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先輩たち


「焦げてる」


と、いの一番に口に出したのは机の真ん中に陣取った大柄な女生徒だった。

混血らしい、有色とも白色とも言えない肌色。

茶に、黒の挿し色が入る猫のような不思議な髪色に、鳶色の瞳がしっくりとはまっている。

スカートは短い。

ただし、下にぴったりとしたスパッツを履いている。

そんな格好だからしょっちゅうジロウに


「満点」


と言われながら尻を揉まれて、部屋中を追いかけ回す羽目になっていると思うのだが、面倒くさいのでその指摘をフドウが口に出した事は無い。


名は、フウユ・ミーラ。


フドウの一つ上の、戦闘科の特待生だ。

その彼女が、再度机に広げられたクッキーをまじまじと見つめて言う。


「でも微笑ましいわ。一生懸命作ってる感じ。これは私は食べられないわね。心して食しなさい、フドウ」


男前な意見だった。

フドウの背後で、サーシャが「姉御だわ!」と興奮している。

と。


「……なんでフドウばっかり女の子に……膝の裏にフジツボはえろ。座るたびに刺され」

「だから食べていいですよって言ってるじゃないですか」


部屋の隅から飛んできたよく分からない怨念波を、あっさりとフドウは受け流した。

念波を送って来たのは、フウユやジロウと同じく戦闘科二年のアーデル・ダズリーグスだ。

暗い金の髪に、濃い藍の目。

顔もそこそこ整っている。

要素だけ抜き出すと割合目立ちそうな感じなのに、一見して「あ、地味」と思うのは背が低いせいなのか、制服を改造していないせいなのか、オーラがないせいなのか……。

とにかく、所謂「モテ」への僻みを除けば性格は優しいし気が効くし、いい先輩だから仲良くしたいと思っているフドウである。


昨日の実地で、フドウは負傷した防衛科の一年生、リルローズを助けた。

……と、公式には説明された。

実際、やったことといえば「おとうさま」にリルローズを任せただけなのだが、引率だった保険医、ヨルムが


「面倒くさい」


と言って上司への諸々の説明をサボった為にこの状況に至る。

とりあえず、リルローズ本人はフドウが自分を助けたものだと思っているのである。

律儀なもので、今朝、一番に礼の品も寄越してきた。

一応はいただいてはみたものの、自分一人で抱え込むのは気が引けて、特科棟で広げてみればこの言われようだ。


「……とりあえず、サーシャはもらいな。見学扱いだったけど、サーシャも犯人逮捕手伝ったしね」

「良いの? じゃあ、お茶を淹れるわね」

「そうそう」


いそいそとカセットコンロの併設された小さな流しに向かうサーシャを見やり、声を上げたのはフウユだった。


「あの子、転校生だっけ? 特科の扱いはどうなってるの? 二年まで噂になってるわよ」

「あー……」


予想できた問いかけだった。

あーうーと、二三言唸ってから、フドウが答える。


「本人は、戦闘科にしたいそうです。『新しい魔法的視点』で『人の役に立つ』のに興味があると。ただ、あの子自身は諸事情から人に危害を加える魔法を使えません」

「……その設定で戦闘科? 防衛科じゃなく?」

「……『なんか違う』、そうです」


加えて、少人数の方が誤魔化しやすいしうるさいことを言う奴もいないし、その二つでどっちかって言ったら戦闘科にしとけ、と言うのはヨルムの意見だった。

まあ、防衛科はいまだに『敬虔な』神の信者の関係者が多いからと言うのももちろんあるだろう。


「じゃあ、正式にうちの所属になるんだ?」


返したのは、いつの間に席を立ったのか、サーシャにカセットコンロの使い方を教えているアーデルだった。

ジロウのようにセクハラをする心配もない紳士なので、フドウも安心してただ頷く。


「届けも、出してきたんで一応」


そこで、相変わらず気怠げな空気を纏ったジロウがのっそりと部屋に入ってきた。

常駐の生徒は、とりあえずこれで全員だ。

それを確認し、フドウはサーシャに目配せする。

しゅ、と。

膝下丈のスカートと純白のリボンを翻し、少女は居住まいを正した。


「サーシャ・ルナエルです! 今日からこの、戦闘科の所属になりました! 頑張ります! 皆さんよろしくお願いします!」



ブクマ、評価、感想等どうもありがとうございます。


すごく励みになります。

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