1話 学校騒動 #1
4月のある日の昼休み。
校門から入ってすぐの建物は音楽室や化学室、職員室などがある管理棟が、その奥に白を基調とした生徒達が過ごす教室棟や体育館がある。
更にその奥には専門教室棟や建築科専用棟と農業科専用棟。
それらの校舎を囲むようにたくさんの木々が植えられている。
この高校の制服らしく男女とも黒のブレザーで男子生徒は黒のスラックス、女子生徒は黒のスカートに黒のハイソックスを着用し、上履きは1年生は赤、2年生は緑、3年生は青のサンダルを履いている。
教室棟を見てみると、1年生から3年生の各教室にはたくさんの生徒がおり、一部の生徒は中庭などと教室以外のところで過ごすなど、みんなそれぞれ思い思いの休憩時間を過ごしていた。
そのうちの3年生の教室。
そこに1人の女子生徒と1人の男子生徒が机を2つくっつけて向かい合うような形で昼食を取っていた。
おそらく1組のカップルだろう。
「ハイ、崇史、口を開けて! あーん」
女子生徒は崇史と呼ばれた男子生徒に箸でつままれたタコウインナーを口に運ぼうとする。
「えっ、恥ずかしいよ、紫苑。みんなに見られてると思うよ?」
崇史は周囲を見回し、紫苑と呼ばれた女子生徒の行為を見て顔を真っ赤になるくらい恥ずかしがっていた。
紫苑は一旦箸を止めて……。
「ふふっ、この照れ屋さん! 大丈夫♪ みんな、気にしてないよ。ハイ食べる! あーん」
「あーん。ん、このタコウィンナー、ウマイ!」
崇史は仕方なく口を開き、再度紫苑の箸につままれたタコウインナーを食べた。
それは相当美味しかったらしい。
「よかったぁ。また明日も作ってくるね」
そんなやり取りをしながら2人は昼食を食べ終え、談笑を始めたのであった。
*
一方、場所を変えて、職員室。
職員室も生徒と同様に、たくさんの先生達が昼食を食べていた。
少し覗いてみよう。
そこで2人の先生がなにやら話し合いをしながら昼食を食べていた。
1人は白衣を着た理科の先生で、もう1人は長いパーマをかけた少々背の高めの先生だった。
「ところで、たま(注・美沙の旧姓こと。)たまのクラスは今日のロングホームルームはなにやるの?」
「うーん……。今日は何やろうかなぁ? やっぱり3年生だし……。進路のことにしようかな。福山先生のクラスは?」
「私も何にするか迷ってるんだ……。たま、秋山先生が来たよ?」
「本当だ」
春原と福山の前に1人の男性が歩いてきた。彼が例の秋山先生という男性だろうか。
「春原先生に福山先生、ここにいたんですね。先程はなんの話をしていたんですか?」
「6限目のロングホームルームのことですね。今日は進路のことについて話そうかなって」
「なるほど……。その内容でいいんじゃないですか? なんか早いなぁ……。もう彼女らも3年生ですもんね……」
「本当に早いですよね」
「そうですね」
としみじみとしたように話す3人の男女の先生達であった。
よって、春原のクラスはもちろんのこと、3年生の全クラスのロングホームルームは進路についての話をすることに決定した。
*
さて、昼休みは残りわずかになった時。
「ん?」
春原、秋山、紫苑は何かの気配を感じた。
*
教室にいた紫苑は突然、周囲を見回し始めた。
「紫苑、どうしたの?」
崇史は何かを察したらしく、彼は口を開いた。
「なんか誰かがいるような気がするんだよね……。気のせいかなぁ……?」
「ふーん。俺には何も感じないけど……」
「ふーんって……。あっ、そうそう、あの噂知ってる?」
「何?」
「ある先生から聞いたんだけど、最近、この学校に怪盗ベルモンドが来てるって噂があるんだって」
「かいとうべるもんど?」
何も知らず首を傾げる崇史であった。
*
同じ頃、職員室では……。
「なんか、何かの気配を感じるんですが……」
秋山が不思議そうに、それにつられて春原も、
「ハイ……。私も誰かがいるような気がするんですよね……」
「えっ、そうですか? 気のせいじゃないんですか?」
福山はキョトンとした様子だった。実際には嘘か本当かは分からない……。
「そういえば、最近では怪盗ベルモンドがこの学校に来てるという噂があるんだよね」
と春原が何やら思い出したように言い、弁当箱を片付け始める。
「春原先生、その噂話は聞いたことがありますね」
「本当ですか?」
「ええ。福山先生は……」
「たま、そのことはたった今初めて聞いたよ!?」
「まぁ、いずれにせよ分かることなんだから……」
春原は福山の言ったことに対して呆れた様子であった。
*
気配を感じさせる人物はここにいた。その場所は放送室である。
春原、秋山、福山の教師3人と紫苑、崇史の生徒2人の予想が的中した。
「みなさん、こんにちは。っていうか、はじめまして。私の名前は怪盗ベルモンドです。ついにここで楽しい楽しいお遊びの始まりですよ! It's show time!」
ついに怪盗ベルモンドが登場してしまった。
声からすると多少キザな印象が伺えるが、実際はいかほどだろうか……。
「ふっ……。ここからの戦いの相手は誰だろう……?」
放送室から出てきたベルモンドは華麗に宙に舞い、校舎から出た。
*
ベルモンドの挑発的な言葉を聞いた生徒達や教師達は至る所でざわめきを起こしていた。
「あの噂、本当なんだ」
「そうだね」
「マジで怪盗ベルモンドがいるんだな」
「声が放送されてるから当たり前でしょう」
と。
*
その放送が流れたあとの3年生の教室ではざわめきから騒動になりかけていた。
紫苑が冷静な口調で、
「今から放送室に行って校庭とかに出るよう呼びかけようかな?」
と崇史に聞いてみる。
すると、
「うん! いい考えだ。そうしよう。危ないから放送室まで俺と一緒に行くか?」
彼が賛成してくれた。
校舎内は危険なので、同行すると言う彼に対して紫苑は、
「ううん。私1人で行ってくるね」
と言い、彼女の手にはバトンを持っていた。
「そうか、気をつけてね」
「うん!」
手を振り見送る崇史を一瞬見て、紫苑は教室から姿を消した。
*
同じ頃、職員室では、
「校内放送で避難を呼びかけた方がいいんじゃないですか?」
「そうですね」
「そうしましょう」
という結論でまとまった。
「誰が放送しますか?」
「言い出しっぺの春原先生でいいんじゃないですか?」
「言い出しっぺって……。まぁ、行ってきます」
*
この高等学校の放送室は職員室を経由しているため、生徒は強制的に職員室に入らざるをえないのだ。
そこにバトンを持っている1人の女子生徒が職員室に入ってきた。
彼女が放送室に入ろうとした瞬間、
「あっ、夏川。ひょっとして、放送で呼びかけようと思ってるとか?」
春原にあっさりと捕まってしまったのであった。
「ハ、ハイ。春原先生も同じ考えだったんですね……」
紫苑は苦笑するしか方法がなかった。
「じゃあ、じゃんけんで負けた方が放送するでいい?」
「ハイ。行きますよ!」
2人はグーを出した。
「最初はグー。じゃんけんポイ!」
春原はチョキを出し、紫苑はパーを出した。
よって、紫苑の負け。
なぜ、私はパーを出したんだろうと紫苑は少々後悔していた。
*
ピーンポーンパーンポーン♪
放送の定番のメロディーが校内に響き渡る。
「校内にいる生徒、職員に連絡します。たった今、校内に怪盗ベルモンドが来ました。みなさん、大至急、校庭に避難してください。もう1度繰り返します。たった今……」
同じ内容の紫苑のアナウンスが流れる。
そのアナウンスで校内にいる生徒達や先生達が避難を開始していた。
*
校舎内に残っているのは、1人の白衣を着た女性と1人の女子生徒、1人の男性が残っていた。
まずは白衣を着た女性の春原。
「Please give your dream!」
右手で指をパチンと鳴らし、いろいろと変身していく。
「変身終了! 私は謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサ!」
彼女は白いロングワンピースと無駄に長い白衣を着ていた。
「ん? あまりたいして変わらないじゃん」
確かに見た目にはあまり変化は見られない。
しかし、白衣は通常より無駄に長く、そのポケットの中には拳銃1丁と試験管が10本入っているのだ。
「あっ、よく見たりしたら便利そうなものが入っているのね」
と、ミサは納得したようにポケットの中を見ていた。
パンパン!
どこからか分からないが、銃声が聞こえてきた。おそらくベルモンドではないだろうか。
「相手も拳銃を使っているのね!」
ミサ拳銃を構え、打ち返した。
*
次は別室にいる紫苑。
彼女はバトンを回し始めた。
「All my friend forever!」
そのバトンは宙を回り、それと同時に身体もくるくる回る。
そして、変身が完了したようだ。
「変身終了! ボクはニャンニャン刑事!」
1人の少年らしき人間がいた。
白髪で白いラフな服になにやら黒いラインがある何かを固定するベルトだろうか。
一応トイレに行ってみる。
しかし、男子トイレに行くべきか、女子トイレに行くべきか迷っている。
最終的には女子トイレに入り、鏡を見てみると、
「ん? なんだこれ? ひょっとして、ボクは男装? 髪色は本来ならば黒髪だけど、白くなってる!」
自分の変身した姿を見て驚いていた。
パンパン!
こちらからも銃声が聞こえてきた。
「相手は拳銃を使っているんだな……」
と冷静な対応をするニャンニャン刑事。
そして、手榴弾を約10ダースを準備し、そのうちの2個を投げた。
*
一方、例の男性はというと……。
もうすでに変身を終えていた。
彼はネコ耳で純白のマントをつけており、ベルトには鞘がある。
手にはなぜか1台のラジカセを持っている。
なんか変な人が出てきたと思われるが、れきっとしたこの作品のキャラクターである。
「やぁ! オレはニャンニャン仮面! 今持ってるラジカセにはオレの新曲が入っている! 曲名は『おお、我らがヒーロー。ニャンニャン仮面!』!」
となにやら無駄にハイテンションな口調で曲名を発表した。
その新曲は後ほど……。
「乞うご期待! オレの他にあと2人仲間がいるらしいからな。その2人に気に入ってもらうように作詞・作曲したんだ!」
とニャンニャン仮面が人差し指でピッと指を指し、カメラ目線であろう角度から言う。
パンパンパンパン!
これはありだろうか?
ミサやニャンニャン刑事は攻撃を仕返してきたが……。
ニャンニャン仮面は仕返さず、気づいたら床にのたれ死んでいた。
「うっ……誰だよ!? こんなところで銃声を上げているのはさ!?」
戦いはまだ始まってもいないのにまた倒れるニャンニャン仮面であった。
*
ここは誰もいない2年生の教室。
なぜなら、他の教室は窓ガラスが割れていたりなどと危険な状態なのだ。
その教室にいたのは白髪で白いラフな服を着た1人の少年らしき人がぼんやりと外を眺めていた。
数分後、白いロングワンピースと無駄に長い白衣を着た女性が教室の入口に立っていた。
「あ、あなたは……?」
女性が言った。
少年らしき人物は女性がいる方に振り向き、
「ボクはニャンニャン刑事です。ボクは手榴弾を使って戦っています。あなたは?」
とニャンニャン刑事は簡単に自己紹介をし、女性に聞き返す。
「私は謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサ。呼び方は何でもいいですよ。武器は拳銃を使っています」
「名前が長いですね。じゃあ、ミサさんと呼びましょうか?」
ミサの頬が赤くなった。
「ミサさん」と呼ぶニャンニャン刑事に惚れてしまったようだ。
「えっ、ええ。これからよろしくお願いします、ニャンニャン刑事さん」
「こちらこそ。よろしくお願いします、ミサさん」
2人は自己紹介を終え、今回からの敵である怪盗ベルモンドを捜索し始めた矢先……。
「あれ? ひょっとして、君達はオレと戦う仲間?」
ネコ耳でマントをつけ、ラジカセを持った不審な人物が現れた。
「あの……どちら様?」
ミサとニャンニャン刑事は彼に問いかけた。
そして、彼は答えた。
「オレはニャンニャン仮面だ。これからよろしく! ところで、君達の名前は?」
「わ、私は謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサです……」
「ボ、ボクはニャンニャン刑事です……」
ニャンニャン仮面はミサとニャンニャン刑事に強引に握手を求めた。
「よ、よろしく……」
と、握手をするものの2人は少々引いていた。
「あっ、そうそう。2人に聞いてもらいたい曲があるんだ! タイトルは『おお、我らがヒーロー。ニャンニャン仮面!』!」
ニャンニャン仮面はラジカセの準備を鼻歌を交えながら楽しそうに始めた。
2014/09/14 本投稿
2014/11/10 改稿
2015/08/12 改稿