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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

物語を紡ぐもの《お試し版》

作者: 滝皐

こちらはちまちま考えていた内容を、ざっくり書きなぐった話になります。

連載に持っていかないと思いますが、書いてくれと言われたらなんとかしましょうと応えます(笑)


※:完全に途中で終わっていますが、お試し版なのでできれば気にしないでください。

~それは語られることのない話し~


 彼女は言った『これでいいんだ。これで』。全てを成し終えた彼女は、硝子のように砕ける世界を前に、涙一つ流さなかった。

 自ら描いた結末その物ではなかっただろうが、それでも満足のいく形では成し得ただろう。

『ありがとう。あなたのお陰でだよ。これでお別れは寂しいけれど、いつか会える日を楽しみにしている』

 彼女の友は言った。涙をためた目で言った。

『ありがとう。あなたに会えたことが、私にとって一番の幸福だった。また会える日を』

 互いに約束を取り付け、やがて世界は砕け散る。




「こんにちわ。え~っと……あなたはどこの子? 白? それとも黒?」


 見上げた先には赤ずきんを被った少女。手元の槍をチラつかせながら私に尋ねた。だが問われた内容については理解が出来ない。白とか黒とかよく分からない……というよりは、ここが既にどこなのか分からない。

 周りは木しかなく、何となくここが森なんだなとは理解は出来る。座ったまま周りをキョロキョロしていると、その視界に彼女が強引に割り込んで来た。


「どうしたの? 何かお探し? それとも逃げる準備でもしてるのかな?」


 全てを飲み込みそうな目に、咄嗟に顔を引く。漠然とした恐怖が、喉元に絡みついてるような感じだ。


 ゴクリと唾を飲み込んだ。


 彼女はそれ以上近づいては来ないが、遠ざかったりもしなかった。覗き込むように私を見る。

 長いような、一瞬の時間が過ぎた後、「貴様ら何者だ!」という怒声に意識を引っ張られる。声のした方を向くと、青銅甲冑に身を包んだ兵士が剣を構えて私たちを警戒していた。

 鎧の胸部分には黒い文様が施されていて、一目でそれが何かのシンボルであることが分かる。彼女は「タイミング悪いな~」と軽く溜め息を吐くと、槍を構える。


「貴様。白の陣営の者か!?」

「いや~。私は黒でも白でもない……はぐれ者の革命軍さ」


 革命軍という言葉に兵士は慄き、仲間を呼びためのものか、ホイッスルを取りだす。彼女はそれよりも早く槍でホイッスルを叩き落とすと、そのまま首目がけて横薙ぎ。兜と鎧の隙間に吸い込まれ、兵士の頭は体と分離した。


「ひっ!」


 ドチャ。という血の混じった音をさせて地面に落ちる。兜のお陰で顔が見えないのは幸いだが、それでも気持ちが悪いことには変わらない。口元を押さえて目を背けた。


「やれやれ。ここに長いはできないか。それであなた、結局どこの子なの? 場合によっては殺すかもだけど、何もしなければ何もしないよ?」


 返り血の一滴も浴びていない彼女は、可愛らしくおぞましい笑みを向けて尋ねた。


 なんと応えるべきか、あの兵士と同じ末路は辿りたくない……素直に、応えるしかない。ここで何かもっともな嘘を付くことは出来る。でもそうなった後のことを考えなくてはならない。下手に嘘を付いて言及でもされたら、私は何も答えられないし。最悪……。

 兵士の頭と体を交互に見る。背筋の凍るような寒気に耐えながらも、思考を展開した。

 この子は人の簡単に殺せるだけの力と技術、それに冷徹さがある。怖いけど、素直にいくべきだ!


「……私の名前はアリス。なんでここに居るかは分からない」


 素直な言葉。これで殺されたら洒落にならないが、ここは賭けるしかない。


「……アリスか……Alice's Adventures in Wonderland。1865年にルイス・キャロルが書いた児童文学書籍。もしかしなくても、あなたはそこの主人公じゃない?」


 こくりと頷く。

 私はある本の主人公。登場人物の一人。それがどうして意思を持ち、こんなところに居るかはわからない。


 目の前の赤ずきんの少女は続ける。


「とても有名な書籍だものね。ならば、あなたの属性は自ずと白か。でもそれはそれで好都合」


 彼女は槍を握っている方とは逆の手を差し出す。おずおずとその手を握ると、私は彼女に引っ張り上げられた。


「私はペロー著書、『赤ずきん』の主人公。赤ずきんちゃん。この世界の争いを阻むもの」

「赤ずきんちゃん? えっ? 待って、あなた――」

「ここは童話や昔話、古い書物が集う世界。ここに来る子は皆、どこかの話の生き物よ」


 驚いた、彼女も本の住人だったのか。そしてここは、そんな本の人たちが集う場所。俄かには信じられないけど、自分がすでに人の形をしているのだから、信じた方がいいのだろう。


「どうやらまだここに来たばかりみたいだし、あなたにこの世界のあり方を教えてあげる。着いて来て」


 赤ずきんちゃんは踵を返して歩き出した。ここで彼女の誘いを断る理由もない。むしろ、生きるために着いて行くしかないのだろう。


「……あの!」


 彼女は足を止め、振り返る。

 何故呼びとめたのかはわからなかった。だが咄嗟に声が出た。自分でも理解出来ない行為にしどろもどろしていると、赤ずきんちゃんは私の所まで戻って来て、手を引っ張る。


「何してるの? 行きましょ?」


 私は促されるままに、彼女に付いて行った。


 ~~~


 彼女に連れられ、森を歩くこと数分。開けた場所に建つ、可笑しな家を……いや、お菓子な家を発見した。


「ただいま~」


 赤ずきんがそのクッキーでできた甘い匂いのする扉を開けると、中から同時に「おかえり~」という声が聞こえる。奥の扉から現れたのは、同じ顔、同じ声、違うのは体系と服装、髪の長さだけという。ほとんど見分けが付かないほどそっくりな男女の双子だった。

 双子は赤ずきんちゃんの隣に居る私に気付くと、まるで新しい玩具を見つけ子供のように目を輝かせた。


「「誰その子? 新しい友だち(ですか)!?」」


 見事なシンクロにたじたじになる。


 双子は赤ずきんちゃんより少しだけ背が高いようだったが、精神的な年齢は赤ずきんちゃん方が上なのか、少し落ち着きがない。はしゃぎながら赤ずきんちゃんに抱きつく。


「うん。新しい友だち。名前はアリス。Alice's Adventures in Wonderlandの主人公ちゃんだよ」

「「てことは僕(私)たちより年下なんだ(ですね)!」」


 ……えっ?


 突然の年下宣言に頭が回らない。私がこの人たちよりも年下なの? 見た目とも私の方が上にしか見えないんだけど。

 身長で言えば私が一番大きく、その次に双子、その次に赤ずきんちゃんだ。確かにそれほどの差異はないにしても私と赤ずきんちゃんにはだいたい7cmくらいの身長差はある。


「紹介するねアリス。彼がヘンゼル、彼女がグレーテル。グリム童話に収録されている『ヘンゼルとグレーテル』という作品で、初版は1812年。あなたより50歳は上だよ」

「うそ……」


 こんな見た目で私よりも年上だなんて。でもそれよりも。


「やっぱり。本の中の人なんだね」

「……まあ、追々慣れていけばいいわ。さっきも言ったけど、あなたにはこの世界のあり方をちゃんと教えてあげるから」


 赤ずきんちゃんは槍を玄関口の脇に置いて、奥の扉に入って行く。先ほどは双子の印象が強くてよく観察しなかったが、このお菓子の家は内装もかなり凝っているようだ。マシュマロのソファにウエハースの本棚。チョコレートで作られた机など、全てがお菓子で出来ている。


「気にいって貰えた。僕たちの家」


 ヘンゼルさんが人懐っこい笑みで話しかけてくる。私は曖昧に頷いて、ふと思った疑問を口にした。


「この家。虫に食べられたりしないの?」


 ヘンゼルさんに尋ねたつもりだったのだが、それに答えたのはグレーテルさんだった。


「全然大丈夫です! だってこの家。私たち以外は普通の家にしか見えないんですから」

「へ~」


 じゃあこのクッキーとチョコで出来た戸棚も、普通の戸棚に見えるってことか。


「ん? でも待って、私たち以外って……赤ずきんちゃんやグレーテルさんたち以外のことだよね? 初めて来た私にも同じように見えたんだけど?」


 その疑問に答えたのはヘンゼルさんだった。


「君は属性は白みたいだけど、まだ陣営に入ってない無所属だからね。僕等と変わらないってことさ」

「所属……?」


 う~ん。まだわからないことだらけだ。まあだからこそ赤ずきんちゃんに付いてきたんだけど。


「安心しなよ。全部赤ずきんちゃんが教えてくれるよ」


 ヘンゼルさんの励ましに、気が和らぐ。やはり曲りなりにも年上だからだろうか? そういえば、赤ずきんちゃんの年齢は幾つなんだろう?


「ねえヘンゼルさん」

「何々? あと“さん”は余計かな」

「じゃあ、ヘンゼル。赤ずきんちゃんの初版って、いつの時代なの?」


 ヘンゼルは「え~っと」と考えだした、そこにすかさずグレーテルさんが答える。


「1697年。フランスで出版された童話集の中に『赤ずきん』があったとされてるよ。つまり私たちより100年以上は年上になりますね」

「100年……」


 そんな人に私は“ちゃん”付けで呼んでいたのか。なんだかかなり失礼なことをしてしまったようだ。

 私の不安を読みとったのか、またヘンゼルが気を利かせてくれる。


「大丈夫大丈夫。赤ずきんちゃん。むしろ“さん”で呼ばれるの嫌うから。なんだかガラじゃないんだって」


 その言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。


「あ、因みに私も“さん”はいらないからね。アリスちゃん」


 グレーテルさんは可愛らしく人懐っこい笑顔を向けてそう言う。この人たちに年上だからと気を使うのは間違っているようだ。


「僕たちのことは取りあえず置いといて、早く中入ろうよ。まだ他の仲間もいることだから」

「そうそう。早くいきましょ」


 二人に背中を押され、私は半ば無為やり家の奥に連れて行かれる。

 中は思ったよりも広い。10人近くでダンスパーティをしても余裕があるほどの広さだ。

 真ん中には大きなテーブルらしきクッキーのがドンッと置かれていて、それを囲うように置かれた椅子に、赤ずきんちゃんを含め三人の人が座っている。

 赤ずきんちゃんは私たちが入って来たのを確認して、椅子から立ち上がり私たちの方に来た。


「遅かったねアリス。まあ座ってよ。まずは自己紹介しよ?」


 ヘンゼルとグレーテルは一切の迷いなく、空いている椅子に仲良く並んで腰かける。赤ずきんちゃんが手を引いてくれたので、必然的に赤ずきんちゃんの隣の椅子に腰かけることになった。


「じゃあ改めて紹介するね。この子はアリス。この世界に来たばかりで何も知らないから、仲良くしてあげてね」


 赤ずきんちゃんの簡潔な紹介の後に、一応頭を下げる。ヘンゼルとグレーテル。そして一人のピエロのような仮面にタキシードの服を着た男性も拍手をする。その隣に居る獣の耳が生えた男の人は退屈そうに欠伸をした。


「まずは仲間の紹介からいきましょうか。ヘンゼルとグレーテルはもう紹介したから、後の二人ね」


 赤ずきんちゃんの促され、「僭越ながら」とピエロ仮面の男性が立ち上がる。


「私はメフィストーフェレス。ゲーテ著者、戯曲『ファウスト』に出て来る悪魔でございます」


 丁寧なお辞儀をされたので、こちらも一礼。


「因みに年齢でいえばヘンゼルさんたちと変わりません。あなたよりは年上ですので、“さん”はつけてくださいね?」


 ドア越しに聞いていたのだろうか、何故か年齢の話を口にされた。そしてこの人は敬われたい人のようだ。というかよく聞こえたな。


「同い年とかいってるけど。この人の初稿1797年だから、もしかしたら更に年上なのかもしれないんだよね~」


 ヘンゼルの付けたしに、メフィストさんは仮面越しに感じのいい笑い声を上げる。


「いやいや。私はゲーテの掻き直した作品であって、初稿ではありませんよ。だって記憶の中にそのころのものがてんでさっぱりありませんからな~。これは私が初稿ではなくゲーテの書き直したメフィストである証拠だと思っているのですが、いやはやなんでヘンゼル様にはこのことが伝わらないのでしょう? どう思いますか、ミス・アリス?」

「えっ? えっと~……」


 突然振られても反応に困る。仮面越しだが、メフィストが満面の笑みであるように見えた。私が言葉を濁していると、助け船を当の本人がだした。


「いや! すみません。私としたことが今日あったばかりだということを失念しておりました。大丈夫です。ヘンゼル様には私の方からきつ~く言っておきますので」

「は……はぁ」


 なんと言えばいいのだろう? 知らない間にヘンゼルが完全に悪者みたいになっている。


「この詐欺悪魔」

「クハハッ!」


 ヘンゼルの罵倒も笑い飛ばす。なんて一癖も二癖もある人なんだ。


「メフィーはあんな性格だからいつかは裏切るかもしれないけど、仲良くしてあげてね?」

「そんな人仲間にしてていいの?」


 裏切るかもしれないって、そんなサラっと言うことじゃないよね赤ずきんちゃん?

 動揺が隠しきれない私に、グレーテルが「たぶん大丈夫ですよ」とメフェストさんを庇う。


「面白いものの味方なので、本人がつまんないなと思わない限り裏切らないと思います。あっ、こっちの方が面白くなりそうで裏切ることはあるかもしれませんね。忘れてました」


 あっけらか~んと笑うグレーテルだが、それこそ笑ってる暇はないだろう。


「安心してください。まだ私は、ここに居るつもりですから」


 メフィストは表情はわからないが、ニッコリと笑った気がした。


「じゃあ次は狼ちゃん」

「そのちゃんっての止めて」


 獣の耳が生えた男性は、ダルそうに否定してから立ち上がる。


「俺は狼。出所はいまいちわかんないんだが、今は一応『赤ずきん』の狼だと思う」


 とても曖昧な自己紹介に、なんと反応するべきか困った。そこにすかさずヘンゼルサポートが入る。


「狼は色々な童話や話しに使われているから、どこがどの狼なのかは区別出来ないんだ。だからきっと、この狼とは別の狼がいるはずなんだよ」

「同じような格好の人ってことですか?」

「まあそうなるだろうね。僕はまだ会ったことがないからわかんないけど」


 ヘンゼル以外の人も皆一様に頷く。


「あ、因みにこの子別の意味でも狼だから、食べられないように気をつけてね」


 赤ずきんちゃんのその言葉に、首を傾げた。別の意味? なんだそれは?

 見かねたグレーテルさんが「エッチのことです」と小声で言ってくれる。なるほど、そういうことか。

 急に恥ずかしくなり顔が熱くなる。狼さんを見ると、眠たげな目だが、私の容姿をじっくり観察しているように見えるのが怖い。


「実際赤ずきんちゃんは一回食べられているんでしょ?」


 ヘンゼル? それはこんなに人のいるところで話題にするような内容ではないのではないか? 出来れば女の子がいないところでするべきだ。


「いや、あれは……」


 言いよどむ狼さんに、赤ずきんちゃんはニヤニヤと笑っている。一体この二人の間に何があったんだ。気になっていると、メフィストさんがいつの間にか隣に来ていて耳打ちをするので、驚いて心臓が速くなる。


「お教えしますと、狼さんは赤ずきんちゃんを押し倒したまではよかったのですが、そこでヘタレが発動しまして。結局食べ損ねてしまったのです」


 コメントに困る。それとメフィストさん。私の困ってる顔で楽しまないでください。仮面越しでも笑顔なんだなってことぐらいわかりますから。それと……。


「あの……教えてくれるのはいいんですけど、音もなく後ろにくるのは止めてくれませんか。心臓に悪いです」

「悪魔ですから」


 答えになってない。


「まあ狼ちゃんのことはまた今度にして、さっそく本題に入ろう」


 赤ずきんちゃんは立ち上がり、本棚の一つからハードカバーの大きな……赤ずきんちゃんが両手で抱えてやっとと言うような、本当に大きな本を持ってきた。タイトルはない。


「まずあなたにはこれを読んでもらう。それでこの世界の成り立ちがわかると思うから」


 ドスンと置かれた古臭い本を開く。大きさもあって表紙はかなり重い。文字はどこのものか全く解らないが、何故か頭の中に入って行く。


 ―――


 この世界に、二人の男がいました。

 彼らは性格も、感じ方、生き方も、何もかもが真逆の性格をしていました。

 そんな二人でしたが、ある一点だけ、同じ考えを持つことがありました。


『この世界を自分の物にしたい』


 二人はその野望を叶えるために、一時の間共に行動をすることを決めました。

 真逆の二人でしたが、同じ野望を掲げる者同士には、そりが合わないことは些細なことでした。

 やがて二人は、この世界を我がものにしたのです。


『これで、俺たちが世界の頂か』

『ああ。俺たちの世界だ』


 二人はお互いに熱い握手を交わし、それからの初めての凱旋式。気分の良い王たちは、民衆の声にも寛容でありました。

 その中で一人。まだ年端も行かぬ娘が言いました。


『王様は、なんで二人もいるの?』


 その言葉に、二人の王は考えました。

 初めは己の野望を果たす為に手を組んだが、今や世界は自分たちのもの。自分たちのもの?


 ここで二人の王様は気付きました。まだ自分の野望は、果たされていないのだと。


『この世界に頂は一人でいい』

『戦争だ。俺は貴様を殺し、この世界の頂になる』


 それからこの世界は二人の王の国による、戦争が始まるのです。


 ―――


「……これ」


 これがこの世界のありかたなの? 私が次のページをめくると、それ以降は真っ白だった。


「あれ? これの終わりは?」


 私の問いに、赤ずきんちゃんは首を横に振る。


「この物語はここで終わっているの」


 いったい何が始まるのか、結末はどうなるのか。とても気になる内容だった。でも……。


「なんで、これがこの世界のありかたなんですか?」


 私の問いに、メフィストが答える。


「それはですねミス・アリス。今この世界は二つの国、二つの陣営に分かれて戦争をしているんです。100年もの長~い間ね」

「戦争。それって」

「そう。この物語のような内容でしょう?」


 その通りだ。まるで、私たちがこの物語の中に入ったみたいだ。


「今この世界は、終わらない戦争を繰り返している。それに終止符を打つのが、私たちってわけ」


 赤ずきんちゃんは今度は別の本を持ってくる。それは文庫本程度の大きさで、栞の刺さっているページを私に見せた。


「これは私が白の陣営の時に見つけたもので、ここ見てもらえる」


 覗き込んで見てみると、こんなことが書かれていた。


 ―――


 もしもこの日記を読んでいる人がいるならお願いだ

 この物語を完結させてくれ

 そうすれば

 この愚かな戦争も終わりを迎えるだろう


 ―――


「この物語を完結させてくれ……?」


 それに思い当たるものは一つしかなかった。先ほど読んだタイトルのない本だ。


「これを完結させること? ……でもなんで?」

「……これは、私の勝手な想像なんだけどね」


 赤ずきんちゃんは日記を撫でながら続ける。


「この戦争が起こっているのは、この本の内容が途中で止まってるからだと思うのよ。だから戦争が終わらない。この戦争を止めるためには、物語の内容を埋める必要があると思うの。そのために、私たちのような物語の人間が呼ばれた。この話に、結末を付けるために」


 この世界は戦争をしている。その原因はこの本にあり。この人たちは、戦争を止めるために結末を付けようとしている?

 一気に情報が頭の中に入ったためにパンクしそうだ。


「えっとつまり……赤ずきんちゃんはこの戦争を止めたいってこと?」

「うん。だって……きっとこの話では、私たちが主人公だから。物語を終わらせる義務があるでしょ?」


 それだけの理由。でも、その言葉は理解できる。主人公は、物語の中心にいなければならない。そして、その物語を紡がなければならない。

 話を作るのはもちろん作者だが、その核を形どるのは主人公のキャラクター性だ。それをなくして、話は書けない。


「主人公……でも待って、もしここが本当に本の中なら、この世界に元々いた主人公は誰なの?」

「いいところに気付きましたね。ミス・アリス」


 メフィストが答える。


「私は元々黒の陣営に居たものですが、その中にこの世界に元々いた人は誰も居ませんでした。全員余所の物語で悪役や端役に収まった、いわゆるはぐれ者の集まりです」

「代わりに僕たちや赤ずきんちゃんが居た白の陣営は。物語の核を担う、主人公やキーキャラクターで纏まってたよ。もちろん、元々居た人なんて一人もいない」


 ヘンゼルはメフェストの説明に付けくわえ、グレーテルたちはそれに同意した。

 赤ずきんちゃんは続ける。


「殺されたのか……もしくは元々いなかったのか。それはわからないけど。物語が死んでいない以上、これは続いてる話なの」


 主人公の居ない話は飽和する。浮足立って纏まりがなくなり、やがて崩落する。そうならないようにするには、別の主人公を立てる必要がある。


「じゃあ赤ずきんちゃんたちは、自らこの物語の主役になることで、結末を作ろうとしている」

「その通り。それこそが私たち、物語を紡ぐ者(ストーリーテラー)の役割よ」



~始まりの物語~


 この出会いが全ての起点。

 ここから始まり。ここで終わる。

 数奇な出会いによって集まった彼女たちは、やがて世界を硝子のように砕き割る。

 その過程が如何なることであろうとも、結末は変えられない。

一応、ちまちまと書いていこうと思ってますが、できるだけ勉強して設定を練り込んでからいこうと思います。

この度は読んでいただいてありがとうございます!

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