第50話「狐っ娘を連れてこう」
こちらに向かってくる狐っ娘と、それを追いかけてくる騎士五人。
今の段階では、狐っ娘が悪い可能性もあるけど……。
基本的に、俺はモフっ娘の味方だよ。
そんなことを思ってると、ちょうど良く?騎士の一人が叫んだ。
「大人しく捕まれ! この見通しのいい街道で逃げられるものか!」
騎士は狐っ娘を怒鳴るように本性をあらわす。
「いや~。ママー、パパー!」
狐っ娘は涙ぐみながら必死に走っている。
別の騎士がさらに言葉を発する。
「お前の親もあっちで待ってる! 大人しくつかまれ!」
騎士たちは、嫌な笑みを浮かべて追いかけている。
高価そうな鎧を身に付けていなかったら、完全に盗賊と間違えそうだ……。
さて……。
「ニャーン?(ボス、どうするっすか?)」
ミケが聞いてくるけど、きっと俺がどうするかは分かってるはずだ。
狐っ娘は、あとちょっとで俺たちのところまで来る。
「クルニャン(ここを動くなよ)」
ミケたちに指示を出したところで、騎士の集団の横に全速力で移動する。
何が起こったかすら気づかせないつもりだ。
「クルルニャー(くらえ、雷撃!)」
狐っ娘に当たらないように気をつけながら、騎士たちに雷魔法を見舞う。
一応殺さないように、グリフォンに使ったものよりも数段威力を落とした。
「「「――っ!?!?」」」
体勢を崩して馬から落ちる騎士たち。
突然のことに何が起こったのか分からないといった様子だ。
「ま、魔物の……襲撃……か!?」
四人は意識を失ったけど、一人はフラフラしながらも周囲を見回そうとしている。
今は見られるわけにはいかない。
もう一度、雷撃を食らわせたところで、そいつも今度こそ気を失った。
「えっ? えっ!?」
狐っ娘は、追跡者がいきなり倒れたことで驚いている。
周囲には猫しかいないもんね。
肩で息をしながらキョロキョロと周りを見回している。
狐っ娘はかなり幼く、人族でいうと六、七歳くらいに見える。
薄茶色の狐耳とボリューム感のある尻尾が、とても可愛らしい。
「クルニャン(もう大丈夫だよ)」
言葉は伝わらないだろうけど、少しでも安心させたいと狐っ娘に向かって鳴いてみた。
「ね、猫ちゃん?」
首をかしげられた。
よく考えたら、グリフォンの羽毛をかぶってるんだった。
それでも、疑問符がつきながらも猫だと思われるのは、ちょっと進歩したかもしれない。
「ニャーン!(さすがボスっす! しびあこっす!)」
ミケたち五匹の猫たちが近くに寄って来た。
ミケが嬉しそうに声をかけてきた。
「クルニャ?(何だよ、しびあこって?)」
俺の質問に、ミケとは別の猫が答えてくれる。
カルビという名の猫だ。
「ニャン(しびれる、あこがれるの略です。まあ、しびれてるのはあいつらですが)」
カルビは、倒れている騎士たちの方を鼻で指した。
…………。
上手いこと言ったというような得意気な顔をしてるけど、全然上手くないからな……。
そんなことより。
「クルニャーン?(何があったの?)」
狐っ娘を安心させるために、その足にスリスリと頭をこすりつける。
「きゃはっ。もしかして猫ちゃんが、あたちを助けてくれたの?」
舌ったらずな声で聞いてくる。
「クルルゥゥ(そうだよ、俺たちはモフっ娘の味方だよ)」
狐っ娘が、やさしく頭をなでなでしてくれる。
逃走の緊張が解けたのか、少し笑顔になっている。
やっぱり女の子は笑顔が一番だね。
しかし、何かを思い出したのか、すぐに狐っ娘の笑顔がくもる。
「パパとママがつかまっちゃった……。あたちを逃がすために……」
狐っ娘が泣きそうになる。
その姿を見て、原因であろう騎士とそれに指示を出した奴に怒りがわいてきた。
「クルニャー!(行くよ! その、パパとママの捕まってる場所に!)」
言葉が伝わらないから行動で示す。
俺は以前、幼女を背に乗せたように、狐っ娘を背に乗せる。
足の間から頭を通して肩車をする要領だ。
落ちないように尻尾を背もたれにする。
結構バランスを取るのが難しいけど、狐っ娘自身もバランス感覚が良いのか、とても安定している。
「ね、猫ちゃん?」
突然のことに、狐っ娘は不思議そうにしている。
「クルニャン!(行くよ! 俺はシュン。君の名前は何ていうの?)」
俺の背中に乗っている狐っ娘に、顔だけ向けて問いかける。
言葉は通じないだろうけど、真剣さは伝わるはずだ。
「もしかして、助けてくれるの? あたちね、レンカっていうの」
狐っ娘が名前を教えてくれる。
レンカか……、良い名前だね。
俺の言葉が通じたわけではないだろう。
コミュニケーションを取ろうと思ったら、まず名前を伝えるのは子供も同じだ。
「クルニャー!(みんな、行くぞ!)」
猫たちに指示を出して、レンカが逃げて来た方角に進む。
そっちに村があるはずだ。
「ニャン!(了解っす!)」
レンカを背に乗せた俺を、囲むように猫たちがついてくる。
人の気配を感じたら、隠れないとな。
まあ村まで遠くはないだろう。
◇◇◇
村の近くまでやってきた。
状況を把握するために、村のそばの林の中に隠れて様子をうかがってるところだ。
村の様子が分からないと、何をすべきかも分からないからね。
レンカにも草木に隠れるように、しゃがんでもらっている。
村の様子を見るために飛び出して行かないか心配だったけど、さわぐこともなく大人しくしている。
見た目の歳以上に冷静な子のようだ。
「ママ……」
いや……、尻尾を膨らませて手を強く握りしめてるところを見ると、頑張って耐えてるんだろう。
「クルルゥゥ……(大丈夫だよ……)」
少しでもレンカの心の支えになろうと、レンカにくっつきながら村の観察をすることにした。
遠巻きながら村の様子を見てて分かったことがある。
どうやら侯爵の拠点の街から、この村に騎士や兵士が派兵されてきているようだ。
その目的は異端審問の名の元、獣人たちを連れ去ることのようだ。
聞こえて来た兵士たちの言葉からすると、獣人を奴隷として扱うために、拠点の街に連れていくとのことだ。
レンカの親は、なんとかレンカだけでも逃がそうと、身をていして村を脱出させたみたいだ。
結局それがバレて、すぐに追手がかかったというわけだ。
様子を見ている途中で、雷撃を食らわせた騎士たちも村に戻ってきた。
特に慌てた様子もなく、「なんか魔物の襲撃うけちまったみたいだ。まあ、俺たち神聖騎士に恐れをなして逃げちまったみたいだけどよ」と言っていた。
レンカ一人逃がしても大きな問題はなかったらしい。
そう言えば、追いかけてるときも、まるで狩りを楽しむようにしてたな。
遊びのつもりで追い回してたのかもしれない。
だんだん、ムカついてきた……。
どうやら獣人たちを街へ連れて行くのは明日らしい。
間に合ったというわけだ。
夜になったら、襲撃の時間だね。




