~箸休め~なぜなに128(いちにっぱ)
オルネッタ「はーい、良い子の皆こんにちはー、なぜなに128はっじまるよー」
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オルネッタ「このコーナーでは、本編で絶対説明しない設定を紹介します。進行役は私、値上がりの奴隷オルネッタと」
マッツェイ「公証人マッツェイ、三十歳です。趣味は園芸、一人でゆっくりとオリーブの木を世話している時は心が表れます。神よ、この平穏に感謝を」
フランチェスコ「……商人ギルドのフランチェスコだ」
オルネッタ「以上の三名でお送りします。て、元旦那さまー、愛想なさすぎです。スマイル、スマイル」
フランチェスコ「うるせぇ、こっちは忙しい中、来てやってるんださっさと始めろ。今こうしている間に、船が沈んだ手紙が来たらどうしてくれるんだ……ブツブツ」
マッツェイ「フランチェスコ、貴方はせかせかとお金を集めすぎだよ。もう少し、時間にも慈善にも寛容になってはどうだい? たまには貧乏人の戯言にも耳を傾けておくれよ」
オルネッタ「親友のマッツェイ様がこうおっしゃられていますが、どうされます?」
フランチェスコ「チッ……輸送、金融、農酪、製造の仲介、手広くやっている中規模商会の主だ。国外にも支店を持っている。年は三十八、趣味は帳簿付けと手紙、二十三歳年下の妻と正社員四十名、召使が四人、奴隷が十人いる。そこにいるこまっしゃくれたガキは元俺の奴隷だ。元値の倍で商売上の友人に売った。こんなもんでいいのか?」
オルネッタ「はい、十分です。立派な自己紹介、ありがとうございました。ツンデレな元旦那さまに、皆さんはくしゅー」
マッツェイ「パチパチパチパチ」
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フランチェスコ「……フン、仕事には誠実なだけだ」
マッツェイ「そう言う事にしておくよ。ところで、オルネッタ、僕達は本編の舞台となっている国、ラルネの一地方都市に住んでるという事でいいんだよね」
オルネッタ「はい、その通りです。そう言えば、ラルネの名前が出たの何気に初めてかもしれません。それと都市名がないのは、本編には絶対登場しない為の予防線ですね」
フランチェスコ「助かる話だ。勇者なんぞに来られたら、商売の邪魔だ」
マッツェイ「貴方はどうしてそう……いや、ここで話す事ではないね」
フランチェスコ「いや、俺も無駄な事を言った。お互い様だ」
オルネッタ「なんか気持ち悪い通じ合い方をしているお二人ですが、さっさとこっちの世界に戻って来て欲しいもんです。なにせ今回のテーマは『お金』。私は貝や札しか触ったことないんですからね」
フランチェスコ「分からないなら胸を張るんじゃねぇ」
マッツェイ「まぁまぁ、実際、お金の話は庶民に分かりづらいものだよ。僕も貨幣の種類位は知っているけど、手形や為替になるとさっぱりだ」
フランチェスコ「そうか。なら俺がみっちり教えてやる。まずは下の図を見ろ」
種類 | 名称 |日本円換算価値(一枚あたり)
__________________
| 金貨 |約一億円
| |
公的貨幣| 銀貨 |約百万円
| |
| 銅貨 |約十万円
―――――――――――――――――
| 貝 |約千円
地域貨幣| |
| 札 |千円以下
フランチェスコ「この図を見れば分かる通り、貨幣には二種類ある」
オルネッタ「公的貨幣と地域貨幣ですね。これって何が違うんです?」
マッツェイ「ああ、それなら僕にも説明できる。公的貨幣は”国が”貨幣の価値を保障しているんだ。それに対して地域貨幣は”商人ギルドが”貨幣の価値を保障しているんだ」
オルネッタ「それって、何がどう違うんです? 私達、ふつーにどっちも使ってますよ。お小遣いは貝で頂きますし、屋敷の買い物では奥様がお酒や食べ物を銅貨で支払っているのを見た事あります。別に誰が保障してもあんまり変わらないじゃないですか?」
マッツェイ「えーとそれは……フランチェスコ、パス」
フランチェスコ「簡単に言えば、信用度の差だな。公的貨幣は国の役所に持っていけば各貨幣価値あたり決められた量の竜鉄と交換してもらえる。国がつぶれない限りな」
オルネッタ「竜鉄?」
フランチェスコ「竜が時折残す高純度かつ高強度な鉄の事だ。伝説と言われる武器は例外なく竜鉄で出来ている。その竜鉄が公的貨幣価値の基準になっている。いうなれば、竜鉄本位制というところだ」
オルネッタ「へー、それではあたしが銅貨もってお城に行けば」
マッツェイ「砂の一粒位だろうけど、交換してもらえるよ。次、地域貨幣にお願いするよ」
フランチェスコ「地域貨幣は商人ギルドの受付に持っていけば、銅貨や銀貨と交換してもらえる。こっちも商人ギルドが潰れない限りだが」
オルネッタ「潰れるんですか商人ギルド?」
フランチェスコ「可能性はゼロじゃない。同じように、国が潰れる可能性もある」
マッツェイ「ああ、つまり、公的貨幣は国が滅ぶ危険性しかないけど、地域貨幣は国が滅ぶ危険性と商人ギルドが潰れる危険性。二重の危険性を持っているわけだね」
フランチェスコ「そう言う事だ」
オルネッタ「どういう事ですか?」
フランチェスコ「ハァァァァァ、馬鹿でも分かるように説明してやる」
オルネッタ「よろしくお願いしまーす」
フランチェスコ「ケース1、国が滅んだ場合。公的貨幣はタダの貴金属になる。貨幣価値はゼロだな。当然、公的貨幣との交換を前提としている地域貨幣も価値がゼロになる。
ケース2、商人ギルドが潰れた場合。地域貨幣の価値はゼロだが、国は滅んでないから公的貨幣の価値は変わらねぇ。
地域貨幣はケース2の場合でも価値がゼロになる分、公的貨幣より信用度が下がる」
オルネッタ「なるほどー。商人ギルド、て商人の寄り合い所ですよね。最近、市場は不安定だそうですし、私もお小遣いは公的貨幣で貰える様にお願いしましょうっ!」
マッツェイ「オルネッタ、それは無理だよ。一番価値の低い銅貨でも、貝百枚分の価値があるんだ。君のお小遣いはそんなに多くないだろう」
オルネッタ「はいっ、七から十貝ですっ! て、銅貨、てそんなに高いんですかっ!」
フランチェスカ「銅貨二、三枚で、一人前の男が、てめぇの女とガキ二、三人を一月は食わせていける。奴隷のガキが手に入れられるもんじゃねぇ」
オルネッタ「と言うか、そんな大金貰っても困りますよ。雑貨屋さんで何か買おうにも不便すぎます」
マッツェイ「そうだね。君は今、いいところに気付いたよ。普段生活するには公的貨幣は価値が高すぎるんだ。公的貨幣は価値が高すぎて使いづらい、だけど国は銅貨より価値の低い貨幣は作ってくれない。そこで生まれたのが地域貨幣だよ。メタ的に言うと、コンビニに十万円札を持って買い物に行ってお釣りがなかったら困るから、千円札や小銭として使えるものを用意した、と言うところかな」
オルネッタ「ふーん、そうなんですか。あ、ついでに読者への解説になりますけど、貝は南方で取れる特殊な貝を使っています。太陽に照らすと七色に光って綺麗なんですよ。
札は貝以下の釣りについて、木札や布に値段が書かれて判子が押されたものです。私はちょろまかした木片にやってもらってますね」
フランチェスコ「あー、これは蛇足だが、地域貨幣は商人ギルドが保障しているから、商人ギルドがない場所じゃつかえねぇ。具体的には、人口百人以下の村じゃ、まず無理だ」
オルネッタ「えー、それだと殆どの所で使えないじゃないですか。そう言う所はどうしてるんです?」
マッツェイ「そう言う所は、基本自給自足だからね。大抵、物々交換で成り立ってるよ。村同士の交流は市場が基本だから、そこでなら、地域貨幣が使える場合もあるね。後は村長が、銅貨を数十枚、時には銀貨を持ってたりするけど」
オルネッタ「せんせー、質問です。何で村長がそんな大金持ってるんですか?」
マッツェイ「オルネッタ君、それは村に災害や被害があった時、国に解決を依頼する為だよ。公的機関が受け付けるお金は、公的貨幣だけだからね」
オルネッタ「??????????」
フランチェスコ「マッツェイ、馬鹿に難しい事を教えても理解できねぇんだ。もっとサルでも分かるレベルで言ってやれ。こういう風にな。なにか困った事があった時、国は金貨か銀貨か銅貨を持っていれば、助けましょう。だが、貝や札しかもたねぇ奴は、死んじまえ。そういうスタンスだからな」
オルネッタ「それって、貧乏人は死ね、て事じゃないですか、やだー」
マッツェイ「この辺は込み入ってるから、省くけど、別に国は貧乏人を見捨てているわけじゃないよ。貧者にでも慈悲を、が神の御意思だからね」
フランチェスコ「後は国同士の取引も公的貨幣が基本だな。行商人なんかも懐に、金貨一枚忍ばせている奴がいるから油断できねぇ。元々、運搬性を向上させる為できた貨幣だからな。運ばれて何ぼなんだが、商売がやりづらい事ないぜ」
マッツェイ「最近はその役割は銀行と為替や証券が握ってるね。それでも、国同士のやり取りに余計な中間者を入れない為に、今でも公的貨幣の出番は少なくない」
フランチェスコ「まぁ、その辺の話が入ってくると、貨幣レートやら非実態貨幣、商人ギルドの持つ危険性やら、ギルドの役割なんかも話さないわけにはいかねぇな」
マッツェイ「そうだね。僕も聞いてみたかったんだけど、この前君が大もうけした売り買いについて、教えてくれないかい? 何度考えても、手紙が三回行き来するだけで金貨一枚が君の手元に転がってきたのが分からないんだ」
フランチェスコ「ああ、いいだろう……ン?」
オルネッタ「ブスブスブスブスブスブス」
フランチェスコ「なんだこいつ、頭から煙だしてやがる」
マッツェイ「どうやら、理解の限界を超えてきたみたいだよ」
フランチェスコ「ッチ、物覚えの悪いガキだ」
マッツェイ「とりあえず、彼女が復活するまで待とうじゃないか。そう言うわけだから、今回の話はここまです。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました」
フランチェスコ「……ありがとうごぉざぁいまぁしたぁ?」
特にオチもなくEND