早朝×対応策
フドウの登校時間は早い。
大体、始業の40分前には教室に入っている。
と言うのも、始業直前は実家や別宅からの通いの連中の送り迎えのなんやかんやで、校門付近が大変混雑するのを避けての事だった。
フドウ当人は、学校から程近い寮住まい。
早く来るのがそれほど苦にならない上、茹で卵とスープの量は早い者勝ちの朝食争奪戦に勝ち抜く上でも、この作戦は有効だった。
常ならば、ひと気のまだ無い教室前廊下。
そこで、フドウは珍しく人に出くわした。
灰色と藍の大人しい色彩の制服に映える、白いリボン。
「サーシャ」
「あら、おはよう。フドウちゃん」
「おはよ」
軽く返して、扉を開ける。
サーシャを先に教室内に導いてから、フドウは扉をくぐった。
「早いね」
「おとうさまがどうしても送って行くって言い張って。子供みたいで恥ずかしいから早く来ちゃったわ」
「はは」
普通だ。
魔王と、その『おとうさま』にあるまじき普通な会話だ。
そう思うと、乾いた笑い以外出しようのないフドウである。
席に着く。
当然だがその隣の机に、サーシャは学校指定の黒い革の鞄を置いた。
と、「あ」と。
鈴がりん、と鳴ったかのような耳障りの良い声を上げ、サーシャはすいと鞄の中から白いハンカチに包まれた何かを取り出した。
「誰も居ないから、今渡しちゃうわね。フドウちゃんのこと、おじいさまに伝えたら「持たせとけ」って」
「……何これ?」
いい匂いのするハンカチの中身は、フドウの掌にギリギリ収まり切らない大きさの、一見機械だった。
見た感じ、携帯ラジオに近いだろうか。
よく分からないんだけれど。
そう前置きしてから、サーシャは三つのスイッチとボタンを指し示した。
「スイッチを三つとも入れて、ボタンを三つとも同時に押すと『機関』に繋がるんですって」
『機関』。
昨日、『おとうさま』が口にして、結局説明はされなかった単語だった。
「……なんか、鍋火に掛けっぱなしで天使の『処分』とか『許可』とか言ってた人達か」
「『中立でもって人間社会の治安維持に尽力してる人間集団』っておじいさまは言ってたわ」
「……まあ、言われても物騒って印象は拭えないわけだけど」
あの『おとうさま』が一応お伺いを立てていた事実を見るに、それなりに力のあるモノではあるのだろう。
ーーーー『おとうさま』の言動を思い返すに。
「……サーシャを狙う、か、人間に危害を加えた『天使』を見つけたらチクる感じで良いのかな?」
「いいと思うわ」
「了解」
それだけ分かれば、取り敢えず十分だった。
連絡機を尻ポケットにしまい、そこでふと、フドウは思う。
「ところでこれ、どう言う仕組み?」
その問いに、さも楽しげに、ころころとサーシャは笑った。
「基本的には人間の機械よ? 魔法を使わなくて良いから皆に使えて便利だもの。面倒が無いように、電池だけ魔法を使ったけれど」
「電池?」
「私とおじいさまで、雷の魔法を詰めたの。山が三つ軽く吹っ飛ぶくらい力を込めたから、電池切れとかはないと思うわ!」
「っちょ! これ暴発とかしないよねぇ?!?!」
二日目は、こうして始まった。
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