第25話「いつの間にか、終わってた……」
空からの墜落は、ちょっと痛いだけですんだ。
オークジェネラルのいた現場に戻るのも気恥ずかしかったから、そのまま俺はリルの元に戻った。
リルに「長いトイレだったね」と言われて、用を足し忘れたことを思い出したよ。
リルの尻尾にくるまれて眠るつもりが、いつもどおり猫まくらにされて眠ることになった。
さっき会った猫の言葉を思い出し、自分のにおいが気になったけど、
「シュンのにおい、落ち着く良い匂い……」
そんなリルの言葉を聞いて少しほっとしたのだった。
◇◇◇
次の日の朝、兵士や冒険者たち全員が集められた。
騎士団長のグレゴリーから話があるようだ。
俺はリルの肩の上にいる。
地面にいると誰かに尻尾踏まれそうだしね。
「諸君! 今日はすばらしい報告がある!」
グレゴリーは目の下にくまをつくっているけど、その声には張りがある。
オークジェネラルを倒したことが、価値あることだったら俺も嬉しいな。
「実は昨夜、この討伐軍の一番の目的が達成された! ある冒険者の活躍によってオークキングが打倒されたのだ!」
グレゴリーの言葉を聞いて、兵士や冒険者たちがざわめきだす。
え? あの後、オークキングも現れたってこと??
いや……。
あれがオークキングだったってこと?
たしかに結構強かった。
耐性が無かったらと思うと、どうなっていたか分からない。
混乱したから、あの結果とも言えるけど。
ということはもしかして、他より少し強かった隊長的なオークがオークジェネラルだった?
これはもしや……。
ある程度の活躍をして、リルの冒険者ランクを上げようと思っていたけれど。
下手にからまれないくらいに有名にしようと思っていたけれど……。
やってしまった感がほとばしる……。
やり過ぎたかもしれない。
気づかないうちに、オークの主要な上位種、オークキングとオークジェネラル2体を倒していたようだ。
いつの間にか大体俺たちが倒してたってことか……。
決して悪いことではないけど、目立ちすぎる予感がひしひしと……。
リルと目が合った。
「へー、凄い冒険者がいるんだね。シュンもそう思うでしょ?」
リルの純粋な言葉が胸に刺さる。
周囲は「誰がオークキングを?」とガヤガヤしている。
ふと視線を感じた方を見たら、ハンズが親指を立てて俺とリルにウインクしてきた。
あの顔は俺たちがやったと信じ込んでる顔だ。
実際、俺がやったんだけどさ。
グレゴリーが続きを話す。
「聞いてくれ! こたび、オークキングを倒してくれた冒険者がいる!! リルとその従魔シュンだ!! リル、前に出てきてもらえないだろうか」
グレゴリーの言葉に、リルは頭に疑問符を浮かべている。
「リルって名前の冒険者が他にもいるのかな? あれ? でもシュンも呼ばれてるね」
グレゴリーが呼んでるのは、うちの可愛いリルのことだよ。
「クルニャー(俺たちのことだよ、前に行こう)」
リルの首筋に鼻を押し付ける。
「ちょっとシュン、くすぐったいってば」
「クルゥ(ほらほら前に行かないとずっとグリグリしちゃうよ)」
「ニャハッ、前に行くんだね」
なんとか伝わった。
冒険者たちが道を開けてくれたので、一番前まで進む。
グレゴリーの隣にリルが立ち、俺は今もリルの肩の上だ。
「リル。今回の討伐戦の成功は、君たちのおかげだ。ありがとう」
「は、はい……」
リルは少し戸惑っているようだ。
「皆の者! 我らが英雄に喝采を!!」
グレゴリーが手を上げ、みんなをあおる。
「「「ウオォォォオオオ!!!」」」
叫び声に空気が震える。
昨夜から大声を近くで浴びることが続いてるけど、なんかこういうのいいね。
達成感みたいなのが込み上げてきたよ。
「嬢ちゃんすげーな!」
「猫ちゃん! 昨日はイノシシ倒してくれてありがとねっ!!」
「さすがリルさんだ!」
「モフらせて~」
兵士と冒険者たちから喝采が飛ぶ。
素直な称賛に照れつつも嬉しくなる。
リルも表情を見るかぎり同じ思いのようだ。
騎士たちも拍手をしてくれている。
あのヴァレミーも素直に称賛してくれている。
冒険者と騎士は今まで肩を並べて戦うことがなんてなかったそうだ。
こういう機会でもなければそういうものなのだろう。
今回長い時間ではないけど、ともに戦ったことによって、連帯感みたいなものが芽生えてくれるといいなと思う。
どっちも同じ街の住人で、守るべきものは一緒だからね。
悪くない気分だね。
リルはこういう場に慣れないのか、俺の尻尾をくり返しなでている。
「聞いて欲しい! 昨夜の魔王を倒した時の戦いを!」
調子が出て来たのか、グレゴリーが熱い想いを乗せて語り始める。
昨夜のオークキングとの遭遇を思い出しているのか、感極まった様子だ。
「へ~、リルも聞きたいなあ。シュンの活躍でしょ?」
リル、お前もか!?
グレゴリーの演説?は続く。
「あの時、私は死を覚悟した! 私にあった想いは、諸君に危険を伝えられない無念、伯爵閣下はじめ街の皆の想いにこたえられない後悔だった!」
兵士だけでなく、冒険者たちも真剣に耳をかたむけている。
冒険者って普段は安全マージンをしっかり取って、無理はしないという話だけど、強敵に立ち向かうこと自体には憧れみたいなものはあるようだ。
「そんな時だ! ここにいるシュンが颯爽と私の前に現れた。その姿はまさしく英雄だった! 魔王を一撃で文字通り粉砕した姿は、詩に詠まれる伝説だった!!」
グレゴリーの熱く真剣な雰囲気。
なんかあの時は混乱していて、実はノリノリで戦ってたとは言えない気分だ。
言葉が通じないから、どうせ言えないけどさ。
しばらくグレゴリーの熱い演説が続いた――――。
◇
昨日はイノシシの襲撃もあり、みなの疲労が抜けきっていないこともあって、午前中は休むことになった。
俺とリルはグレゴリーと話をしているところだ。
「なんと! もう1体のオークジェネラルも君たちが倒してくれてたのか!」
グレゴリーがあらためてオークキングとその場に倒れてたオークジェネラルのお礼をリルに告げた時のことだ。
リルが、「同じやつ、途中でももう1体倒したよ」と言ったところで、グレゴリーはさらに驚いている。
ヴァレミーはそのことを知って、リルに謝罪をした。
「すまなかった……。そんなことも知らず俺はあんなことを言ってしまった。俺は今回の戦いで、自身のいたらなさを実感している……」
そんなヴァレミーを見るグレゴリーの目は優しいものだった。
生意気だけど、これからに期待はしていたことが伝わってきた。
「うーん、もともとあまり気にしてないよ」
「クルニャー(俺はリルがいいなら気にしないよ)」
リルは、俺をひざの上に乗せてしゃべりながらもモフモフナデナデしてくる。
人前でモフられるとなんか照れるじゃんか……。
もっとモフって……。
オークジェネラル2体の討伐も終わっていたことが分かったため、今日で討伐戦を終了し軍は街に戻ることになった。
オークの残党はいるだろうけど、それは冒険者たちへの通常の依頼で対応が可能ということだ。
予定よりもかなり早く街に凱旋だ。
けが人が結構いるため、帰りは進軍のペースを落として途中で一晩過ごし、明日の午前中に街に入るようにするらしい。
今回の戦いは得るものがあった。
スキルの合成に気づけたことは大きい。
戦いだけでなく、いろいろなことの可能性が無限に広がる。
あれ? 人はスキル合成ってしないのだろうか?
その辺りも調べてみないといけない。
街に戻ったら、味もスキルも二重に美味しい魔物の討伐依頼をたくさん受けていきたい。
でもその前に、帰ったらまずリルとミーナの尻尾に埋もれてモフモフ成分を補給しないとね。
俺は食っちゃモフ生活することを誓ったのだった。




