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第27話「空飛ぶ猫ふたたび!」

日中、動画サイトで主人公のモデルになってるメインクーンの鳴き声動画を見てました。

(これは取材と言い訳しながら……)

30クルニャ以上見てたと思います。

 一晩ゆっくり休んで、今日は午前中から冒険者ギルドにやってきた。


 多くの冒険者が昨日帰ってきたばかりだからか、いつもよりギルド内が空いている。

 討伐軍参戦は結構な報酬が出るみたいだし、しばらく遊んでる冒険者も多いのかもね。


「じゃあリルさんは、この2つの依頼でいいですね」


 リルがギルドの受付嬢に、受ける依頼を伝えて許可をもらったところだ。

 受付嬢はミーナの同僚で、カーミラという女性だ。

 カーミラはおっとりした雰囲気をしてて、秘書風なミーナとは対照的だ。


「ウインドディアーとマーダービーだよね。今度は間違えないようにしないとだね」


 リルが俺の方を見ながら苦笑いする。


 初依頼でウインドディアーを間違えたことを思い出したのだろう。

 

「クルニャー(今度はこの前よりもしっかり特徴を聞いたから大丈夫だよ!)」


 EランクのウインドディアーとCランクのマーダービーだ。

 禍々しくない普通の鹿と、ちょっとだけ危なそうに見えるソフトボール大の(はち)を倒せばいいはずだ。


 ここ数日は、マーダービーがウインドディアーのいる場所に出るようになってしまったため、Eランクの冒険者には依頼できなかったらしい。


「じゃあいってきますね、カーミラさん」


「はい、夕方ならギルドマスターも時間が取れるそうですから、忘れずにお願いしますね」


 ギルドマスターのおっちゃんが、討伐軍のことで話があったらしいけど、今は出かけているそうだ。

 報酬とかについても、その時に直接話してくれるってさ。


 今回はオークキングやジェネラルを倒したから、期待しちゃうよね。

 しばらく楽できるくらいの報酬がもらえるかもしれない。

 ミーナにもお世話になってるし、お礼することができるといいな。



◇◇◇



 俺とリルは森の中を疾走している。


「シュン! そっちに二体行ったよ!」


「クルニャーン!(任された~!)」


 俺の方に向かってくる2体のウインドディアーをサクッと仕留める。

 以前の凶悪な鹿(フルフル)とは雰囲気も強さも別物だった。


 使ってくる風魔法も、鹿自身の走る速度を補助するようなものだった。


 マーダービーも多少素早い程度の動きだったから苦労せずに倒せた。

 リルが念のために持ってきた毒消しも使うことがなくて何よりだ。


 鹿と蜂をある程度倒したところで、その成果はすぐそこにある台車に山積みになっている。

 これ以上はかさばって大変だから、まだ昼過ぎくらいだけど、ご飯を食べてから街に戻ることにした。


 お昼は街で買ってきたパンと、獲ったばかりの鹿肉だ。

 時間をかけないで作るということで、シンプルに鹿肉の焼肉にした。


「クルルゥニャーン!(リルのご飯はやっぱりおいしい~!)」


 この鹿肉も、モニュ美味い!

 この()みごたえがクセになるね。


 たしかに以前の高級鹿肉の方が、旨みが多くて美味しかったけど、これも十分美味しい。

 手軽な食べ放題の肉にも、その良さってあるもんね。


「シュン、焼き加減はだいじょうぶ?」


「クルニャーン!(ばっちりだよ! このレアな感じが凄くいい!)」


 今日もリルの作ったご飯が食べられて幸せだよ!


「シュン、あっちも食べる?」


 あっち? まだ何かあったっけ……。


 リルが指差した方には、マーダービーの死がいが……。


「ルニャッ!(あっちはノーだよ!)」


 ブンブンと首を振ったところで、リルに意思が伝わったようで良かった。


 以前、強くならなければいけない時に、虫でもサソリでもなんでも食べたけど、あの時は必死だったから味なんて覚えていない。

 今は味わってまで食べたいと思わないかな。


 食べると結構美味しいとは言うけどさ……。 




 そしてやってきました!


 食べてる途中で、ウインドディアーのスキルの“風魔法”が手に入った。

 

 持ってる火魔法の経験上、魔法は使用者の魔力量や魔力操作能力によって、威力や効果が大きく変わってくる。

 つまり、ウインドディアーが使う風魔法と、俺が使う風魔法はいろいろと違ってくるんだ。


 魔法自体まだ使いこなせてるとは言えないけど、風魔法で試してみたいことがあるんだ。



「クルルニャー!(空飛ぶ猫ふたたび!)」


 俺はミーアキャットのように、二本足で地面に立つ


「シュン、それ食べ終わるとやるあいさつか何かなの?」


 リルが笑いながら問いかけてきた。

 ワイバーンのときもやってたもんね。


「クルニャン!(まあ見ててっ!)」


 俺には翼や羽がないから、何かで代用できないかと考えていた。


 そこで思いついたのが風魔法だ。

 ウインドディアーが推進力を増すために使っていた風魔法。


 これを飛ぶ際の体のコントロールに使う。

 とりあえずは風の通路を作って、そこを“飛行”で滑るイメージだ。

 慣れてきたらもっと細かい動きができると思う。


「クルニャ~~~!!(俺は空を飛ぶ!)」


 “飛行”と“風魔法”を合わせて使う。


 スキル合成! 『飛翔』


 スキルを発動させた瞬間、凄い勢いで上に引っ張られる。


 視界が目まぐるしく変わる。

 

 目に映るものが後ろに滑っていく。


「ルニャー!(目が回りそう~!)」


 風魔法のコントロールで何とか体勢をととのえる。


 少し慣れてきて、周囲を見回すと、そこは空中だった。


 止まり方が分からず、空を滑っている感じだが、これは飛べていると言ってもいいだろう。


 高さ10メートルくらいのところを、高速で滑るように飛ぶ猫。


 風を切る気持ちよさを感じる余裕もでてきた。


 俺は今飛んでいるぞ~!


「シュン~! 何それ~? 楽しそうでいいな~」


 リルの声が下から聞こえる。

 今度飛ぶのが上手くなったら、リルを乗せて飛ぶからね。


 さてそろそろ一旦下りようかな。


「…………」


 これって……どうやって止まるんだろ……。


 スキーの初心者が、滑り出したら止まれなくなった感じだろうか。


 大丈夫だ。

 この前もっと高いところから落ちたことを考えたら、最悪落ちても大丈夫……。


 スピードが結構やばくない……?


 たしか衝撃って、スピードの二乗に比例する……だっけ。

 よく分からないけど、このスピードで突っ込むとちょっとやばそうな気がする。


 こうなったら……。


 地面の土の柔らかそうなところに狙いを定める。


 地面への突入角度は、可能な限り地面に水平に!


「クルニャ!(ここだ!)」


 地面に突入する瞬間に、体を丸める。


 俺は丸い何かだ、と自分に言い聞かせる。


 !?!?


 地面に接した瞬間に、凄い勢いで転がる。


 自分がボールになった気分だ。


 …………。


 どれくらい転がっただろうか……。


 徐々にスピードが落ちて、なんとか止まることができた。


 丸まっていたのが解けて、その場に大の字になる俺。

 尻尾があるから“大”の字じゃなくて“木”の字が正しいかもしれない……。


「シュン、なんだか楽しそうだったね。空飛んでたねっ」 


 あおむけになっている俺を、リルがのぞき込んできた。


「ルルウニャ……(目が回ってる……)」


「ころころ転がるのも、丸い毛玉で可愛かったよ」


 笑顔でそんなことを言われてしまっては……。


 失敗したのも悪くないと思うしかないじゃんか。


 飛翔は、もっともっと練習しないとだね。

 でも、空を飛ぶ大きな一歩になったのは間違いないだろう。


 目が回りながらも、俺はその結果に満足したのだった。

 

 

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こちらも本作も、それぞれ独立した作品として楽しめます。
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