第34話「最強肉料理のハンバーグ」
俺たちは食事をすることにした。
もちろんライミーも誘ってだ。
食材はサンダーバッファローこと水牛の肉だ。
角は討伐証明部位なので回収した。
今は、リルが水牛の肉をミンチにしているところだ。
「この包丁、良い切れ味だよっ」
リルが嬉しそうにトントンと肉を細かくしていく。
伯爵のところの鍛冶師ゴードンからもらった業物包丁らしい。
リルは、ビーフハンバーグならぬ水牛ハンバーグを作るんだってさ。
水牛肉は結構固く歯ごたえがあるらしい。
それならステーキよりもハンバーグの方が、猫たちにも食べやすいかもね。
合いびき肉に比べてビーフだけのハンバーグって、より肉の味が主張してきて好きな人は好きだよね。
水牛だとどんな味なんだろうね。
リルがひき肉に卵と玉ねぎを混ぜようと……。
「クルニャ!(玉ねぎ駄目ー!)」
俺は耐性があるからいいけど、猫たちには毒だ。
何とか身ぶり手ぶりで伝えようと頑張る。
この前、バーベキューをしたときは野菜を猫たちに食べないように伝えた。
けど、ハンバーグみたいに混ざると、食べられるものが無くなってしまう。
「シュン? どうしたの?? まだこれから焼くところだよ……」
リルが首をかしげている。
「…………リル。
…………玉ねぎ、猫ダメ」
ライミーがリルに玉ねぎのことを指摘する。
ライミーが物知りで良かったよ。
「そうなんだ~。シュンいつも食べてるけど、これからは玉ねぎ抜きがいい?」
リルは俺が毒耐性持ちだということを、なんとなく気づいてると思う。
普通の猫と違うとも思ってるはずだ。
だから、猫に駄目と言われる玉ねぎについても聞いてくれるのだろう。
「クルニャ―(俺は玉ねぎ入りがいい)」
俺は首を横に振って、玉ねぎを抜かなくていいことを伝える。
むしろ、ねぎだくで。
そんなわけで、玉ねぎ入りのハンバーグと、玉ねぎ抜きのハンバーグを作ってくれることになった。
リルがコネコネとハンバーグのタネをつくっていく。
ときおりリルの手元がキラッと光る。
「…………リル、すごい」
「ライミー、どうしたの?」
ライミーの声にリルが問いかける。
「…………それ、レアスキル」
リルの手元をライミーが指差す。
料理中に光るのはリルが珍しいスキルを持っているからってこと?
俺もスキルの可能性は考えていた。
「そうなの? 自分ではコントロールできないんだけど、美味しい分にはいいかなって思ってるよ」
リルは気楽に考えていたようだ。
「…………それには同意」
ライミーも美味しい分にはいいらしい。
レアスキルって言葉が出てくるってことは、ライミーは何か知ってるのかな。
今度話してくれるかな。
リルが鉄板の上にハンバーグのタネを並べていく。
ジューッと肉が焼けていく音が心地良い。
美味しそうな匂いが周囲を包み、俺のよだれを誘う。
ハンバーグが焼ける時間なんてそんなに長くはない。
けど、その時間がとても長く感じる。
猫たちの方を見ると、みんな口を半開きにして、すでによだれを垂らしていた。
ライミーもじっと料理ができるのを待っている。
そういえば、ライミーの種族のこと全然知らないな。
食べ物は人族と同じなのだろうか?
好き嫌いとかあるのだろうか?
「…………ぽよ」
少なくとも、ハンバーグを眺めるその姿を見るかぎり、肉は好きなんだと思う。
「おまたせ~!」
リルがハンバーグをお皿に乗せてくれる。
いつの間にかソースもかかっていて、食欲をそそる。
俺だけハンバーグが二つ盛り付けられている。
美味しそう……。
完全に美味しいやつだよ。
目と鼻が完全に美味しいものだと訴えてくる。
「ご飯にしよ! いただきます!」
「「「ニャー!(いただきます!)」」」
「…………いただきます」
俺と猫たちはハンバーグにかぶりつく。
うまっ!?
分かってたけど、美味すぎる!
かぶりついたところから肉汁があふれ出してくる。
口の中に肉のうまみが広がっていく。
ハンバーグだからか、聞いていた水牛特有の固さは無い。
ほど良い感じに口の中でほぐれていく。
やわらかいのに、肉を食べている感、その満足感がすごい。。
「クルニャーン!(うまい! 美味しくて幸せだよ!)」
猫たちをチラリ見る。
少し熱かったのかハフハフしながら食べている。
みんな美味しそうに食べているよ。
リルの料理を美味しく食べてもらえると、なんだか俺も嬉しいんだよね。
どうだ?リルって凄いでしょ~?って気持ちになる。
「…………幸せ」
ライミーがフォークを使ってハンバーグを食べている。
あまり表情には出ていないけど、嬉しそうなのはなんとなく伝わった。
「クルニャー!(リルのご飯美味しいでしょ!)」
ライミーに向かって鳴いた。
言葉は伝わらないだろうけど、思いは伝わるかもしれない。
俺はリルとの付き合いで、そう思うようになってきた。
たまに、全然違う意味に取られることもあるけどね……。
「…………シュンは分かりやすい」
ライミーが俺を見て言う。
俺って、思ってることがすぐ顔に出るってこと?
「…………今までで一番美味しい肉」
ライミーはハンバーグをフォークに刺し、美味しそうにほおばる。
いつも無表情なライミーが微笑んだ気がして、俺はついドキッとしてしまった。
俺がライミーに見とれてる最中。
「ニャッ……!?(うぅ……!? 苦しいっす……)」
後ろを振り返ると、ミケがうめいている。
「ルニャ?(どうした?)」
何があったのかと思い、ミケのすぐそばを見ると……。
どうやら俺のハンバーグの残り一つを失敬しようとしたらしい。
まだ手を付けていなかったはずのハンバーグがかじられている。
玉ねぎ入りの俺のハンバーグを食べてあたったようだ。
ミケの食い意地が原因ということだ。
「クルニャ……(お前なあ……)」
ちょっと可哀想だけど、成猫のミケが一口食べたくらいなら、少し時間が立てば苦しみも収まるはずだ。
そう考えていると、ライミーがミケのそばまでやってきて屈んだ。
ライミーがミケに手をかざす。
「…………ぽよ」
ライミーの手から青い光が出て、ミケに吸収されていく。
苦しんでいたミケの様子が落ちついていく。
「ニャン(あ、体が楽になったっす)」
まるで何事もなかったかのように、ミケは起き上がった。
今のは魔法?
毒を消す魔法のように見えた。
「は~、すごいねライミーって」
リルがライミーに声をかける。
「…………水魔法。
…………リルの料理の方がすごい」
ライミーはリルのレアスキルのことを言ってるのかな。
美味しい料理はみんなを幸せにするしね。
けど、リルが言うようにライミーもすごい。
今回のことで再認識した。
俺は自分に対する毒やダメージはなんとかできるけど、仲間にそれが向けられたときに無力だということを。
俺もまだまだ全然駄目だな……。
強さとは、理不尽から守りたいものを守る力だと思ってる。
もっと強くならないとな……。
「ニャン……(ボス……、つまみ食いしてごめんなさいっす)」
ミケがショボンとしながら俺に謝ってきた。
玉ねぎが原因で苦しんだことも分かっただろう。
生の玉ねぎなら匂いで分かるけど、火を通して混ぜちゃうと分かりづらいもんね。
気づけたこともあるし、ライミーの活躍も見れたし、俺は別にミケに対して怒っていない。
「クルニャン(俺に謝るより、ライミーにお礼だよ)」
だからそっちの方が大事なことだ。
ミケはハッとした様子で、ライミーのそばに向かった。
「ニャン!(ライミーの姉御。ありがとうっす)」
ミケがライミーにペコリと頭を下げる。
姉御って……。
「…………気にしないで」
ライミーがミケの頭をなでる。
なでられているミケも嬉しそうだ。
ライミーのおかげで、俺たちらしいマッタリした雰囲気を取り戻すことができた。
猫たちもライミーに信頼をよせている様子だ。
もし、ライミーがよかったら、俺たちの仲間になってくれないかな……。
そんな風に思ったのだった――――。




