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第17話「鉄は熱いうちに打て!」

 俺たちは、オークとの戦いに参加することになった。


 アルフレッド伯爵から、せめて何か支援をさせてもらいたいとの話をもらった。

 装備でも、人脈でも可能な限り協力するとのことだ。


 そこでリルは、武器を用意してほしいとお願いした。

 質の高い武器をもつことは大事なことだからね。


 今俺たちは、アルフレッドの紹介の元、お抱えの武器職人のところに来てるのだ。


 アルフレッドはこれからの準備で忙しいようで、紹介状だけ書いてもらいここに来たのだが……。


「だんなも焼きが回ったか……。こんな小さい子とワイルドキャットにまで力を借りようとするなんてなあ」


 武器庫で、親方風の男にあきれられているところだ。


 この男の名前はゴードン。

 武器庫の責任者だ。 

 スキンヘッドでいかつく、腕も丸太のように太い。

 武器泥棒なんかがいた日には、即切り捨てかねない雰囲気だ。


 どうやらここは武器庫でありながら、奥が鍛冶場になっている。

 ゴードンは鍛冶師でもあり、鍛冶場の親方もかねているようだ。

 弟子らしき鍛冶師に指示を出したりもしていた。



 アルフレッドもしっかり伝えておいてくれよ……。

 ムキムキやゴリラみたいな風体じゃないと、馬鹿にされるのかよ。


「アルフレッドさんからは、ここで武器を用意してもらうといいって聞いたのですが……」


 リルが少しショボンとしている。

 武器を用意してもらえないかもと思っているのかもしれない。


「まあ……だんなの頼みなら用意するのはやぶさかじゃねえけど、使いこなせない武器は、使う奴のためにも、武器のためにもならねえからな……」


 それに……とゴードンは付け加える


「俺の武器を持ったがために子供が戦場に行って、それで未来ある命を散らせようものなら、悲しいじゃねえか……」


 ゴードンは横に目を向けながら、フンとそんなことを言う。


 あれ? なんか照れてない?


 ぶっきらぼうだけど、子供想いってやつか。

 ツンデレか?


「だったら、リルが武器を使うのを見てみてよ」


 それが一番てっとり早いよね。


 リルの提案によって、すぐ近くにあった練兵場を借りることになった。

 ここで弓の腕前を見せるというわけだ。


「じゃあ、あそこの的に5本のうち1本でも当てることができたら、認めてやろうじゃないか」


 50メートルくらい離れたところにある、丸い木製の的。

 この距離は弓矢なら届きはするけど、当てるのは難しいという距離だ。


 たしかにこれで1本でも当てられれば、なかなかに優秀な弓兵だろう。


 だけど……、うちの狼っ娘なら……。


「ほいっ」


 リルの気の抜けた掛け声からわずかの後、タンっと小気味いい音を立てて矢が的に刺さる。

 しかもこれで5本目だ。

 全部の矢を的に的中させてみせた。


「お、おい……、嘘だろ……。弓兵隊の中でもここまでできるやつはいねえぞ……」


 ゴードンは口を開いたまま、的を見つめてかたまっている。


 そんなことをやらせたのか、と一瞬思ったけど全部命中させるのがということだろう。

 徐々に調整していって、1本当てるのとは難易度がだいぶ違うだろう。

 1本だけでも簡単なことではないとは思うけど。


「これで少しは認めてもらえるかな?」


 リルは、楽しかったと笑顔だ。

 ついでに、動かない的って簡単だねと言って、ゴードンをさらにあんぐりさせた。


 リルの腕がいいのは森での生活で知っていた。

 けど、ワイバーンの目を射抜いたのは半分まぐれだと思っていた。

 高速で飛来する点なんて、普通射抜けないって。


 でもこれを見ちゃうと、俺が思ってた以上の腕なのかもしれない。


 今思うと、森では動いてる魔物を射抜いたりしてたしね……。


 森では木を削って尖らせただけの矢を使っていた。

 それが今は鉄製の矢じりがついた矢を使っている。


 リルに言わせると矢じりがあると真っすぐ飛ぶし、狙いをつけやすいらしい。


「認めるも何も……。嬢ちゃん、さっきは子供あつかいしてすまなかった。この通りだ……」


 ゴードンがリルに謝罪する。

 いかつい男が少女に頭を下げる姿。

 違和感が半端じゃない。


 ゴードンはぶっきらぼうなだけで、馬鹿にしてた感じじゃなかったしね。

 それに、認めた相手は幼くても一人前として接するようだ。


 ああ……、これはアルフレッドめ、こうなるのが分かってたな……。


「別にリルはなんとも思ってないよ。それより使ってもいい弓矢を見せてくれると嬉しいな」


「もちろんだ。武器庫にあるものは好きなものを持っていっていい。あと矢に関しては見て欲しいものがある」


 俺たちはもう一度武器庫に戻った。





「この弓が使いやすそうかな」


 リルが選んだ弓は、いくつかある中では軽めの弓。

 しなやかな木でできた弓にみえる。


 リルは腕力が特段強いってわけじゃないから、張りが強い弓より取り回しを重視したのだろう。


「嬢ちゃんは目も利くな、それは質のいい弓だぜ」


「矢はどんなのがあるの?」


「実はな……、矢に関しては、今製作中のいいものがあってな……」


 ゴードンはそう言って矢を一本鍛冶場からもってくる。


「あ、これはもしかして……魔物の牙?」


 リルが矢の矢じりの部分を見てつぶやく。


「そうだ、しかも今朝ワイバーンの素材が手に入ってな。爪と牙は矢じりに加工させてもらった」


 ゴードンが得意げに語る。

 ワイバーンの爪牙からつくられた矢じりは、鉄すら簡単に貫通するんだと。

 矢の素材としては高級なものになるらしい。

 いざという時には戦闘の勝敗を左右する可能性もあるんだとドヤ顔だ。


 タイミングからして、完全に昨日俺たちが討伐したやつだ……。


「クルニャーン(リル! 昨日のだよ!)」


 リルも気づいたようだ。


「ゴードンさん、これ多分……、リルとシュンで討伐したワイバーンだよ」


 リルがなんだかちょっと嬉しそうだ。

 自分が倒した魔物の素材を、他の人が得意げに使ってるっていうのは嬉しいものがあるよね。


「へ? ワイバーンだぞ。Bランクの魔物で、かなりの強さだぞ?」


「うん、間違いないよ。昨日、ワイバーンのお肉食べたし」


 ワイバーンの目を射抜いたんだよ、とリルが語る。


 肉を食べたのは関係ない気もするけど、まあいいや。


「クルニャン!(ワイバーンの肉、美味しかったよ!)」


「猫は何を言いたいか分からねえけど、嬢ちゃんが嘘をついてるようには見えないな……」


 まさか……、いやでもさっきの弓の腕前なら……、と落ち着きがなくなっている。


 昨日の戦いのことをリルが話したところで、ゴードンはとりあえず落ち着いた。


「アルフレッドのだんなが、嬢ちゃんのことを紹介状でべた褒めしててな……」


「そうだったんだ……」


「てっきり、クレアお嬢さまに対する親ばかと同じ類のものだと思ってたけど、どうやら本物どころかかなりの業物のようだな……。鉄は熱いうちに打てと言うが……」


 ゴードンが鍛冶師らしい例え方をする。

 アルフレッドの親ばかは、どうやら周知のことのようだ。


「これからのオークとの戦いのために、ゴードンさんの力を貸してもらえると嬉しいな」


「ああ、俺にできることなら……、といっても武器のことしか力になれねえけど、これからは何でも言ってくれ」


 ゴードンは武器のことしかって言ってるけど、戦いにおいて相当大事なことだよね。

 いざというときに、剣が折れたら、ナイフの刃が通らなかったら……。

 きっと武器庫を任されるゴードンは、アルフレッドにも信頼されている人物なんだろう。


「クルニャーン!(これからもよろしくね! 今度俺にもカッコいい武器つくってね!!)」 


「嬢ちゃん、この猫はなんて言ってるんだ?」


「う~ん、シュンは食いしん坊だから、きっとね……、料理のための道具作ってって言ってるんだと思うよ」


「がっはっは! お前たちはやっぱり面白れーな! 今度すげー切れる包丁を作ってやるよ」


 リル……、食いしん坊って……。

 否定できないけどさ。


 それにいいのかよ、ゴードンよ……。


 こうして、武器と調理道具の入手先を確保したのだった。

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こちらも本作も、それぞれ独立した作品として楽しめます。
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