4話 テスト中の訪問者 #1
夏の日差しが眩しくなってくる7月上旬のこと。
定期テスト(注・読者のみなさんにとってはご存知の通り、内申書などに影響を及ぼすもの)の当日の朝、教室にはちらほらと生徒がいた。
「今日からテストだけど……。勉強してきた?」
「あー……勉強してきてない……。前回の中間テストと今回の期末テストは重要って言われてたのに。赤点、取っちゃいそうだな……」
「確かに。春原先生いわく、赤点取ったら承知しないって言ってたからね。頑張らなきゃね」
「なんか最近になってかなりシビアなこと言うよね。春原先生は」
「地獄の3日間、早く終わらないかな……」
と一部の生徒が話していた。
紫苑は今日からの期末テストの勉強のため、いつもより早めに学校にきていたが、話している人がいると集中が切れてしまうタイプらしく少しイライラしていたようだ。
話してる余裕があったら少しぐらいテスト勉強しろ! と思いながらノートや授業中に配られたプリントを見直していた。
*
チャイムが鳴り始めた途端、身長160cm前後で、白衣を着た女性が入ってきた。
先ほどの会話に名前だけ出てきていた春原先生だ。
「起立!」
紫苑が号令をかけ、生徒達がイスから立ち上がる。
「れ……」
「ハイ、みんな座って!」
紫苑は「礼!」と言おうとしたが、春原によって遮られた。
生徒達は一斉にぽかんとした表情をし、生徒達は着席する。
春原は1度咳払い(せきばらい)をし、
「みんなー! 今日から期末テストだよ! ちゃんと勉強してきたかな? 以前から言ってるけど、赤点取ったら承知しないからね! 今日の朝のショート(注・ショートホームルームの略)はおしまい!」
と言い、教室から姿を消すかと思いきや、彼女はまだ教室付近におり、再び姿を現す。
「今日の3限目、担任の教科である生物で赤点取ったら退学処分だから覚悟しておいてね。じゃあ、みんな、頑張ってね~!」
と脅迫なのかは分からないが、そのように告げ、生徒達は嫌々ながら返事をする。
その後、春原は教室から出て、生徒達は再びノートやプリントの見直しをし、テストに挑んだ。
*
この日のテストの教科は黒板に書いてある。
今日の教科は1限目に世界史、2限目に自習を挟んで3限目には春原が担当する生物のテストが行われる。
1日目のテストは問題なく終了した。
*
期末テスト2日目のショートホームルーム。
「今日もテストだよ! 今日のテストは国語の現代文と2限目の自習を挟んで、3限目の英語だよ! 英語のリスニングテストはよーく聞いて点数を確保するんだよ」
「ハーイ」
という流れで2日目のテストが実施され、1限目の現代文も2限目の自習も問題なく終了した。
*
3限目の英語のテストで事件が起きた。
怪盗ベルモンドがきたのはこの時間だった……。
この時間のテスト監督のテストは女性数学科教師の今田だ。
彼女は問題用紙と解答用紙を配布しながら、
「あと10分くらい経ったらリスニングテストが始まるから、心の準備をしてといてね」
と言い、生徒達は黙って頷いた。
*
問題用紙と解答用紙が配布され、静かな教室にカリカリとシャーペンの音だけが聞こえてくる。
そして、数分後に、
「これから、第3学年期末テストのリスニングテストを始めます」
と言う男性の声で放送が入った。
生徒達は一瞬シャーペンを動かすことを止め、問題用紙のリスニングテストの問題を探していた。
おそらく男性英語科教師である大島が事前に録音したものか? それとも、生で出題しているのだろうか?
「まずは第1部です」
ブチッ。
「……」
突然テープらしきものが切れた。
やはり事前に録音したものが正解だ。
そのため、3年生のどの教室からも大騒ぎである。
「なんだなんだ!?」
「テスト中にベルモンドが出たとか!?」
「やったあ! 今回の英語のリスニングテストはナッシング♪」
「オイ。リスニングテストがなかったら筆記で稼ぐしか方法がないぞ」
「……」
「あっ、英語、苦手だったんだ! どうしょう……。」
「リスニングテストがなかったら、赤点、取っちゃうよぉー」
英語が得意な人にとっては関係ないが、苦手な人にとっては皮肉に近い……。
ある意味を込めてご愁傷様。
*
あれから数分が経ち、騒ぎがおさまり、リスニングテストの問題文は流れない状態が続く。
時間がもったいないため、生徒達は再びカリカリと筆記の問題文を解いていた。
突然、放送が入った。
生徒達はリスニングテストが再開されるかと思い、リスニング問題に戻るが、
「みなさん、こんにちは。お久しぶりですね? 今日は期末テスト中ですが、私のお遊びに付き合ってください」
やはり、ある生徒が言っていた通りのキザなベルモンドからの放送だった。
「誰か! 放送委員でも学級委員でもいいから職員室に行ってきて!」
と今田が叫ぶような口調で言った。
放送委員でも学級委員でもある紫苑はどっちにせよ私じゃんと思った。
なぜなら、彼女にとっては「職員室か放送室に行ってきて!」というセリフは聞き慣れているので、自ら動き出していた。
*
紫苑は放送室に到着していた。
放送室にはほぼ毎月のようにベルモンドが出没しているということから数パターンの原稿がプリントアウトされて置いてある。
彼女はそれらから『試験中の対応について』の原稿を見ながら放送することに決めた。
*
テスト中の校内に放送のメロディーが流れた。
「テスト中に失礼します。校内にいる生徒、職員に連絡します。たった今、校内に怪盗ベルモンドが出没しました。大至急、荷物や貴重品を持って体育館に避難してください。もう1度繰り返します。たった今……」
さすがに何度もベルモンドが出没しているため、生徒や職員はもちろんのこと、放送する側である紫苑も慣れてきていた。
テープの電源が入ったままだったため、それを止める。
さて、変身だ!
しかし、紫苑は教室にバトンを置いてきてしまったようだ。
彼女はかなり焦ったような表情をしていた。
「あっ、バトンを教室に置いてきちゃった……」
今から教室に戻ると避難中の先生とかに「早く避難しなさい」と言われるかもしれないと思ったからだ。
「これじゃあ、変身できないよ……。バトンを私の手に届けてくださいな!」
先ほどの最後の言葉を言った瞬間、バトンは彼女の手元にあった。
「あれ? おかしいな? いつの間にかにバトンが手元にあった」
さあ、今度こそ変身だ!
紫苑はバトンを回し始めた。
「All my friend forever!」
お決まりの変身シーンは読者のみなさんの想像力で任せてもらい、
「変身完了! ボクはニャンニャン刑事!」
彼(?)は白髪で白いラフな感じの服に、手の甲までの黒い手袋を着用していた。
「ありゃ、なんか服が違くないか……? あっ、これは夏服っていうやつか!」
と服装の違いに気づいたが、
「テスト期間中くらい、ベルモンドとやり合う必要はないんでは……?」
と呟いた。
*
同じ頃、1年2組の教室にいた春原は……。
1年生は数学のテストが実施されていた。
彼女は昨日実施された自分のクラスの生物のテスト採点をしていた。
現在は赤点はいないようだ。
突然の紫苑の放送で1年生の教室も大騒ぎである。
「ハイ、みんな、落ち着いて避難してねー」
と言い、生徒達は、
「ハーイ」
と返事をし、鞄を持って教室を後にした。
数学のテスト用紙と計算用紙が風に乗って飛ばされていく。
誰もいなくなったはずの1年2組の教室にまだ残っている人が1人いた。その人は女性だった。
「はぁ……。なんでこんな時期に怪盗ベルモンドと戦わなきゃならないの?」
とため息混じりに言う春原。
「仕方ない……。Please give your dream!」
彼女はいろいろな意味で変身することを決意し、右手の指をパチンと鳴らし、いろいろと変身していく。
「変身終了! 私は謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサ!」
彼女は黒いシャツと白いスカート、そして、半袖の無駄に長い白衣を着ていた。
「ん? 夏服になってる!」
しかし、謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサは、
「はぁ……。やっぱり、テスト期間中はやり合いたくないな」
とため息混じりに言うのであった。
*
いつものように、どこかの教室でミーティング。
それがミサとニャンニャン刑事の日課であった。
ちなみに、2人がいるのは2年1組の教室である。
2年生のこの時間は社会科の地理のテスト中だったようだ。
「こんにちは、ミサさん!」
「こんにちは、ニャンニャン刑事さん!」
何気に2人は呑気に挨拶を交わす。
「今日はテスト2日目みたいだな。3年生は英語のリスニングテストが始まったところで怪盗ベルモンドがきたって言ってたな」
「へぇーそうなんだ。1年生は数学のテストだったみたいだよ」
「各学年で違う教科でやるんだな」
「そうみたいだね」
「こんにちは。謎の中略ミサさんとニャンニャン刑事さん」
「きたな! 怪盗ベルモンド!」
「待ちなさい! 単細胞生物!」
ミサの『単細胞生物』という生物用語は気になるが、2人は各々の思ったことを言ったが、実際には、
「なーんちゃって! オレだよ、オレ!」
変態仮面……いやニャンニャン仮面だった。
「なーんだ……。変態仮面か」
ミサとニャンニャン刑事が声を揃えてホッとしたかのように言った。
その時、
「『単細胞生物』って何ですか? どうやら、この私を細胞の世界にリンクさせようとしているんですね?」
本物のベルモンドがいた。
しかし、ミサは全く気づかない。
「えーとね、『単細胞生物』はね……」
ミサは語り出すのか? 『単細胞生物』を。
「『単細胞生物』は1つの細胞のみでできている細胞のことで、栄養活動と生産活動を固さの細胞を行う生物なの!」
ミサは見事に『単細胞生物』について語り切った。
さすが、変身する前は理科の先生である。
「へぇーそうなんですね。『単細胞生物』って凄いですね」
うんうんとベルモンドは頷きながらミサの説明を聞いていた。
ふと、ミサが見ると、
「ん? キザ怪盗、いつからいた? うわぁ!」
突然、ミサの胸ぐらを掴み、ミサの喉の辺りをめがけて、ベルモンドが持っている洗脳用であろう拳銃で撃とうとしていた。
「あなたが『単細胞生物』について語っていた時からいましたよ? 今回のターゲットはミサさん、あなたですよ?」
と冷ややかな笑みで言い放った。
「ミサさん、ベルモンドはあなたを撃とうとしている! 彼に撃たれたら洗脳されてしまう!」
「そうね……。って、離しなさいよ!」
「分かりました」
ベルモンドはミサから離れた。
そして、解放されたミサはニャンニャン刑事に駆け寄る。
「ちょっと耳を貸して」
こしょごしょこしょ……。
ミサとニャンニャン刑事は何やら話し合っていた。
最終的に決まったことは、
「黙れ! くたばれ、この野郎!」
「You! くたばっちまえよ! ベルモンド!」
とミサとニャンニャン刑事はベルモンドに向けて人差し指をさして言い放った。
*
そして、しばらくの間、ミサとニャンニャン刑事からバシバシと言い放たれたベルモンドは、
「こうなったら、2人とも撃ちますよ? いいんですか?」
と2人に問いかけた。
「嫌よ!」
「嫌だ!」
と2人は答えた。
「今回はテスト期間中ということなので、武器を使わずに戦いましょう! 問題は全部で20問出します。20問中15問以上正解したら勝ちです。14問以下だったら2人とも撃ちますよ? オイ、準備しろ!」
「ハイ! ベル様!」
ベルモンドは洗脳された男子生徒(注・詳しくは第3話を読んでいただくと分かります)に準備をするように促し、男子生徒はすぐさま準備を始めた。
*
数分後、準備を終えたベルモンド達は、
「それでは始めますよ。第1問は英語の問題です。今から私が次の10個の日本語訳を黒板に書いて出題します。単語や熟語を英単語で答えなさい。ただし、答えも黒板に書いてくださいね。どちらが答えますか?」
と右手に白いチョークを持ち、問題を書きながらミサとニャンニャン刑事に問いかける。
「ボクが答える!」
とニャンニャン刑事は返事をし、ベルモンドと同じ白いチョークを持ち答え始めた。
「えっ、ニャンニャン刑事さんは英語、得意なの?」
「ああ、これでも英検3級は持ってるからな」
2人は話していた。
ニャンニャン刑事は話しながら答えていき、ご丁寧に見直しまで行っていた。
ベルモンドは白いチョークから赤いチョークに持ち替え、答え合わせをする。
「正解ですね。続いて第2問。国語の問題です。次のカタカナを漢字に、漢字からひらがなに書き換えなさい」
黒板にはそれぞれ10問ずつ出題されている。
「これはオレが解く!」
「いいえ、私が解くわ!」
「なんでだ!? 国語はオレが得意としている教科だぞ!?」
そうなのだ。
ニャンニャン仮面の変身する前は意外なことに国語科教師であろう。
しかし、ミサは、
「今回は私とニャンニャン刑事が相手なの! 私達がどうなってもいいの!?」
「私達がどうなってもいいの!? って、負けたらどうなるんだ?」
「私達が負けたら、キザ怪盗に洗脳されてしまうの!」
「その時、オレは?」
「その時は戦うしかないの。変態仮面が1人で!」
最終的には第2問の20問はミサが解いて全問正解した。
ベルモンド達はいろいろな分野の問題を出題してきた。
時々、2人が分からない問題にはニャンニャン仮面がヒントを与えたりして協力していた。
そして、ついに最終問題。
「さあ、最終問題である第20問。数学の問題です。次の等差数列の和と等比数列の一般項を求めてください。この問題も2人で協力して解いてください」
黒板には問題が10問かいてあり、ミサとニャンニャン刑事は協力して問題を解く。
「ねぇ、ニャンニャン刑事さん。ここはどうやって解くの?」
「えーと、ここはあーしてこうして……。うんうん、合ってると思うよ」
「謎の中略ミサとキザ刑事、頑張れ!」
「どうもね。変態仮面」
2014/10/05 本投稿
2015/08/12 改稿