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第29話「猫の、猫による、猫のための」

 まだ早朝というにも早い時間。

 午前3時くらいだろうか。


 俺は今、街の路地を歩いている。


 昨日はリルがAランクになったり、2億ソマリ以上の報酬をもらったりと凄い一日だったな。


 リルは報酬の一部をミーナに受け取ってもらおうとしていた。

 家にお金を入れる感じだろう。

 けど、ミーナにはきっぱりと断られてしまった。


 そこで、リルはミーナに内緒で何やら計画しているようだった

 リルは、「考えてることがあるんだよね~」と嬉しそうにしていた。


 きっと近いうちに何かするんだろう。



 さて、今は……と。


 路地を歩いていると、目の前に猫が飛び出してきた。

 討伐戦の時に、林の中で会った猫だ。


 明るいところで見て分かったけど、こいつは長毛の三毛猫だったんだね。


「ニャー(ボス、来てくれたんすね)」


「クルニャ(ああ、約束しちまったからな。けど、ボスではない)」


 俺はまだ自分がボスだとは認めていない。


「ニャー(案内するから、ついてくるっす)」


 三毛猫はこっちの話を聞かず、背を向けて歩き始めた。

 とりあえず俺はそれについて行く。


 路地を進むと、ちょっとした路地裏の広場に出た。


「ニャー(みんなを呼ぶっすね)」


「クルニャ?(みんなを呼ぶ?)」


 ここに猫たちを呼ぶのだろうか。


「ニャーーー!!!(集まるっすーーー!!!)」


 思いのほか大きな鳴き声にちょっとびっくりした。


 三毛猫の鳴き声が周囲に響きわたってから待つことしばし。


「「ミャー」」


 ぞろぞろと猫が集まってくる。


「「ニャン」」


 広場の猫密度が上がっていく。

 大小さまざま、毛色も多種多様だ。

 首根っこをつかまれて連れてこられた子猫もいる。


「……ニャ(朝早くから眠いのに……)」


 眠そうな猫もいる。


 目前の広場が猫で満たされた……。


 猫、ねこ、ネコ……。


 乗車率200%という言葉が頭をよぎる。  


「クルニャ……(圧巻(あっかん)にゃ……)」


 ぱっと見ただけでも、百匹以上いるのではなかろうか。

 視界が猫に埋め尽くされた。


「ニ゛ャー(あらーん、来てくれたのねぇ)」


 ポッチャリした白い猫が、前に出てきた。

 キャサリン……、あいかわらずの存在感だ。


「クルニャン(来ないと俺の安寧が無い気がしてね……。さっそく本題に入ってもらえるかな?)」


 いつもなら、まだリルの腕の中なのに、誘惑を振り切ってきたんだから……。


「ニ゛ャーン(せっかちなオスはモテないゾ)」


 キャサリンがクネクネとしなを作りながらウインクしてきた。


 イラッとして、風刃(ふうじん)を使いそうになった……、けどなんとか我慢した。


「クルルゥ……(用がないなら帰るぞ……)」


 俺の言葉に、さすがのキャサリンも居住まいをただし、真剣な態度になる。


「ニ゛ャーン(話というのはね、察してると思うけど私たちのボスになってほしいのよ)」


「クルニャ(なんで俺が? やらないからな)」


 柄じゃないし、俺には責任が持てない。

 この街は良い人が多いと言っても、野良猫には辛いことも多いはずだ。


 寒さや、飢え……、暴力をふるわれることもあるかもしれない。

 俺は全てを救えるなんて、傲慢(ごうまん)にはなれない。


 リルを守ることが全てだ。


 他の全てを犠牲にしても、リルだけは必ず守る……。


 それに加えて猫たち全てを守るなんて、無理な話だろう。

 猫たちにもこの街で元気に過ごしてほしいけど、どうしたって目の届かないことだってある。


 ボスになった場合、自分が面倒みている猫が傷ついたり倒れたりしたら、つらい思いをするだろう。

 だったら、初めから人(猫)の上に立つことなんてしたくない。


「ニ゛ャーン……(あなたに守って欲しいわけじゃないわ。私たち自身は私たちが守るわ。そのためのきっかけになってほしいの。あなたならできると、なぜかそう思うのよ)」


 保護下に入りたいわけじゃないと、すがってるわけじゃないと……。

 自分たちの身は自分たちで守れるように努力すると告げてくる。

 あくまで俺はきっかけにすぎないと……。


 猫が猫であるために力を貸してほしいと、訴えてくる。


 俺は他の猫たちを見回した。


 大きい猫も、小さい猫も、真剣に俺を見ている。


 守ってもらおうとするのではなく、自分たちで頑張ろうとする姿に、俺は心を動かされたのかもしれない……。


「クルルニャー……(はぁ……、分かったよ……。あくまで力を貸すんだからな……)」


 熱意に負けた……、ってことにしたけど、自分の中でスッキリした気持ちもある。

 リルが俺の立場だったら、引き受けるんだろうなあと思ったのもある。


「ニ゛ャン。ニ゛ャー!(ありがとう、ボス。今から本当に彼がボスよ!)」


「「「「ニャー! ミャー! ニャーン!!」」」」


 猫たちの合唱が始まる。


 こんな早い時間から近所迷惑このうえない……。


「クルニャン!(静かにっ!)」


 俺の方が合唱より小さい声ながら、みんなの声が止む。

 なんとなくボスになったことを実感した。


「クルニャー(これからは、言うことを聞いて欲しい)」


「ニャン(命令してくれれば聞くっすよ)」


 三毛猫が口をはさんでくる。


 命令するのは、しばらく慣れない気がするよ。


「クルニャン!(お前たちを、強い猫にしていく! 猫であることに誇りを! モフられることに幸せを!)」


 自分で言ってて、ちょっと意味が分からなくなってきた。


 だけど……。


 この世界、生きていくには強さが必要不可欠だ。

 みんなワイルドキャットなのだろうか。

 違う猫科もいるのかもしれない。


 けど……、俺も含めて“猫”であることには違いない。


 俺にできる限りで、生きていくための力をつけさせてやりたいと思っている。


「「「「ニャー! ニャー! ニャーン!!(猫であることに誇りを! モフられることに幸せを! ボス! ボス! ボッス!!)」」」」


 ちょっ…………。


 だから近所迷惑だってば……。

 あおった俺も悪かったけどさ。


「クルニャン!(静かにっ!)」


 ハアハアハァ……。


 こいつらには常識も教えていかないとな。。


 そういえば……。


「クルニャ?(なあ、お前たちって名前とかあるの?)」


 名前がないと呼びづらいからね。


「ニャー(自分たちには名前なんて無いっすよ)」


 三毛猫が教えてくれる。


 マジか……。


 一瞬ぼうぜんとしたけど、すぐに名案が浮かんだ。


「クルナー!(では、これからみんなに名前を与える!)」


 ちょっと調子出て来たよー!


 猫たちがガヤガヤ……いやミャーミャーし始める。


「ニャー!(マジっすか? それはめっちゃ嬉しいかもっす)」


 他の猫たちもウンウンと三毛猫に同意をしめす。


 じゃあ何で今まで名前つけてなかったのさ、と思ったけど猫には猫の世界があるのだろう。

 飼い猫になると名前がもらえる、とかはあったかもしれない。


 強くなっていくためにも、新しい世界に踏み出してもらおう。


 といっても、そんな大げさなものではないけど、とりあえずみんなの名前をつけよう。


「クルニャン(じゃあ君は三毛猫だから“ミケ”ね)」


 安易だって? 


 覚えやすさが大事だ。

 だってまだまだいっぱいいるんだからさ……。


「ニャン!(ボス、ありがとうっす! ミケ……かあ、いい名前っす)」


 ほらね、気に入ってるみたいだしさ。


「ニ゛ャー?(あたしは?)」


「クルニャー(“キャサリン”だ。ボスをやってたみたいだし、これからは副団長ね)」


 キャサリンも、名前が気に入ったみたい……?

 クネクネしてるから嬉しいのだと思う……。


 この猫軍団の副団長を任せることにした。

 俺の分までがんばってね。


「クルニャー(君は“クロ”で、君は“シロ”)」


 オボエヤスサダイジ……。


 どうしよう……。

 最後まで名前つけきれるかな。


 つける名前が浮かばなくなるかもと不安になる。

 いざとなったら、星座シリーズや干支シリーズに走るかもしれない。


 猫なのにネズミとはこれいかに……。


 名前がアルファベットの一文字だけとかになったらごめんね……。




 そんな感じで覚えやすい名前をつけていった。


「クルニャー……(なんだか疲れたよ……。とりあえずまた明日ね。今日は解散で……)」


 名前をつけるの大変だったよ。

 今後どうしていくかは俺も考えておくことにする。


 ボスになった以上は、猫たちに力を与えたい。

 それを望むかぎりは……。


 俺は猫たちにおやすみを告げて、ミーナの家に戻る。


 開けて出てきた二階の窓から入る。


 手足の砂をしっかりはらってから、リルとミーナの寝ているベッドに向かう。


「クルルゥ(起こさないように、そーっとね……)」


 二人の間に静かに割り込む。


「……んぅ、……シュン……もふぅ……」


 リルがムニャムニャしてて可愛い。


 さて、ひと眠りしますか。


 俺はちょっとした達成感と幸せな気持ちの中、眠りに落ちていったのだった――――。

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