第43話「グリフォンが舞い降りた」
少年ディーンは、山に行こうとしていた理由を話し始める。
「俺の母ちゃんが石化の呪いにかかってよ……。今のままだともう長くもたないらしいんだ……」
ディーンは事情を話しながら、落ち込んでいく。
村長は静かに見守っている。
「それで、山にある黄金の木の実が必要ってこと?」
リルが顔の前で指を振って首をかしげる。
リルがちょっとお姉さんぶってて可愛い。
聞くと、ディーンは十歳とのことだった。
リルとそんなに歳は違わないけど、グリフォンのいる山が無理なのは間違いないだろう。
「そうだ……。母ちゃんは俺のたった一人の家族なんだ……」
黄金の木の実が山頂付近にあるのは、この村には昔から伝えられていたようだ。
木の実を求めてくる冒険者とかも多そうだもんね。
その黄金の木の実の効能は、一つ食べればあらゆる呪いをきれいさっぱり解くとのことだ。
毛が抜けたり、石化したり、呪いっていろいろあるんだね。
毒にもいろいろあるようなものか。
「じゃが、グリフォンがいる今行っても無駄死にするだけじゃ」
ディーンの言葉に村長がつげる。
グリフォンが巣くっていることは、もちろん村でも周知されている。
村長は村長でディーンの身を案じているのだろう。
グリフォンの巣に子供が向かうなんて自殺するようなものだからな。
「グリフォンを避けながら木の実だけとってくるさ……」
「何体いるか分からないグリフォン相手にそんなことできるわけないじゃろ」
そうだな……、魔物は総じて気配の察知能力がすぐれている。
人より過酷な生存競争に生き残っているゆえだろうか。
Aランクの魔物であるグリフォンの察知能力は推して知るべしだな。
それより、グリフォンって何体もいるのかよ。
想定はしていたけどさ……。
「そうかもしれないけどよ……」
ディーンも無理なのは分かっているのか、小さな声でつぶやいた。
無理なのは分かってるけど、母親のために居ても立ってもいられなかったのだろう。
よく分かる……。
俺もかつて非力な猫だった時、リルをさらわれて同じ気持ちになった。
自身の力の無さに、絶望しそうになった……。
この少年はかつての俺だ――。
こういうひたむきな子は、応援したくなっちゃうじゃんか。
猫さんは、頑張る少年の味方だよ。
まあ、この姿で猫に見られていないのは少し悲しいけど。
「クルニャーン!(一緒に行こうか!)」
一鳴きして、リルの方を振り向く。
こういう時のリルは、きっと俺と同じ気持ちだと確信している。
「シュン、ディーンも連れて行こ!」
リルの言葉に、ディーンと村長が目を丸くして驚いている。
そうだな、少年を連れていくだけだと、普通は俺たちにリスクはあってもメリットはない。
「じゃ、じゃがわしらにはAランクの冒険者に支払える報酬なんてありません……」
最近少し分かってきたけど、上位ランクの冒険者への依頼は莫大な報酬が必要なようだ。
さっき、村長がディーンに、街に冒険者を頼みに行くように言っていたのは、とりあえず思いとどまらせるためだったのだろう。
「ん? リルたちは報酬いらないよ。これは依頼じゃなくて、一緒に山登りするだけだしさ」
リルがウインクしながら言う。
狼耳の片方がウインクに合わせて、ピコッと折れて可愛かった。
「クルニャー!(そうそう、これはピクニックだよ!)」
「…………うん、ピクニック」
ライミーがちょっと嬉しそうだ。
他の人から見たら無表情に見えるのだろうけど、俺は最近ライミーの表情が分かってきたよ。
リルもライミーの表情の違いを分かっている感じだ。
半分ピクニック気分だったのが、完全にピクニック気分になった。
ピクニックと言えば自然の中で食べる、美味しいご飯!
そういえば、グリフォンって食べられるのかな?
◇◇◇
俺たちは山を登っているところだ。
先頭から、俺、ライミー、ディーン、リルの順だ。
そんなに離れてないから、後ろから襲撃があったとしても俺がなんとかできるはずだ。
山に登る前に、俺たちはディーンの母親に会いに行った。
もしかしたら、ライミーの水魔法で治せるかもしれないと思ったからだ。
ライミーの水魔法には、魔物が使う石化魔法の解除をするものもあるらしい。
けど、水魔法では治せなかった。
やはり石化の呪いのようだ。
石化自体もだいぶ進行していて、心臓が石化するまであと二週間という見立てらしい。
今からなら山を登って下りても間に合うと思い、少しほっとした。
「ディーン、大丈夫? そろそろ少し休む?」
リルがディーンに問いかける。
後ろから見てて、ディーンに疲れが見えたのだろう。
実際、子供にはきついペースで山道を進んでいるからね。
「大丈夫だ! なんならもっとペースを上げてもいいぜ」
この年ごろの少年の強がりだ。
今回は石化の期限もあって、気がはやっているのだろう。
まあいいか……。
ディーンが動けなくなったら俺が背負って登ろう。
◇
ひたすら山道を進む。
テクテクスタスタと登っていく。
茂っていて進みづらいところは、俺が風刃で刈ったり、土魔法で道をつくったりしている。
この毛がない猫さんは、役に立ちますよ~。
俺を構成していた成分の大部分であるモフモフを失ったためか、いつも以上に頑張ってしまう。
この気持ちは存在価値の主張?
「リルさんの従魔……シュンはすごいな! こんな猫は聞いたことないや」
ディーンが途中から猫だと認識してくれた。
「シュンはもっともっと凄いんだよ。きっとそんなシュンを見られると思うよ」
リルの言葉がうれしい。
その言葉で、あと八時間は戦えるよ。
そんな感じで数時間進み、山頂が近づいてきた時のことだ。
「クルルゥウ……(囲まれてるな……)」
「結構いっぱいいるね」
「…………ぽよ」
どうやらグリフォンに囲まれたようだ。
「えっ? グリフォンに囲まれてるのか? グリフォン一体でもAランク冒険者数人がかりで戦うって聞いたぞ」
ディーンが心配そうにしている。
お?
一体のグリフォンが前方上空から近づいてくる。
優雅に羽ばたき、俺の前に舞い降りた。
大きい体なのに、着地の音がほとんどしなかった。
鷲の上半身と翼に、獅子の下半身を持つグリフォン。
前足が鷲のもので、後足がライオンという姿は、とても神秘的だ。
大きさは、大きいライオンといったところだ。
体の鷲の部分が金色基調で、ライオンの部分は白基調。
その姿はとても優雅で艶があり、少し見とれてしまった。
胸のあたりが羽毛でモフモフしていて、埋もれたら気持ち良さそうだ……。
そして、今の俺はモフモフ成分を失っているということを思い出し、少しへこんだ。
「ガルルゥゥ……(わたしたちの縄張りに何の用だ?)」
グリフォンがうなり声を上げる。
えっ? あっれ~??
グリフォンの言葉が理解る。
理解ってしまうのだ。
リルたちの方をチラリ見るけど、リルに言葉が伝わってる様子はない。
ライミーは首を不思議そうにひねっているから、少し言葉が伝わっているのかもしれない。
もしかしてだけど……、グリフォンって猫科なの?
そりゃあ下半身――体の半分はライオンだけどさ。
驚愕の事実だ。
「クルニャーン(縄張りを荒らすつもりはないよ。山頂に用事があるだけなんだ)」
とりあえず話し合いでなんとかならないかな?
グリフォンを倒して食べる案は、俺の中で却下になった。
だって言葉が分かる相手を食べるのは、なんだか嫌なんだよ……。
それに……、どうもこのグリフォンって、メスなんだよ。
女性を一方的になぶるのは趣味じゃない。
違った意味で、どうしたものか困る状況になったのだった――。
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『地球からのお届けもので異世界最強 ~それ、使いかた違うからっ!!~』
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