表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/73

第50話「狐っ娘を連れてこう」

 こちらに向かってくる狐っ娘と、それを追いかけてくる騎士五人。


 今の段階では、狐っ娘が悪い可能性もあるけど……。

 基本的に、俺はモフっ娘の味方だよ。


 そんなことを思ってると、ちょうど良く?騎士の一人が叫んだ。


「大人しく捕まれ! この見通しのいい街道で逃げられるものか!」


 騎士は狐っ娘を怒鳴るように本性をあらわす。


「いや~。ママー、パパー!」


 狐っ娘は涙ぐみながら必死に走っている。


 別の騎士がさらに言葉を発する。


「お前の親もあっちで待ってる! 大人しくつかまれ!」


 騎士たちは、嫌な笑みを浮かべて追いかけている。

 高価そうな鎧を身に付けていなかったら、完全に盗賊と間違えそうだ……。


 さて……。


「ニャーン?(ボス、どうするっすか?)」


 ミケが聞いてくるけど、きっと俺がどうするかは分かってるはずだ。


 狐っ娘は、あとちょっとで俺たちのところまで来る。


「クルニャン(ここを動くなよ)」


 ミケたちに指示を出したところで、騎士の集団の横に全速力で移動する。

 何が起こったかすら気づかせないつもりだ。


「クルルニャー(くらえ、雷撃(サンダーボルト)!)」


 狐っ娘に当たらないように気をつけながら、騎士たちに雷魔法を見舞う。

 一応殺さないように、グリフォンに使ったものよりも数段威力を落とした。


「「「――っ!?!?」」」


 体勢を崩して馬から落ちる騎士たち。

 突然のことに何が起こったのか分からないといった様子だ。


「ま、魔物の……襲撃……か!?」


 四人は意識を失ったけど、一人はフラフラしながらも周囲を見回そうとしている。


 今は見られるわけにはいかない。


 もう一度、雷撃(サンダーボルト)を食らわせたところで、そいつも今度こそ気を失った。


「えっ? えっ!?」


 狐っ娘は、追跡者がいきなり倒れたことで驚いている。

 周囲には猫しかいないもんね。

 肩で息をしながらキョロキョロと周りを見回している。


 狐っ娘はかなり幼く、人族でいうと六、七歳くらいに見える。

 薄茶色の狐耳とボリューム感のある尻尾が、とても可愛らしい。


「クルニャン(もう大丈夫だよ)」


 言葉は伝わらないだろうけど、少しでも安心させたいと狐っ娘に向かって鳴いてみた。


「ね、猫ちゃん?」


 首をかしげられた。

 よく考えたら、グリフォンの羽毛をかぶってるんだった。

 それでも、疑問符がつきながらも猫だと思われるのは、ちょっと進歩したかもしれない。

 

「ニャーン!(さすがボスっす! しびあこっす!)」


 ミケたち五匹の猫たちが近くに寄って来た。

 ミケが嬉しそうに声をかけてきた。


「クルニャ?(何だよ、しびあこって?)」


 俺の質問に、ミケとは別の猫が答えてくれる。

 カルビという名の猫だ。


「ニャン(しびれる、あこがれるの略です。まあ、しびれてるのはあいつらですが)」


 カルビは、倒れている騎士たちの方を鼻で指した。


 …………。


 上手いこと言ったというような得意気な顔をしてるけど、全然上手くないからな……。

 

 そんなことより。


「クルニャーン?(何があったの?)」


 狐っ娘を安心させるために、その足にスリスリと頭をこすりつける。


「きゃはっ。もしかして猫ちゃんが、あたちを助けてくれたの?」


 舌ったらずな声で聞いてくる。


「クルルゥゥ(そうだよ、俺たちはモフっ娘の味方だよ)」


 狐っ娘が、やさしく頭をなでなでしてくれる。

 逃走の緊張が解けたのか、少し笑顔になっている。

 やっぱり女の子は笑顔が一番だね。


 しかし、何かを思い出したのか、すぐに狐っ娘の笑顔がくもる。

 

「パパとママがつかまっちゃった……。あたちを逃がすために……」


 狐っ娘が泣きそうになる。

 その姿を見て、原因であろう騎士とそれに指示を出した奴に怒りがわいてきた。

 

「クルニャー!(行くよ! その、パパとママの捕まってる場所に!)」


 言葉が伝わらないから行動で示す。


 俺は以前、幼女を背に乗せたように、狐っ娘を背に乗せる。

 足の間から頭を通して肩車をする要領だ。

 落ちないように尻尾を背もたれにする。


 結構バランスを取るのが難しいけど、狐っ娘自身もバランス感覚が良いのか、とても安定している。


「ね、猫ちゃん?」


 突然のことに、狐っ娘は不思議そうにしている。


「クルニャン!(行くよ! 俺はシュン。君の名前は何ていうの?)」


 俺の背中に乗っている狐っ娘に、顔だけ向けて問いかける。

 言葉は通じないだろうけど、真剣さは伝わるはずだ。


「もしかして、助けてくれるの? あたちね、レンカっていうの」


 狐っ娘が名前を教えてくれる。

 レンカか……、良い名前だね。


 俺の言葉が通じたわけではないだろう。

 コミュニケーションを取ろうと思ったら、まず名前を伝えるのは子供も同じだ。 


「クルニャー!(みんな、行くぞ!)」


 猫たちに指示を出して、レンカが逃げて来た方角に進む。

 そっちに村があるはずだ。


「ニャン!(了解っす!)」


 レンカを背に乗せた俺を、囲むように猫たちがついてくる。


 人の気配を感じたら、隠れないとな。

 まあ村まで遠くはないだろう。 



◇◇◇



 村の近くまでやってきた。


 状況を把握するために、村のそばの林の中に隠れて様子をうかがってるところだ。

 村の様子が分からないと、何をすべきかも分からないからね。


 レンカにも草木に隠れるように、しゃがんでもらっている。

 村の様子を見るために飛び出して行かないか心配だったけど、さわぐこともなく大人しくしている。

 見た目の歳以上に冷静な子のようだ。


「ママ……」


 いや……、尻尾を膨らませて手を強く握りしめてるところを見ると、頑張って耐えてるんだろう。


「クルルゥゥ……(大丈夫だよ……)」


 少しでもレンカの心の支えになろうと、レンカにくっつきながら村の観察をすることにした。


 遠巻きながら村の様子を見てて分かったことがある。


 どうやら侯爵の拠点の街から、この村に騎士や兵士が派兵されてきているようだ。

 その目的は異端審問の名の元、獣人たちを連れ去ることのようだ。

 聞こえて来た兵士たちの言葉からすると、獣人を奴隷として扱うために、拠点の街に連れていくとのことだ。


 レンカの親は、なんとかレンカだけでも逃がそうと、身をていして村を脱出させたみたいだ。

 結局それがバレて、すぐに追手がかかったというわけだ。


 様子を見ている途中で、雷撃を食らわせた騎士たちも村に戻ってきた。

 特に慌てた様子もなく、「なんか魔物の襲撃うけちまったみたいだ。まあ、俺たち神聖騎士に恐れをなして逃げちまったみたいだけどよ」と言っていた。

 レンカ一人逃がしても大きな問題はなかったらしい。


 そう言えば、追いかけてるときも、まるで狩りを楽しむようにしてたな。

 遊びのつもりで追い回してたのかもしれない。

 だんだん、ムカついてきた……。


 どうやら獣人たちを街へ連れて行くのは明日らしい。

 間に合ったというわけだ。


 夜になったら、襲撃の時間だね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓▼△魔物っ娘と魔獣の軍勢が世界を席巻する△▼↓
『ダンジョン育ちの“魔獣使い” ~魔物っ娘と魔獣たちの最強軍勢を率いて~』


↓ちょっとシリアスな、シュンとリルの出会い編↓
『万物異転、猫が世界の史を紡ぐ【出会い編】 ~出会ってすぐにモフられる~』
こちらも本作も、それぞれ独立した作品として楽しめます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ