第12話「猫だって空を飛びたい」
俺とリルは冒険者ギルドに向かっている。
俺はリルの肩に乗せられている。
「クルニャー……(昨日は酷い目にあった……)」
耐性をゲットできたのは良かったんだけどさ。
今日はリルの美味しいご飯が食べたいよ。
「今日はどんな依頼があるのかな~」
リルはご機嫌だ。
街に出てきてから、なんだかんだで順調だもんね。
初めはリルだって不安だったと思うんだ。
今日も頑張るよ~!
強い魔物だって倒しちゃうよ!
そんなことを思ってたのが、いけなかったのだろうか……。
今俺たちはギルドマスターの部屋にいる。
カウンターに向かったら、なぜかここに呼び出された。
正面に座ってるのはギルドマスターのレイモンド。
おっちゃんは真剣な表情で、リルに話しかける。
「リル……。可能なら受けて欲しい依頼がある」
真剣な表情からするに、不測の事態でもあったのだろうか。
「どんな内容なの……?」
「ああ……、近くの村からワイバーンの討伐依頼がきててな」
「わいばーん?」
ワイバーンと聞いて想像するのは、小さなドラゴン、空飛ぶトカゲといった感じだが。
「ああ。翼があって空を飛ぶからドラゴンとよく間違われるんだが、実際は全く別物でな……」
「うん」
「村の家畜が被害にあうし、昼間は危なくて住民もあまり外に出られなくなるんだ」
「ワイバーンって強いの?」
「Bランクの中でも厄介とされる魔物だ。なんせ空を飛ぶし、体もでかいからな」
「大きいと弓矢もきかなそうだもんね」
リルはこう見えて弓矢の扱いはなかなかだ。
「その通りだ。空の魔物と戦える冒険者が出払っていてな。お前たちに無理はしてほしくはないけど、倒せそうなら頼みたい。ギルド側としても、可能な限り協力させてもらう」
通常はBランク以上の冒険者が、数人でパーティーを組んで戦う相手とのことだ。
「フルフルよりは弱いんだよね?」
「ああ、遠距離攻撃はなく、その巨体を使っての力任せの攻撃が特徴だが……」
おっちゃんが言うには、大きさはあの鹿より大きいけど、力を上手くいなせれば倒せるだろうとのことだ。
ワイバーンの爪の一撃は鉄の鎧も引き裂くらしいから、気をつけないとな。
「シュン、どう?」
「クルニャ~ン!(受けよう! 聞いたかぎりは問題ない!)」
コクコクとうなずく。
あ! その前に聞いておくことがあった。
「クルニャン?(ワイバーンって美味しいの?)」
とても大事なことだ。
「リル? こいつは何を訴えてるんだ??」
おっちゃんには伝わらないようだ。
俺はリルに期待のまなざしを向ける。
「シュンがこの顔してるときはご飯かな。ワイバーンって美味しいの?」
なんとか伝わったようだ。
初めて知ったが、俺にはどうやらご飯の顔というのがあるみたいだ。
それは、だらしない顔なのだろうか……。
「ああ、臭みがなく美味しいぞ。食べきれなかった分は、ギルドで買い取らせてもらえるとありがたい」
「うん、それはいいよ」
「強敵には違いないから、倒すのが難しそうだったら無理せず戻ってこいよ」
「うん、わかったよ! シュン、がんばろーね!」
「クルニャーン!(ワイバーン待ってろよ!)」
ワイバーン、食べるの楽しみだな。
食べたら空飛べるようにならないかな。
空飛ぶ猫、夢はふくらむ。
ついついワイバーンの皮算用をしてしまうのだった。
◇◇◇
俺たちは街道を村に向かって歩いている。
俺はリルの隣を歩いている。
村までは歩いて三時間くらいかかるらしい。
ワイバーンの目撃情報があったから、村方面に向かう馬車は休止中らしい。
村に入って、ワイバーンを待つ予定だ。
村の建物や柵を上手く使うと戦いやすいと、おっちゃんが言ってた。
村まであと三十分ほどまで来たときのことだ。
晴れ渡った空、前方上空からこちらに向かって、茶色の何かが飛来してくる。
「鳥かな?」
リルも気づいたようだ。
「クルニャ!(大きいよ、ワイバーンかも!)」
近づいてくるにつれて、大きさが分かる。
たしかに大きいな……。
五メートルくらいだろうか。
俺たちに向かって猛スピードで突っ込んでくる。
「クルルゥ!(これは完全に餌としてロックオンされてるよ)」
近づいてくるにつれて、魔物の全体が見えてくる。
翼を持った爬虫類といった感じだ。
ドラゴンに似ているけど、皮はつるっとしていて鱗はない。
ワイバーンで間違いなさそうだ。
おっちゃんが言っていた特徴と一致する。
よく考えてみたら、村の周囲を荒らしてるんだから、この辺りを飛んでいてもおかしくはなかった。
「クルニャン!(リル、大丈夫?)」
リルに避けることができるかと、問いかけの視線を向ける。
「シュン! こっちは大丈夫だよ!」
一緒に狩りをするの楽しいね~と、リルが笑っている。
最悪、正面からぶち当たろうかと思ったけど、リルに余裕がありそうだ。
初撃の突っ込みをかわしてから、攻撃をしようと身構える。
『ピギーーー!!』
甲高い鳴き声を上げながら、突っ込んでくる。
突っ込んできたのだが……。
ワイバーンの目に、サクッと矢が刺さった。
『ピー!?』
「当たった! この弓使いやすいよ」
どうやらリルが放った矢がカウンターになって、ワイバーンの目を貫いたようだ。
ワイバーンはきりもみしながら、街道の脇にそれて墜落した。
あれ? 俺の出番なし??
リルはギルドで弓矢を借りて、道中少し練習してたけど……。
山で使ってた自作の弓矢より使いやすいって言ってたけど……。
「シュン! とどめはお願いしていい?」
リルの声にハッとしてワイバーンを見る。
ワイバーンは体を起こそうとしている。
「クルニャーーーン!!(任せてよ、リル。手負いの獣ほど危ないものはないもんね。危ないのは全部俺に任せて! もっといっぱい頼ってくれていいんだよ! リルのためなら、火の中水の中マグマの中、どこにだって行っちゃうんだから!)」
俺はワイバーンに一瞬で近づき、風刃でサクッととどめを刺した。
ちょっと自分の存在価値を示したくて、大人げないことをしてしまったかもしれない。
今は少し後悔している……。
だって、だってさ……、道中ずっとリルにいいところ見せようと、どうやって倒すか考えてたんだよ……。
「シュン! ギルドマスターが強いって言ってたワイバーンを一撃なんて凄いね!」
近づいてきたリルに笑顔で褒められる。
まあ、いいか……。
リルに怪我もなく、喜んでくれてるみたいだし。
討伐の目的も果たせたしね。
でも……、
「クルゥニャン!(本当に凄いのはリルだけどね!)」
戦いだけではなく、俺の気持ちを幸せにしてくれるリル。
心から凄いなあと思う。
「シュン。ワイバーンね、ギルドに持って帰る前につまみ食いしちゃおうね」
リルはいたずらっぽく笑う。
俺はクルニャとうなずくだけであった。