実地×自己紹介
「えーとですね。同時多発的に政府施設やらインフラ関連への襲撃、立て篭り事件が発生しましてね。警察だけだと手が足りないので召集かけました。朝早くからありがとう。皆ちゃんと朝ごはん食べてきましたね?」
そう言う自分はボサボサの寝癖頭で、欠伸を派手に連発しながら説明するのは、ご存知保健医、ヨルムだった。
「住み着いてんのか」と言われるレベルで宿直をこなしているヨルムである。
朝一故に、出勤前であった教師の代わりに今回の引率の運びとなったらしい。
がりがりと頭を掻き、集まった数人を数えてから、ヨルムは手元の用紙に目を落とす。
「防衛4人、戦闘2人。見学1人。まー人質も居ないですし、十分ですかねー」
軽い感じで独り言ち、ヨルムは二枚目の用紙を引きちぎると、ひとかたまりになっていた「防衛」の男三人組に、それを渡した。
二三言指示を与えられたその三人が、頷いて即座に散開する。
ーー特科の教育理念の一つとして、「即戦力の育成」が挙げられる。
卒業してすぐさま、各専門分野の一線級となりうる人材の輩出が目標であり、故に、応用に属する科では「実地」に重きが置かれ、幅広い分野で魔法を用いての社会奉仕活動が日常的に行われていた。
時として人数制限ーー実績に応じての召集、早い者勝ち等々が存在し、成果の積み重ねの成績いかんで就職に直接影響が出てくる。
目の前の、占拠されたという建物を前に、フドウとジロウは感慨深げに呟いた。
「『戦闘』の実地久しぶりっすねー。防衛優先でこっちまであんま回ってこないですもんね」
「個人的には『破壊』の実地も嫌いじゃないがな」
「そっすか?」
「ボーナスステージっぽい」
「ああ、車一方的に解体するのとか?」
無論、「実績」の蓄積は科単位でも存在する。
防衛科は、学園創設当時から花形として常に優秀な人材を輩出している科だ。
「衛る」為に、「魔法」を使う、社会常識的に実に真っ当な集団であると言える。
対して。
「何故……私が戦闘科などと一緒に……?!」
エリート達の戦闘科への評価と言えば、大方こんなもんであった。
先程、ジロウが実地の存在を告げた後現れたヨルムによって一緒くたに連れてこられた女生徒が、物凄く嫌そうに呟く。
元々の認識に加え、移動中、何度かジロウに尻を撫でられたのが効いているらしい。
「まあそういうなエロ尻。『制圧』に関しては流石に貴様らより俺たちの方が得意だぞ?」
「誰がエロ尻だ無礼者が!! 私にはリルローズ・マーカスと言う名がちゃんとあるわ!!」
「まあ! 可愛いお名前!」
「……」
道中から、九分九厘、こんな感じである。
ジロウに煽られ、怒って何か言う度にサーシャの屈託の無い人懐っこさに出鼻を挫かれ、女生徒ーーローズは早くも疲れて来たようだ。
ヨルムが向き直り、フドウらの方へと寄ってくる。
「建物内部の見取り図をお渡しします。周りは別行動の三人が包囲しているので、あなた方は索敵、確保、もしくは燻り出しを担当してください」
言われて、フドウは用紙を受け取った。
ざっと見るに、所謂銀行型の、一気に進入し難いカウンター及び内部構造を持った施設だった。
地下は無く、隣の建物からは離れている。
なるほどこれなら、外部への逃亡の可能性は低かろう。
じっと紙を見るフドウに、後ろでぎゃーぎゃーと騒いでいる三人を見やっていたヨルムが不意に顔を寄せた。
フドウにだけ聞こえる声で、人の良さそうな声が囁く。
「仲良くね」
……従来的なモノの見方で失礼かと思うのだが、魔物にこの心配をされるのは、人間としてちょっとどうなんだとフドウは思った。
少し考え。
ふ、と短く息を吐き、大きな動作で振り返る。
パァン、と音を立てて手を打ち鳴らし、注目が集まったところでフドウは告げた。
「一年、フドウ・ビーです。専門は機械工作並びに操作。研究テーマは『魔力の直接的利用』。よろしくお願いします」
一息に言う。
く、と。
ジロウが喉の奥で笑ったのが分かった。
一歩引き、ジロウが腰のベルトから湾曲した細身の剣を引き抜く。
「二年、ジロウ・アキヤマ。専門は魔法剣術。卒論は『切断破壊における魔法優位性』。よろしく」
続いた自己紹介に、サーシャの顔がぱあっと輝いた。
「素敵!」
そう呟き、彼女は高々と右手を挙げる。
「この間転校してきました、サーシャ・ルナエルです! 一年生です! えっと、研究とかはこれから決めます! よろしくお願いします!」
そして、サーシャはきらきらとした瞳でじっと女生徒ーーリルローズを見やった。
一連の流れに毒気を完全に抜かれ、観念して彼女は同じように言葉を並べる。
「一年、リルローズ・マーカス。……よろしく」
最後に付け加えられた言葉に満足して、フドウはふうと息を吐いた。
何がしんどいってサブタイトルいちいちつけるのが一番しんどい。
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