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傍若無人

木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂る山深く、子供の泣き叫ぶ声が響き渡る。

それは(ふもと)の村にも聞こえていた。

だが誰も様子を見に行こうとしない。子供の叫び声が聞こえたら、すぐさま様子を見に飛んでいくのが普通だろう。しかし、この村の村民は誰ひとり山へ向かおうとしない。それどころか、外には人っ子ひとりいないではないか。戸はピシャリと閉められ、物音ひとつしない。

静まりかえった村に、ただ子供の悲鳴が(とどろ)く。


いったい山中(さんちゅう)では何が起きているのか。それを知るのは一匹の大蛇と泣き叫んでいる張本人である少年だけだった。



「…………また子を喰っておるのか……(あく)(じき)(へび)め」


いや、もうひとりいた。少し離れた木の上で大蛇と少年を見つめる老人が。



黒々と光る長い体をそのままに、少年の体を大蛇は飲み込む。ゆっくり、ゆっくり飲み込んでいく。少年がバタバタ暴れようとも、むしろその足掻きを楽しむように眼は爛々と少年を見据(みす)えて、放さない。


そんな残虐非道の悪蛇を、老人は木の上からいと哀しげに見ていた。

この老人、ただの老人ではない。この山で何百年、何千年と修行を積んできた仙人だった。

もちろん強力な仙術(せんじゅつ)も扱える。この悪蛇の悪行を止めさせることもできたはずだ。

しかし何もせず、ただ見ていた。



老人の名を仙柳(せんりゅう)といった。

仙柳(せんりゅう)には子供がいた。血の繋がりはなかったが、縁あって出会った男の子だった。まだ(よわい)3歳。一番可愛い時期だ。


あの悪蛇。知恵もあるようで、実に狡猾(こうかつ)な手口で仙柳を脅した。


「あたしに害を為そうとすれば、お前の子を喰ろうてやるぞ」



仙柳(せんりゅう)は手を出さなかったのではない、出せなかったのだ。

もちろん仙柳も人の子の親。目の前で泣き叫んでいる少年の親の気持ちを思うと胸が張り裂けそうなほどに辛かった。

だが、自分の子を犠牲にしてまで他人の子を守れるほど、仙柳は強くなかった。

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