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防衛×86点


「まあ。ゆうべ城の皆がすっごく真剣にジャンケンしてたのはそういうわけだったのね」


ところ変わって始業前の教室。

フドウの着ている上着を見、

「あら、火鼠? 人もその毛織物を使うのね」

と言うサーシャに朝の出来事を伝えると、そんな反応が返ってきた。


「フドウちゃんの事を話したら、皆顔を見たがるの。おじいさまは最後にメイドのカーミラに負けて床に突っ伏して項垂れてたわ。よっぽど会いたかったのね」


言って、その光景を思い出したのかさもおかしそうにサーシャは笑う。

何度見てもその笑顔は無垢で美しく、見飽きるということがない。

ここ数日でやっとサーシャの存在に慣れ、挨拶程度は交わす程度になったクラスメート達も、これを前にしては相変わらず固くなるばかりだ。

ふいと、フドウは目を逸らし、


「まあ、サーシャからもお礼言っといてくれるかな。着てみて分かったけど、凄い快適だからこの服」

「そうでしょう? 火鼠が、毎年一番ふかふかした部分の毛を抜いて糸に紡いでくれるのよ」

「え、其処まで原材料が自分でやってくれんの?」


と。


「戦闘科! 居るか、戦闘科!」


爽やかな朝に似合わぬ、ものものしい女の声が教室に響いた。

教室前の廊下から始まったそれが、がらりと黒板側の扉を開いて一段大きくなる。

金髪美女にも関わらず、男子用制服。

薄い青地に黒の毛筆ででかでかと「防衛」と記された腕章をつけたその女生徒は、フドウを見るやほぼ一直線に足を進める。

机を挟んで真ん前に仁王立ち、威丈高に彼女はフドウを睨めつけた。


「居るではないか、戦闘科。手間を掛けさせるな」

「なんの御用でしょう? 防衛科」

「フドウちゃん! 『男装の麗人』だわ! 初めて見たわ!」

「とぼけるな。貴様、昨日構内で通信電波を発したろう」

「…………あ、あー……」

「フドウちゃん! この人は誰かしら? クラスの人じゃないわ? すごいわ! 自分の教室以外にこんなに堂々と入ってくるなんて!」

「サーシャ、ちょっと待っててね」

「分かったわ!」


途端、サーシャは興奮して掴んでいたフドウの肩を離し、口に手を当て、目だけはいまだわくわくした様子を隠せないまま自席に座る。


あれだ、多分、『男装の麗人』にときめくお年頃という奴だ。


サーシャの様子、と言うより、存在自体に毒気を抜かれたのか、暫し押し黙っていた女生徒が、それでもめげずに声を上げた。


「貴様校則の9条も把握しておらんのか?」

「……特科は、機密を扱う場合がある。故に、校内での無断の通信電波の発信は禁ずるってやつ?」

「その通りだ! 貴様知っていながら堂々と長々と無視したな!」


然もありなん、と、女生徒が畳み掛ける。

やる気なくその言葉を受け流しつつ、フドウは考えた。

フドウのした「通信」とは昨日の、『機関』との会話の事であろう。

言い分を聞くに、なんらかの機械的な理由で『発信』に気付きはしたが、相手及び会話内容までは分からなかったらしい。

ーーーー魔法的に気付いたなら、間違いなく校門での『天使』の撃退の方が問題になるはずだ。


「いいじゃん、戦闘科の一番の機密なんて声に反応してキモく動く人形の反応パターンぐらいなんだし。あんまりキモくてナイスな感じに仕上がったから故郷の母さんに自慢したくなったんだよ」


なので、フドウは徹底的に誤魔化す事に決めた。

と。


「ふざけるなよ! 何のための規律だと思っている!」


当然のように、女生徒は怒った。

サーシャはサーシャで、鞄のサイドポケットに入れてあった生徒手帳をめくり、例の第9条を見つけて喜んでいる。


カオスだ。


……もうちょっとで皆登校してくるんだけどどう収拾つけよう。

無言で考える、フドウが「もういっそ今日はサボろうか」という結論に達する寸前だった。


「きゃああああ!」


突如女生徒が悲鳴を上げる。


あ、案外叫び声女らしい。


そんな感想を抱きながらフドウが顔を上げると、増えていたのはよくよく知った顔だった。

フドウの1年上の、特科の先輩。

そんな肩書きを持った、黒髪長髪の、一見しただけだと「イケメン」で通る男子生徒が、「ふむ」と独り言ちて女生徒の尻から手を離した。

そして、今の今まで尻を揉みしだいていた手を見つめ、やがて言う。


「86点。素晴らしい」


真顔でこれだ。

問答無用でぶっ飛ばすのが正しい対応であるとフドウは常々思っているが、初見でその対応ができた猛者は、いまだに一人しか居ない。


「おはようございます。ジロウ先輩」

「うむ。おはようフドウ。爽やかな朝だな」

「どの口でっ! そう言う事が……!」

「フドウ。朝一で済まないが連絡がある」


やっと衝撃から復帰した女生徒がわなわなと震えながら出す声は綺麗に無視し、男子生徒ーージロウは本題らしきものに入った。

ああうん、これだから問答無用でぶっ飛ばすのが正解なんだってば。

ちなみに、サーシャの目が輝いたのは「先輩」のあたりだった。

ときめきワードのようだ。


「なんです?」


問うフドウに、ジロウは相変わらずの無表情のまま、静かに告げた。


「『戦闘』の、実地が入った」




もうね、どことは言いませんが書いてて凄く楽しかったです。


評価、ブクマどうもありがとうございます。


すごく励みになります。

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