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進路希望がオレオレ詐欺ってバッカじゃないの!!

 



「俺は――――オレオレ詐欺かな」


 バチコ――――――――ン!


 あたしの右手が火を吹いた。


「トモヒサ!あんた何言ってんの?馬鹿じゃないの!?進路希望の話してんのに何で犯罪を選ぶ話になんの!?」


こいつは成績がいくて優秀だ。県内の模試でもトップを譲らず、全国模試に至ってはトップ10にも入るウチの高校(ガッコ)でも先生方の期待を一身に受ける逸材なのだ。

 なのに考えることはトンチンカンでアンポンタンなことばかり、小さい頃からあたしがどんだけ迷惑を被っているか。パンツ見せろとか、胸ないけど揉ませろとか、その都度あたしの右手と左手と右足が火を吹いた。

 それでもこいつは全く懲りることがない。今度は進路にオレオレ詐欺とかアホじゃなかろうか。


「しかし、考えても見ろ。昨年の件数は1,300件を越え530億円にも及ぶ。これはひとつの事業といって差し支えないものだと思うんだ。それに政治家や官僚も金が流れるのを歓迎してるんじゃないかと思う―――」


 痛いじゃ無いかと言って理路整然とそんなことを話し出す。

 あたしの右手と左手がさらに怒りを込めて火を吹く。


 バチバチバチコ――――――ン!!!!!


「その犯罪でどれだけのお年寄りが泣いて悲しんでると思ってんのよ。いい加減にしないと本気で起こるかんね!!」


 トモヒサは一万三千件と言おううとするが、いま以上にホッペが痛くなるので黙っていることにする。


「まぁ、落ち着きぃなケーコ。そんなんパチパチ叩いとったらみんなドン引きしてるやん」


 いかん、今他5限目の自習時間、進路調査票を渡されて進路をどうするか考え中だったのだ。


「だってヒナ!こいつあんた進路どーすんの?って聞いたら、馬鹿なこと言ってんのよ!叩きたくなるじゃん!!」


 この娘はヒナゲシ。演劇部部長であたしの親友って言えるくらいには仲がいい。はんなり言葉で性格は明るく社交的で、誰とでも仲良くなるスキルを持ってる。でもなかなか腹黒い。


「うん、聞ぃ取ったわ。あんたもわややな〜。でも犯罪はアカンと思うで?やっぱり」


「そうだ!!清く正しく組んずほぐレッツだ!」


 この男はサトシゲ。柔道部副部長で甘いマスクに涼やかな目元。柔道部員なのに長髪で後ろで括ってチョン髷にしてる。女子にモテて、腐女子にモテる。根は真面目であるが、言ってることが変態じみてる。

 何であたしの周りは、特異な人間が集まるんだろう。謎だ。

 ヒナゲシはあたしの机をチラと見てからスマホを片手にルーズリーフを開いて、何やらサラサラ書いている。


「ほんなら、ちょいエチュードみたいなことやってみよか。即興劇な。そんなんやるにしても適性とか見れるやろし」


 スッとルーズリーフをあたしたちに見せる。なるほど即興劇ね。


「ふっ、いいだろう。俺の技術をとくと見るがいい」


 そんなこんなでクラスメートが見ている中、あたしたちの寸劇が始まった。



 第一幕  家族


「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン」

「なんやのそれ?」

「え?うちの黒電話こんな音だよ」

「まぁええわぁ」

「ガチャ。はい。スズキです」

「もしもし、俺だけど、ゴホッちょっと風邪引いたらしくてさゴホゴホ。声の調子悪いんだ。でさ、携帯の番号変わったから教えるね。また連絡するよ」

「もしもし?」

「後で掛け直すから、じゃ。ガチャン」


 どうやらオレオレ詐欺の第一段階らしい。なかなか堂に入った演技だ。アホっぽいけど。


「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン、ガチャ。はい、スズキです」

「あ、俺だけど。実は会社の小切手が入った鞄を置き忘れて、失くしちゃたんだけど、上司が100万都合してくれたんで悪いけど至急150万用意してくれないかな」


 あたしの右手が火を吹きそうになるが、こらえて次の一撃を与える。


「【合言葉】を教えてくれるかい?04510――――」

「え?」

「何言ってんだい。この前電話をかけた時【合言葉】を決めたじゃないか。04510――」

「え?……いや……っ」

「答えられないのかい?あんた一体誰だい?」

「ガチャン。ツーツー」


 こいつ電話切りやがった。何やら考え込んでいる。ふふん。


「何電話切ってんのよ、あんた」

「これ以上、何言っても追求されるから諦めた」

「なんや、尻すぼみやなぁ~」

「でも、この手はアリでしょ。家族同士で【合言葉】決めといてさ。こういう電話に対抗出来るじゃん。別に決めてなくても【合言葉】は?って言えばある程度の対処にはなると思うし」

「そやな〜。こんなんはどぉ?」



 第2幕  銀行協会



「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン、ガチャ。はい、スズキです」

「もしもし、△△警察署のカトウといいます。実はあなたの通帳とキャッシュカードが盗難の被害に遭ったようなので、連絡をさせて貰いました。詳しくは銀行協会の者に聞いてほぐレッツ」


 警察役をサトシゲがやっている。最後が台無しだ。


「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン、ガチャ。はい、スズキです」

「銀行協会のコバヤシといいます。警察の方から連絡があったと思います。念のため、通帳とカードをこちらで預かることになりますので、受け取りに伺わせていただきます」


 なるほど、実際こんな電話受け取ったら慌てて言う通りにしてしまうかもしれない。周囲のみんなも何故か固唾を呑んで見ている。


「ちょうど良かったです。いま、交番からお巡りさんが来て下さってるので電話を替わりますね」

「!」


 正直、知り合いの銀行協会の人関係とどっちにするか迷ったけどこっちにした。銀行協会ってよく分からんし。


「ガチャン。ツーツーツー」


 やはり切らざるを得ないだろう。出ようとする奴がいた場合は、すでに行ってしまってまた来ると言えば良いだろうか。対応策は、色々必要だろうな。


「あんたなぁ〜。この手の事向いてへんちゃうん?」

「くっ…………」


 何気に辛辣な言葉を吐く。黒ヒナが出て来たか?


「ほなぁ、次これなぁ」



 第3幕  名義貸し



「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン、ガチャ。はい、スズキです」

「………〇〇オフィスのコンドウと申します。この度あなた様が▽▽の購入の優先権を取得したとお聞きしまして名義をぜひお貸しして頂きたく連絡させて貰いました。もし名義を貸して頂けたら謝礼を差し上げたいと思っています」


 これ、オレオレ詐欺って言うより、完全 (というのもへんだが)な詐欺だよね。こいつの喋りにも迷いが出てる。


「まぁ、名義貸しより私が購入を考えますわ。知人の“弁護士”と一緒に伺いたいのでどちらに行けばいいんでしょう?」

「いえ、お名前を貸して貰えればそれで――――」

「いいえ―――興味ありますもの。ぜひ教えて頂ける―――」

「ガチャ。ツーツー」

「切ってんじゃねぇよ!話が進まねぇじゃんかっ!」

「いや、どうやっても無理っぽいし………」

「ほな、最後はこれなぁ~」



 第4幕  年〇機構


「チリコロパカロコリン、チリコロパカロコリン、ガチャ。はい、スズキです」

「恐れ入ります。こちらはニ〇ン年〇機構のヤマダと申します。実は先日流出したデータの中にあなた様の個人情報が入っている恐れがあるので、住所と電話番号と通帳の口座番号、カードの暗証番号の確認をしたいのですが宜しいですか?」


 お!最近起こったハッキング騒ぎに乗じたヤツだね。しかし、いつも思うけどお役所って毎度毎度こんな事やって反省って言葉知らないんじゃなかろうか。

 こんなだとマイナンバー制度なんて、ハッキングされてあっさり書き替えられるんじゃなかろうか。他人が自分に成り代わるなんてお笑い草だ。(笑い事じゃないけど)手間を減らす為に手間が増えるって本末転倒してるよね、全く。


「あの……どちらの部署の方ですか?(誰かの)家族がそちらに勤めていて、今回の騒ぎで連絡なんかは絶対しないから、電話があったら詐欺なので注意しろというのだけれど……。そう!ヤマシタさんて上の方ご存知?」

「………ガシャン。ツーツー」

「もしも――――し、もしも―――し。やっぱり詐欺だったのね。ガチャン」


 こうしてアホらしい寸劇が終了した。


「ケーコ、あんたいろいろ考えてんやなぁ」


 ヒナの手があたしのショートの髪を優しく撫で回す。やっぱりか、こいつと同様にあたしも試してたな、この腹黒娘め。


「ま、ね。この手の奴には色々考えてたんよ。弁護士や警察騙るくらいにあっちもそれに弱いと思うし、知り合いのって付ければ尻込みもする。弁護士ならば地域の弁護士会とかの所属を聞けばいいし、警察官なら職員番号を教えてって聞けば細かい設定してなきゃ答えられないから撃退出来ると思うんだ」


 クラスメートが何故か感心している。

 こうゆうのを小冊子にして、警ら係のお巡りさんがお年寄りやその家族の家に巡回連絡で配って話をするだけでも被害は減ると思うのだけど、甘いだろうか。


「でもー捕まえたりはしないんだな?」

「ん~Webでは誘き出しにご協力をなんて書いてあるけど、やっぱり被害に会わない事が最優先だからね」


 サトシゲの言葉にあたしはそう返す。歯がゆいけどね。


「うちなら嘘の名簿流して、引っかかった奴、えらい事にしてくれるんのになぁ~」


 ニッコリ笑ってそういうヒナ。こわいよ!


「分かった。オレオレ詐欺はやめる」


 トモヒサが眉間に皺を寄せ言った。

 皆がオーッと声を上げる。あたしもホッと息を吐く。


「かわりにル〇ンさ――――」


 言わせるか――――――あたしの右拳が火を吹いた。


 ゴッヅガハン!!!!!


 デコに一撃を受けて悶絶するトモヒサ。クラスメートは次々に席に戻っていく。詐欺の次は泥棒とか何考えて――――と思いついた考えに口元をニヤニヤさせながら涙目のトモヒサに聞く。


「な~~に?あんた。あたしに捕まえてもらいたいの?」


 3人してニヤニヤ笑う。


「………ンな訳あるか。進学だな進学。東〇理3あたりか」


 言ってることはまともなのに、妙に腹が立つのは何でだろう。


「うちも進学か、養成所あたりかなぁ~」

「俺は体育大学1本だ」


 2人共しっかりしてるね。


「あんたは~言わずもがなやなぁ~」


 机においてある進路調査用。そこには――――――――



 第一志望     警察官


 と書かれてあった。 




(-「-)ゝお読みいただき嬉しゅうございます

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