朝一×メイド
「『フドウちゃん』さまですね! おはようございます! お目にかかれて光栄でございます! お嬢様に親切にしてくださっているそうで、城の一同を代表しまして深く深く感謝の意を表したいと思います!」
その日フドウは寮を出た途端、待ち構えていた、風呂敷包を背負ったクラシックなメイド姿の女に笑顔でそう話しかけられた。
因みに、メイドのお辞儀の角度は87度(多分)だ。
朝一だ。
寝起きだ。
正直、テンションについて行けないというのが本音だった。
「……あー、おはようございます。これはご丁寧にどうも……」
しかし、どうやらサーシャの関係者だ。
なんとか半分寝ながらもお辞儀を返す。
と、メイドは紙のように真白い顔に満面の笑顔を浮かべた。
ああ、こんな屈託のない笑顔に育てられたから、サーシャはあんなに綺麗なんだな。
起き抜けの頭でぼんやりとそう考えるフドウを尻目に、メイドはいそいそと背の風呂敷包を下ろし、露店商よろしく地べたに中身を広げて見せた。
出てきたのは、フドウの学校の男子用制服が一揃い。
跪き、それを丁寧に風呂敷の上に広げてから、メイドはば、と再度フドウの顔を笑顔で覗き込んだ。
「先日は、お嬢様を庇って危害にあわれたそうで、せめてものお礼にと、焼失した上着と、予備の制服をしつらえて参りました。今後も、破れほつれ焼失等でご入用でしたら遠慮なくおっしゃって下さいね!」
「…………」
最後の一文に、向こうの思惑というか、意識が透けて見えた。
どうやら魔物達は、何の疑いもなくフドウがサーシャを守るものだと思っているらしい。
「…………」
無条件の信頼。
たとえ何から向けられたものであっても、それ自体には悪い気はしなかった。
制服と、相変わらず地べたに跪きにこにこと笑みを浮かべるメイドを交互に見やり、やがてフドウは同じように跪いて深く頭を下げた。
「ありがとう、ございます。頑張ります」
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