第38話「ドラゴン骨列車のお通りだよ」
目の前には、光り輝く巨大なドラゴンの骨。
このドラゴンの骨を街まで運ぶのが結構な大仕事だ。
一応、方法は考えてある。
上手くいくか分からないけど。
それに、量が多すぎて全部を運ぶのは無理だろう。
まず、ドラゴンの骨をバラバラにしてから何カ所かに集める。
「クルニャー(寄せて小さな山をいくつか作る感じで)」
ドラゴンの骨の小山をきずいていく。
それから大型の蜘蛛を捕まえてきて、糸を出させる。
その蜘蛛糸で骨のかたまりをグールグールと包んでいく。
見た感じはラップ梱包みたいだ。
一説では、蜘蛛の糸って鋼鉄の数百倍の強度っていうもんね。
蜘蛛を捕まえてきては糸を出させ、糸が出なくなったらリリース。
これをひたすら繰り返した。
「クルルゥ(ついでに土魔法で補強してと)」
ここまでで結構な時間をついやした。
最後にドラゴンの骨を梱包したもの同士を、蜘蛛糸の縄で連結してと……。
「クルニャーン!(できたー!)」
なんたる達成感。
ドラゴンスケルトンとの戦闘よりもはるかに時間がかかった。
俺の目の前にあるのは、梱包されたドラゴン骨の固まりがいくつも連なって連結されているものだ。
固まり一つの大きさは宿屋の一室より一回り小さいくらいの大きさといったところだ。
その固まりが長く一列に連結されている。
見た目は、“貨物列車”だ。
九つの固まりが連結された、九両編成のなが~い列車だ。
大きい固まりだと、洞窟のあちこちに引っかかるから、洞窟を通れる大きさの固まりをいくつも作ってつなげることにしたのだ。
色は、骨と糸を土魔法で補強してあるため、白基調にところどころ茶色が混じっているような感じになっている。
蚕の繭を汚した感じ……、まあ見た目は気にしないでおこう。
九両分でかなりの量だけど、ドラゴンの骨はまだ残ってる。
全部を持って帰るのは無理そうだから、残念ながら一部はあきらめることにした。
連結した分だけでも十分な量があるしね。
武器とかをたっぷり作れるはずだ。
ドラゴンの骨って言ったらレア素材だろうから、余った分は売っても結構な金額になりそうだ。
これを俺が引っ張って街まで持って帰るのだ。
「クルニャン(この方法を思いついた自分の才能が怖い……)」
こんなにドラゴンの骨をいっぱい持って帰ったら、リルに褒められちゃうな。
リルが、「シュン、頑張ったね! すごいね! もう一年間くらい食っちゃモフの生活してていいよ! はい、リルの尻尾だよ。たっぷりモフモフしてねっ」なんて言ってくれるかも!
…………。
まずいまずい、俺は調子に乗るとだいたいろくなことにならないからな。
家に帰るまでがお出かけだ。
気を抜かずに帰ることにしよう。
一番前の固まりには、縄状の蜘蛛の糸を取っ手として付けている。
それを俺はたすき掛けにした。
「クルニャー!(出発進行ー!)」
そういえば、出発進行は出発するぞ!って意味じゃないんだっけ?
まあ、細かいことは気にしないもんねー。
洞窟の出口を目指して俺は進む。
ちょくちょくと“猛進”のスキルを使いながら、進む速度を調整している。
九つの固まりが良い感じに洞窟内を進んでいく。
なんとなく蛇になった気分だ。
固まりが連なってるから、ムカデの方が近いかもしれない。
運ぶものが強度のあるもので良かった。
何度も洞窟の壁にこすったりぶつけたりしてるけど、ドラゴンの骨はとてつもなく硬いので助かっている。
ぶつけても洞窟が削れるだけなのだ。
ドラゴンの骨は傷一つつかない。
多少梱包が痛むけど気にしない。
ガリガリと洞窟を削りながら出口に向かう。
一度止まると動き出す時に重くて大変だから、勢いのままガンガン進む。
途中で何体かの魔物をひいたり、弾き飛ばしたりした。
特に問題なく洞窟の出口にたどり着いた。
勢いのままに洞窟から外に飛び出す。
ズザザザザっと周囲をけずりながら一旦止まる。
今は夜のようで、辺りは暗い。
「クルルゥ(さて……、あとは森を抜けて街道沿いに街に戻るだけだな)」
ドラゴン骨の車両をチェックする。
梱包が緩んでいるところは土魔法でペタペタと固めて
補強していく。
土魔法が思っていた以上に便利だ。
チェックが終わったところで再出発だ。
「クルニャーーー!!!(ニャッハーーー!!!)」
人がいないことを良いことに、“猛進”を使って森の中を爆走する。
ドラゴン骨列車が木々をなぎ倒しながら進んでいく。
巨大なヌンチャクみたいだなと思った。
自分がまるで超大型の魔物になった気分だ。
まあ……少し遠くから見たら、巨大なムカデか巨大なワーム系の魔物だよね。
「ルニャーー!!(飛び出してきた魔物は、転生させちゃうよーー!! 猫に!)」
どいたどいた~! ドラゴン骨列車のお通りだよ~!
徹夜明けのナチュラルハイのようなテンションで突き進む。
戦って、作業して、寝ずに荷物を引っ張ってたから妙なテンションになっていた。
◇
森を抜けて街道近くに出た時には、日が昇り始めた。
「クルニャ(ここからは人に気をつけていこう)」
うっかり人をひかないように、気をつけながら街道脇を進む。
あと少しで街に着く……。
疲れたよ……。
昼過ぎくらいに、街まであと少しというところまで来た。
遠くに街が小さく見える。
あとひとふんばりだ。
進むにつれて街が徐々に大きく見えてくると、視界に映ったものがある。
街の手前というか、門の手前に人がいっぱい見える。
「クルニャン?(もしかしてお出迎えかな?)」
俺はちょっと嬉しくなり、街に近づいていく。
人の姿が徐々に見えてくる。
この距離だとまだ向こうからは俺のことがハッキリとは見えないと思う。
けど、俺は目が良いから誰がいるか見えてくる。
知っている人たちが見える。
どうやら騎士団の人たちや冒険者たちが出迎えてくれてるみたいだ。
一番真ん中には騎士団長がいる。
その近くにいるローブを着た爺さん?は初めて見る。
リルも迎えに来てくれてるのかな……。
その時、騎士団長が手を上に上げて振ってくれた
何かを叫んでいるけど、まだ声は聞こえない距離だ。
きっと「おかえり!」的な感じだろう。
「クルニャーン!(ただいまー!)」
喜びいさんで、俺が歩みを進めたときのことだ。
騎士や冒険者たちから一斉に矢が放たれた。
…………俺に向かってだ。
ザーッと矢の雨が降りそそぐ。
「クルナー!?(なんで!?)」
お出迎えだと思ったら、なぜか迎撃されたのだった。




