28話(最終話) 暴走する彼女と科学と魔術ですべてを終わらせる
「ネオン、暴走を止めろ!」
ロレンスはネオンに向かって叫んだ。
一方の彼女は……。
「止める? ありえないわ。この私が自ら暴走を止められるわけがないじゃない」
と――。
「くっ……生意気な……」
ロレンスは彼だけで止めさせようとしたら大変だと思ったのだろうか、ベルモンドも仕方なく協力している。
「どこが?」
第2体育館に響く声。
漆黒の魔法陣にいるネオンとその場外にいるベルモンド達の声……。
「うふふ……。これで終わりね……。貴方達の運命はもちろんのこと、貴方達の宿命も!」
ネオンからの一言で凍りついた表情を浮かべる3人。
「ベルとラントはすぐに安全なところへ逃げろ!」
「ロレンス、ここに残って何をする!?」
「俺は……俺は彼女の暴走を止める!」
「何考えてるの!? この状態を打破するのは1人じゃ無理だよ? 分かってるの!?」
「ラント、落ち着け。1人では無理かもしれないが、できるだけ誰かの助けなしで救いたいのさ……」
「……。そう……。無茶はしないでね」
「あぁ」
ベルモンドとラントはどこかへ向かって歩き始めた。
*
ラント達がいなくなった第2体育館。
ロレンスは1人で暴走しているネオンに向き合っている。
「ネオン、いい加減に暴走を止めろ!」
「黙りなさい! このフラーレンが!」
彼女は彼にバトンらしきものを向けて言い放つ。
「フラーレン? 突然、何を言い出すと思いきや笑わせてくれるな」
彼は左手に短槍を構える。
「さて、貴方は覚悟はできているのかしらね?」
「はぁ? なんの覚悟だよ?」
戸惑う彼に近づき彼女は彼の耳元でこう囁いた。
「フラーレンになる覚悟をね……!」
「ひぃっ……!」
*
一方のベルモンドとラントはどこかそわそわした様子でテラスにいた。
「ロレンス、あんなこと言ってたけど、大丈夫かなぁ……」
「どんなことを言っていたんだ?」
「えっと、1人じゃ無理かもしれないけど、できるだけ誰かの助けなしで救いたいって……」
「彼らしいな……。きっと大丈夫だ」
「それはなんで?」
「それは……」
ベルモンドは一旦、言葉を切った。
「彼はネオンのことが好きなのかもしれないな……」
「そう思うとちょっと心配になってきたなぁ……」
「そうだな……。見に行くか」
「うん」
*
一方のロレンスはまだまだ暴走をし続けているネオンを止めることに苦戦していた。
「くっ……」
「貴方の魔術でこの私を封印することは到底不可能だと思った方がいいわね。さあ、フラーレンになるがいい!」
「ちょっと待て!」
「ネオン、待ちなさい!」
ロレンスの目を疑う早さでベルモンドとラントが現れた。
「ベル、ラント!」
「無茶しやがって」
「放っておけないからちょっと様子を見にきちゃった」
「ちょうどよかったわ……。これから彼をフラーレンにするところなのよ!」
「フラーレン……?」
「ラント、知っているのか?」
「うん。フラーレンとは、炭素の同素体のことで、他にはダイヤモンドとか黒鉛とかがあるよ」
「へぇー」
「なるほど」
「くだらない情報を感謝するわ……。黙らないとどうなるか分かっているわよね?」
「分からない……」
「なんのことかな」
「知らないな……」
「ハイ? 分からないとかってどういうことからかしら?」
「もう、分からないと言ったら分からないんだよ!」
「いい加減にしろ!」
「本当に分からない人達ね……」
ネオンはどこか少し意味ありげな表情を浮かべたが、次の瞬間……。
「もう終わりよ……」
彼女は自分の手に持つバトンらしきものを回した。
*
その後、ロレンスとベルモンドはフラーレンと化してしまった。
ラントは彼らを揺すったりしたが、全く動かなかった。
「ベル、ロレンス!」
「さて、今度は貴女の番ね」
「そうはさせないよ!」
ラントはフラーレン化した彼らに、
「大丈夫……。私が助けてあげるからね……」
と優しく言った。
彼女はどこかへ行こうとして動き始めた途端、
「貴女、どこへ行くの?」
「ちょっとね……」
「そう……(おそらく、彼女は2人を助けようとする気ね……。まぁ、無駄な抵抗だけど……)」
*
ラントは第2体育館から化学準備室に移動していた。
第1体育館近くを通りかかった時にはなにやら楽しそうな笑い声が響いていたが、彼女は素通りした。
彼女が化学準備室に着いた時には誰も姿が見あたらなく、二酸化炭素になりそうなものを探していた。
「二酸化炭素……。フラーレンは炭素だから……酸素だね」
彼女は二酸化マンガンを見つけた。
それと同時にオキシドール、炭素の黒鉛とフラーレンも運がよく見つけることができた。
「この高校は凄い! 実験で使う材料が揃ってる! さあ、実験だ!」
彼女は炭素の同素体の黒鉛とフラーレンをシャーレの上に置いた。
「さて、水上置換法で酸素を作って……」
作った酸素を霧吹きに入れ、炭素の同素体に吹きつけた。
炭素は少し溶けたところで、
「よーし! 実験成功!」
彼女は実験に使ったものを片付け、化学準備室から姿を消した。
*
「ちょっとって言っていた割りに結構長かったわね」
「そうだね。私も被害を受けたくないからね!」
「さあ、どうかしらね……?」
ラントは先ほど科学準備室で作った酸素が入った霧吹きを取り出し、フラーレン化した彼らに吹きつけた。
フラーレンは酸素と化合され、彼らは少しずつ身動きをとることができるようになった。
「ラント、ありがとうな」
「よく酸素を作れたな……」
「いいえ。たまたま、資材が揃ってただけだよ? ロレンス、ネオンの暴走を止めて!」
「了解! I love need you.But your heart need me!」
「これで終わりだな……」
「キャーッ!」
「イヤーッ!」
その封印術は暴走していたネオンはもちろんのこと、4人全員、第2体育館の中心で倒れ込んだ。
*
こうして最後の戦いは終わった。
先ほど、話し合われていた秘密作戦は水の泡となってしまったが……。
それから、彼らはどこへ……。
2015/05/06 本投稿
2015/08/14 改稿
2016/06/05 サブタイトル変更及び前書き削除




