表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/73

第10話「おとぎ話級の……」

 朝から迷子の女の子を届けたり、食材を体に巻いたりとなかなか大変だった。


 今日はミーナが仕事休みということで、一緒にマッタリ過ごすことになった。


 リルとミーナはリビングでティータイム中だ。

 俺はリビングの出窓のところで日向ぼっこをしている。


 平和だな~。


 なんとも猫らしいではないか。

 生まれてから今が一番猫ってる(・・・・)のではなかろうか。


 リルとミーナの声が耳に心地よい。


「私ね、リルとシュンを見てると『バルハルト物語』を思い出すの」


 ミーナが懐かしそうに目を細めている。

 小さい頃に母親から聞かされたおとぎ話(・・・・)とのことだ。


 いつの間にか、リルとミーナはお互いを呼び捨て合うようになっている。

 すっかり打ち解けたようで、俺も嬉しいよ


 そういえば、以前も俺たちを見ていると、その物語を思い出すって言われたな……。

 本当に誰もが知ってる有名な話なんだな。


 果物から生まれた〇太郎の鬼退治みたいなものか……。


「バルハルトは憧れの英雄だから、すごく嬉しいよ。ぜんぜん足元にも及ばないけどね」


 憧れの英雄に重ねられて、リルが嬉しそうだ。


「リルはバルハルトと同じ銀狼族だもんね。将来は伝説の冒険者になっちゃうかもよ~」


 ミーナがおどけた様子でリルに言う。


 英雄バルハルト、銀狼族の青年だったらしい。


 バルハルトは二体の従魔をつれていた。

 その従魔は、“黒狼フェンリル”と“金獅子ハティ”だ。


 リルから聞かされた、そのおとぎ話(・・・・)は、今でも強く印象に残っている。


 それはこんな話だった……。


――――――


 昔々のお話。


 ある満月の夜、空から災厄が湧いた――。

 それは数十万とも数百万とも言われる、魔の軍勢。


 地上の人族、獣人族は力を合わせて魔を退けようとしたが、時とともに押し込まれ始めた。

 魔の軍勢、その強さ、凶悪さは人々に絶望を与えた。


 人々が絶望に沈むなか、バルハルトたちは決して諦めず、獅子奮迅の活躍で魔を退けた。


 その時の神話のような戦いは、伝説として吟遊詩人たちによって後世まで語り継がれた。

 

疾駆迅雷(しっくじんらい)  (とお)足跡(そくせき)  ()(つむ)


 天覆(そらくつがえ)す  二筆(ふたふで)(かぜ)


 バルハルト、フェンリル、そしてハティの十の足が、歴史をつくったと。

 人によっては『史』ではなく『死』であるとして、軍勢を蹴散らす姿に畏敬を込めて詩を詠んだ。


 フェンリルとハティの戦う姿は、到底人が目で追えるようなものではなかった。

 ただ、空に(ひらめ)く二つの尻尾の軌跡は、美しい筆の軌跡のようだった。


 その神々しさに人々は心を奪われ、祈り続けたという。


(とお)足跡(そくせき)  ()(つむ)ぐ』


 英雄バルハルト、黒閃(こくせん)のフェンリル、そして破天(はてん)のハティの物語。


――――


 ……こんな話だったはずだ。


 さらにちょっとした続きがあって、人族至上主義の国では話が少し変わるらしい。


 人族の“五人の勇者”を十の足として、魔を退けたのは人族の英雄ということになっているらしい。

 そんな風に、教会が中心になって広めているんだってさ。

 フェンリルとハティも、強き勇者を比喩する言葉だと。


 

 俺たちが今いるこの街は、獣人族と人族が共存していて、差別もほとんどないらしい。

 子供たちでも知ってるおとぎ話(・・・・)の英雄も、そのまま銀狼族だ。


 しかし、やたら心がざわつくこの伝説。

 

「クルルゥ……(この話が本当だったら、とんでもない強さだよな……)」


 バルハルト達もだが、魔の軍勢とやらも相当だよな……。


 そんな理不尽を敵に回した時に、俺は勝てるのだろうか。


 リルを守れるのだろうか……。


 作り話、誇張されてるとか言ったらそれまでだけど。


 でもやっぱり……。


 もっと……、もっと強くならなきゃだな。


「シュン、難しい顔してどうしたの?」


 名前を呼ぶ声に、ハッとする。

 いつの間にか、リルがすぐそばまで来ていた。


 考え事していて気づかなかった。

 それより、俺って難しい顔とか、猫なのに顔に出るの?

 リルが凄いだけ?


「クルニャーン!(俺、もっともっと強くなるね!)」


 そして……、もっともっと……、ずっとず~っとモフモフするね!


 リルのモフモフは俺が守るよ!!


「……シュン。何か変なこと考えているでしょ?」


 リルは自分の尻尾を両手で抑えながら、ジト目を向けてくる。

 少し顔が赤い気がする。


 可愛いな~。


 おとぎ話と言えば、リルっておとぎ話級に可愛いね!


 俺はあらためてそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓▼△魔物っ娘と魔獣の軍勢が世界を席巻する△▼↓
『ダンジョン育ちの“魔獣使い” ~魔物っ娘と魔獣たちの最強軍勢を率いて~』


↓ちょっとシリアスな、シュンとリルの出会い編↓
『万物異転、猫が世界の史を紡ぐ【出会い編】 ~出会ってすぐにモフられる~』
こちらも本作も、それぞれ独立した作品として楽しめます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ