第47話「猫が小判を数える日」
呪いが解けた翌日。
庭で、猫たちの訓練をしているところだ。
グーリたちグリフォンにも手伝ってもらっている。
グーリを囲む五匹の猫たち。
今日も五猫一組の特訓だ。
「クルニャー!(ミケ! 相手に気配を察知されるのはしょうがない。同時に動いて相手の隙をつくんだ!)」
グリフォンは猫科なだけあって、気配に敏感だ。
そういう相手には察知されても、反応できないくらい同時に攻撃をしかければいい。
四方八方からの……、実際は五方向から同時に発射される弾丸をイメージして。
攻撃を当てられるようになれば、あとは今制作中のドラゴン素材の武器を装備すれば、十分に戦えるようになるだろう。
「ニャー!(今っす~!)」
ミケの合図に合わせて五匹が同時に攻撃をしかける。
「ガルルゥゥッ!(その動きでは、私は攻撃を避けられぬが、お前らも攻撃を避けられんぞ!)」
グーリの軽いタックルが、ミケに当たる。
「ニャッ!?(ぐわっ!?)」
ミケは悲鳴をあげて吹っ飛ばされた。
ミケよ、計算された同時攻撃と、無謀な特攻は別ものだよ……。
他のグリフォンたちのところでも同じ光景が繰り広げられている。
それにしても……、グリフォンたちみんな、思っていた以上に面倒見が良いな。
ありがたいことだ。
その後、午前中はめいっぱい訓練を続けた
猫たちの一部は、何回かに一回は上手く立ち回れるようになっていった。
感心することに、どうやら俺がいない間も自主的に訓練をしていたようだ。
◇
猫たちの訓練がキリの良いところで昼休みとなった。
リルのご飯を食べて、ゆっくり休む時間だ。
そう思っていたら、ミーナが先に家から出てきた。
何かを両手で持っている。
「シュン、これ作ったのよ。どうかな?」
ミーナのその言葉に昨日の出来事がフラッシュバックした。
どうやら軽くトラウマってるようだ……。
ミーナが俺の目の前に出してきたのは、モフモフっとした着ぐるみのようなもの。
よく見ると、羽毛やフワフワの毛で作られているように見える。
「クルニャン?(もしかして、俺用のかつらならぬ着ぐるみ?)」
ミーナを見る。
俺の言葉は伝わらないけど、疑問は伝わったのだろう。
「毛が生えるまで、こういうのでもあったほうがいいかなって。グリフォンたちにも少しずつ協力してもらったのよ」
「クルニャー!(ミーナ、ありがとう!)」
どうやら、ミーナはグリフォンの羽毛等を使って俺用の着ぐるみを作ってくれたようだ。
さっそく俺は着ぐるみを着てみた。
体を動かして着心地を確かめる。
おおっ!
ぴったりのサイズで、まったく動きの邪魔にならない。
それに見た目もグリフォンの金色羽毛のおかげで、綺麗で自然な感じだ。
ぬくぬくあたたかいのも久しぶりの感じだ。
これ、何気に防御力も結構高い高級防具なのではなかろうか。
素材にグリフォンの羽毛が使われてるだけに……。
「クルニャーン!(ミーナ、すごいよ! 本当にありがとう)」
ミーナは料理がアレだけど、基本すごく器用だったり、仕事ができたりするんだよね。
この仕上がりは職人顔負けだと思う。
俺は、嬉しくてその場でクルクルと回ったりした。
「気に入ってくれたみたいで良かった。ほつれたりしたら直すから言ってね」
ミーナの優しさで、体も心も温かくなったのだった。
あとで、グーリたちにもお礼を言っておこう。
◇
リルの美味しい昼食をみんなで食べて、まったり休憩していた時のことだ。
伯爵のところの武器職人のゴードンがうちにやってきた。
ゴードンにはドラゴン素材の加工を頼んでいたのだ。
ドラゴン素材は硬くて普通には加工できなかった。
そこで加工に使う道具もドラゴン製にした。
道具は、俺がドラゴンの爪を切り出して削って、ゴードンにプレゼントしていた。
ゴードンはその道具も喜んでいたよ。
「リルの嬢ちゃん、頼まれていたヤツの試作品ができたぜ」
そう言って、ゴードンが箱から取り出す。
それは三角形に尖った爪のようなものだ。
猫用の小型のドラゴンクローを作ってもらったのだ。
この形を伝えるのは、ライミーに手伝ってもらいつつも、かなり苦労した。
猫たちの手の甲にはめて、猫パンチをするとドラゴンの爪が相手に当たるというものだ。
光属性を持つドラゴン製の爪、聖なる竜爪と呼ぶことにした。
動きの良い五匹の猫を連れて、セイクリッドエッジのお試しに行ってみよう。
◇
セイクリッドエッジの使い勝手を試すために、街の近くの草原にやってきた。
相手はブラウンガルーというDランクの魔物、まあ見た目カンガルーだ。
こいつは意外に素早く動くし、相手にはちょうど良いだろう。
ミケを筆頭にした五匹の猫が、カンガルーを囲んでいる。
「クルニャーン!(肉を食べるためにも頑張れ!)」
こいつの肉は結構おいしいらしい。
焼いて良し、煮て良し、干し肉にして良しだ。
「ニャー!(家で待ってる猫たちのためにも頑張るっす!)」
そうそう、その意気込みだ。
五匹の猫たちは狙いを絞らせないように、カンガルーの周囲を回るように動く。
練習の成果を見せてくれ。
グリフォンに比べれば楽な相手のはずだ。
カンガルーが焦れたのか、正面にいる猫に飛びかかる。
その猫は一定の距離をたもったままバックステップをする。
カンガルーの腕が空を切る。
「ニャーー!!(食らうっすー!)」
カンガルーのわき腹めがけて、ミケが走り込む。
一見、隙をついた形だ。
けど、カンガルーは意外にもそれに反応して、ミケに噛みつこうと口を開ける。
ちょっとまずいかなと思ったけど、どうやらミケの動きもフェイントだったようだ。
カンガルーの噛みつきを寸前でかわす。
「ニャ~ン!(任せて~!)」
本命は別の猫だったようで、後ろから飛びかかった猫が、カンガルーの背にセイクリッドエッジを突き立てた。
その猫は、攻撃してすぐに背から離れる。
聖なる竜爪には追加効果みたいなものがあるらしく、カンガルーはその場で大きくふらついた。
「ニャー!(とどめっすー!)」
ミケがカンガルーの胸の部分に、セイクリッドエッジを装備した右手を突き入れる。
その攻撃は、俺の赤竜鱗の右腕による攻撃を彷彿とさせた。
「クルルゥ……(ミケのやつ……)」
やるじゃん……、ミケ、それに他の猫たちも。
猫たちの予想以上の戦いぶりに、俺はちょっと感動してしまった。
セイクリッドエッジのお試しは成功だった。
猫たちの動きも格段に良くなってきている。
このままグリフォンたち相手にもっと訓練していけば、戦力としても十分なものになっていくだろう。
俺が楽をできる日も近い。
そんな午後の出来事だった。




