第40話「偶然から生まれた……」
「クルニャー……(ふぅ……)」
どうやら俺だと気づいてもらえたようだ。
街を襲おうとしている巨大魔物だと思われてたようだ。
矢は飛んでくるし、魔法は飛んでくるし、何より味方からの攻撃って嫌だね。
でも、今回のは完全に俺が悪かった。
そりゃあ、街に得体の知れない大きな魔物っぽいものが近づいてきたら、迎撃するよね。
俺もリルに悪い虫が寄って来たら迎え撃つ気満々だし。
「クルニャー……(ただいま……)」
ズルズルとドラゴンの骨列車を引きずって街に近づく。
「シュン! おかえり~」
リルが近づいてきてくれた。
リルだけが俺の癒しだよ。
俺は骨列車から体を離して、リルの方に駆けていく。
急に重いものがなくなったから、加速しすぎて転びそうになった。
「クルニャン!(リル、ただいま!)」
リルの胸に飛び込む。
癒される~、このまま寝てしまいたい。
グリグリと頭をこすりつける。
「もう、くすぐったいってば。それよりもシュン、あれはなあに?」
リルが骨列車を指す。
たしかにちょっと離れて見てみると、得体のしれないことこの上なかった……。
梱包されてるからかゴミの固まりか、魔物の死がいにしか見えない。
「ルニャー!(いいものだよ!)」
その後、とりあえず家まで骨列車を運ばせてもらった。
騎士団長が便宜をはかってくれ、調べたりするのは家の庭でおこなわれることになった。
英雄の信頼度はこういうところでも助かるね。
騎士団長をはじめ皆に謝られたけど、まぎらわしい俺が悪かったのだから、全く気にしていない風をよそおったよ。
実際大して気にしてないしね。
◇
家の庭で、骨列車の荷ほどきをする。
騎士団長をはじめ、何人かは家までついてきた。
彼らとしても調査が必要だろうし、俺としても鑑定して欲しいところだったから丁度いい。
覆ってる土魔法をくずし、弱めのファイアストームで蜘蛛の糸を焼き払う。
「おお、なんて見事な魔法じゃ。合成魔法を無詠唱でしかも単独で使うとは……」
ローブ姿の爺さんが感嘆の声を上げる。
ユンクルって名前で“大魔導士”なんていう二つ名があるらしい。
魔法で攻撃してきたけど、あの状況ではしょうがないし、俺は気にしていない。
むしろ魔法について詳しいなら、いろいろ話を聞きたいと思ってるほどだ。
ところが、
「どうかわしを弟子にしてくだされ。わしの魔法など、魔導の深淵のほんの入口だったと気づかされましたわ」
魔法については、俺が教えてほしいのに、なぜか教えをこわれるこの状況……。
この爺さん、初めは落ち込んでいたのに、今はなぜかスッキリした顔で俺に弟子入り志願してくる。
「クルナー!(嫌だ! 爺さんの弟子なんかいらない!)」
俺の拒絶はなかなか伝わらなかった……。
梱包を取っ払ったところ、ドラゴンの骨があらわになる。
光輝く大きな骨の固まりがいくつも庭に並ぶことになった。
何かのオブジェのような光景だ。
オーロラの輝きを発する骨は、とても幻想的だった。
「な、何の骨だ……これは?」
騎士団長が緊張した面持ちでつぶやく。
量と大きさからただ事ではないと思っている様子だ。
「クルニャーン!(ドラゴンだよ!)」
伝わるかな?
「…………ドラゴン?」
ライミーが俺の言葉を拾ってくれた。
「えっ? これってドラゴンの骨なの??」
リルもちょっと驚いているようだ。
「さすがはお師匠様! わしでは良くて足止めがせいぜいのドラゴンを倒してしまわれるとは……」
ユンクル……、弟子にした覚えはない。
「ドラゴンの骨か……、とりあえず少し待っててくれ」
騎士団長は、人を呼んでくるといって出て行ってしまった。
◇
騎士団長がギルドマスターのレイモンドを連れてもどってきた。
「ここがリルとシュンの家か。おお、ユンクル様もおりましたか」
「レイモンドよ、あとでこの街の宿を紹介してくれ。しばらくこの街にいることにしたわ」
ユンクルはギルマスのおっちゃんに宿探しを頼んでいる。
ユンクルは弟子入りとやらをまだ諦めてない様子だ。
「レイモンドさん、これシュンが持ってきたんだよ!」
「クルニャン!(どう? すごいでしょ!)」
ドラゴンの骨を見てもらう。
「おお……、ドラゴンなんて何かの冗談だと思ったけど、これは本物だな……それに……」
おっちゃんは口を開けたまま、見とれたようにドラゴンの骨をあちこち眺めている。
「どうしたんだ? ドラゴンの骨以上に何かあるのか?」
騎士団長がおっちゃんに問いかける。
「おそらくだが、光属性が付与されているぞ……。だよな? ユンクル様?」
おっちゃんはユンクルに確認を取るように話しかける。
「おそらくな……。わしの見たことある光属性の武器とは少し違うが、間違いないだろう」
ユンクルが同意をしめす。
光属性?
心当たりは……、四つの魔法を合成した光魔法もどきをぶつけたから?
「これが光属性つきのドラゴンの骨なら……」
「骨なら……」
おっちゃんの言葉に、騎士団長が息をのむ。
「これは国宝級の素材だ……」
「こ、国宝級……。これが全部か……?」
「これが全部だ。光属性は四大属性と違って、付与しようとして付与できるものじゃない。
現存する光属性の武器が全て伝説遺物とされてて、
人の手によって生産不可能なことは知っているだろう?」
そうなの?
俺は知らなかった。
もしかして、とんでもないものを持ってきてしまったかもしれない……。
これ全部が国宝級だと……。
九両分もあるんですけど。
「その通りだ。光魔法こそ真なる伝説の魔法だ。使い方は謎のままで、その魔法の存在の真偽すら疑われている幻の魔法だからな」
ユンクルがおっちゃんたちの話に割って入って説明してくれた。
「クルルゥ……(だって光魔法をバーンって使っただけだよ……)」
光魔法に耐えうるドラゴンの骨だからこそ、偶然そんなことになってしまったのだろうか。
小市民な俺は国宝級が山盛りと知って、ちょっとドキドキしてきた。
もしかして、四大元素魔法の四つを合成できる人が現代にはいないってこと?
「これだけあったら、伝説の武器が大量生産できるかもなあ……。光属性つきの武器防具はその効果も凄まじいらしいからな」
おっちゃんがまぶしいものを見るように目を細める。
「あつかいをどうしたものか……」
騎士団長が小さくため息をついた。
どうやら扱いに困るほどのしろもののようだ。
国宝級を個人が大量所有してると問題もありそうだよね。
「リルにおまかせで良いんじゃないか。今や、伯爵も認めるこの街の英雄だしよ」
おっちゃんは笑いながら、そう提案する。
そんなわけで、我が家の庭には国宝級……とされるドラゴン骨のオブジェが並ぶことになった。
騎士団長が盗難とかを心配したが、おっちゃんが言うには「Aランクの冒険者の家に盗みに入るやつなんていない。それに一つ一つが大きくて重いから、運び出そうとしてる間にシュンに見つかるだろう」ということだった。
俺もそう思うよ。
それよりも今度、加工してもらわないとね。
それが当初の目的だし。
光属性は完全に偶然だけど、おかげで予定よりも良い武器がつくれることになるだろう。
世の中には偶然から生まれた発明も多いって言うしね。
伝説級の武器を装備した猫軍団。
「クルニャーン!(楽しみになってきた!)」
俺はモフっと拳を握りしめたのだった。




