩いてきた。
もうついでだ。
ここでしっかりオ・ハ・ナ・シをつけておきたい。
俺は奴らを挑発することにした。
猫らしく……。
「フニャ~(たいくつであくびが出そうだ)」
寝転がり、お腹を無防備にさらし、足で首筋をカリカリする。
こいよこいよ!
馬鹿にしてるよ~!
そんな雰囲気を演出する。
「舐めやがってこのクソ猫がっ!」
「兄ちゃん、Bランクの本気を見せつけてやろうよ!」
予想以上に上手く挑発にかかる。
兄が剣を抜き、弟がこん棒を構え近づいてくる。
そして、同時に俺めがけて振り下ろす。
遅い……。
鹿の角を使ったあのかち上げに比べたら、本当にあくびが出そうだ。
相手のふところへ全力で飛び込む。
踏み込みだけは全力。
ガロン兄弟は完全に俺を見失っている。
兄に向かって、三割くらいの力でジャンピング猫パンチ!
「――グエッ!?」
くの時になってふっ飛び、倒れているガルムの隣に落ちる。
デブの弟の方へは、同じく力を抑えたジャンピング後ろ足キーック!
「――ブウッ!?」
これもふっ飛び、兄の上にズシンと落ちる。
兄弟ともに気絶したのか起きてこない。
これで、さっきのがマグレじゃないと、観客の人たちにも分かってもらえただろう。
「シュン!! すごいすごい! Bランク冒険者を一撃なんて!」
リルがこっちに向かってくる。
尻尾をフリフリ近づいてくるのを見て、癒される。
モフモフってマジ癒し系だよね。
自分がモフモフなことを忘れてそんなことを思った。
しばしの静寂ののち、観客席がガヤガヤし始める。
「なあ、ちょっと一発俺を殴ってくれないか? どうやら俺は夢を見ているようだ」
「安心しろ、俺もだ。Eランクのワイルドキャットの動きが全く追えなかった」
「可愛いのに強い……、あんなにかわいいのに……」
観客がみな信じられないものを見た、という顔をしている。
「ち、ちょっ! 君たちはいったい……」
ハンズが声をかけてきた。
その声は動揺しているようだ。
そういえば居たんだっけ。
忘れてたよ。
立会人なんだから、ちゃんと勝敗の宣言してほしいものだ。
「き、君たちは何者なんだ??」
「リルたちは……、う~ん、なんだろね? 仲良し?」
リルはそう言って、俺を持ち上げ、自身の肩に乗せる。
手足をプラーンとさせたまま、なすがまま運ばれた俺。
「クルニャン!(俺たちは俺たちだよね!)」
リルの肩の上は俺の定位置!
観客のガヤガヤが収まらない。
「おいおい、あの嬢ちゃんが、あの従魔の主人ってことだろ?」
「従魔……、魔物は自分より強い相手にしか従わないから、つまり……」
「あの狼っ娘は、あの猫より強いってことよね……」
「とんでもない新人が入ってきたわね」
「今のうちにお近づきにならなきゃ。どっちも可愛いし」
会話が聞こえる。
へ~、魔物って自分より強い相手にしか従わないんだ。
そりゃそうか。
俺は自分からリルと一緒にいるから、例外なんだろうね……。
リルが俺より強いと勘違いされる分には、今回みたいに絡んでくる奴が、これからはいなくなっていいかもね。
「リルたちの勝ちでいい?」
リルがハンズに聞く。
「あ、ああ……、君たちの勝ちだ……」
ハンズが勝利をみとめてくれる。
「シュン、やったね!」
リルが、肩に乗ってる俺の首筋に顔を埋めてくる。
グリグリとモフられる俺。
戦いが終わるまでは、心配かけちゃったかな?
今は存分にモフるがいい!
「クルニャ~(一件落着かな?)」
まだ、何かあったような気もするけど……。
少し気を抜いていたところで、階段の方から誰かが駆け下りてくる音が聞こえる。
誰だろう?と思っていると、犬耳受付嬢のミーナが訓練場にやってきた。
ああ、そうだった。
討伐の報告したところから、話が逸れに逸れて、こんなことになっていたんだった。
「リルさ~ん!」
ミーナはリルの名前を呼びながら駆け寄ってくる。
急いで来たのか、ミーナの息が上がっている。
なんとなく、舌を出してハァハァする犬が頭に浮かんだ。
「ミーナさん、大丈夫ですか?」
「わたしは大丈夫ですけど、こっちは大丈夫でしたか?」
カウンターにいた受付嬢に、決闘の話を聞いてきたとのことだ。
ミーナは壁際の犬と兄弟を見て、ポカーンと口を開けている。
「はい大丈夫です! リルにはシュンがいますから」
あいかわらず嬉しいことを言ってくれる。
「あれってそのニャンコがやったの??」
ミーナは、積まれている兄弟を見ながら、頭にクエスチョンを浮かべている。
この犬耳お姉さま、「ニャンコ」と呼ぶなんて猫好きではなかろうか。
モフってもいいよ! 美人さん歓迎だよ!
「そうですよ。今ちょうど終わったから、上に戻ろうと思ってたとこです」
ミーナが、へ~とか言いながら俺をジロジロ見てくる。
観察されるのって、なんか恥ずかしいね……。
水浴びしてないし、毛玉もありそうだから、ジロジロ見ないで……。
その後すぐに、ミーナさんは仕事モードに戻り、
「リルさん、さっきの角の件で、ギルドマスターと会ってほしいのです」
「ルゥニャー!(ギルドマスターだと!?)」
ミーナの言葉に、俺はマッタリモフモフ生活が遠ざかっていく気がしたのだった。
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