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128組の勇者達  作者: AAA
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布教会から始まり勘違いで終われ

 布教会の入口をくぐると、壁一面を覆う巨大なタペストリーが現れた。天空から見下ろす聖神とその足元で果物を食べ笑いあう信徒達。空は晴れ、信徒の周りを果樹が覆い、そこから顔を出す小動物達が描かれている。よく見ると、遠くに黄金の川も見えた。

 どこかの一説を切り取ったタスペトリーなんだろうが、それがどこだったか思い出せない。


「何もないのね」


 リシェルの言う通り、四、五十人は入れそうな広間には椅子一つなかった。正面に吊るされたタペストリーと、その脇に見えるドア以外目立ったものはない。


「ここは、説法を聞かせる場所だからだろう。ここに街中の人間がやってくるんだ。ものを置く余裕なんてないんだ」


 魔族のリシェルとしては意外なのかもしれないが、俺達からしたらこれが普通だ。毎週、決まった日にここの広間に来て、説法を聞いて、祈りを捧げる。後は余裕があれば、お布施を少々。

 懐かしいな。毎週、説法を聞くのが楽しみだったけ。勇者の話や怖い悪魔の話、天使や動物たちがモチーフとなった寅話まで、最後にちょっと格言らしきものが言われる以外はなんでもありだった。


「お二人とも、こっちでござるよ」


 懐かしさに浸っていると、ジョウゲンがタペストリー脇のドアを開けて手招きしていた。


「あのドアの奥は何になってるの?」


「俺の村だと、助祭様達の家につながっていた。たぶん、ここも同じだろう。助祭様が司祭様か司教様に代わっただけで」


「ふ~ん、見張り一ついないなんて、随分、不用心ね」


「住民に余計な心配をさせない為でござるよ。例え一時、故郷を離れようとも、それは安全の為でござって、戦争が終われば必ずや帰郷できる。そういう、はったりでござるな」


 リシェルの疑問に、ジョウゲンが苦笑いを浮かべた。

 外から来たジョウゲンとしては苦しい言い訳だと思っているんだろうな。だけど、そう言う事なら理に適っている。

 良くも悪くも布教会は日常の象徴だ。どんな小さな村にも布教会はあって、この広間で説法を聞いて育つ。そこに物々しい姿をした兵士がいたらどうだ?

 間違いなく不安に思うな。

 ただでさえ街の周りに外壁をつくって、大量の傭兵を雇い入れて、住民を外に避難させているんだ。残っている住民にこれ以上の負担はヤバい。具体的には街を運営する最低限の人間すら逃げていかれかねない。


「それより、行くでござるよ。あんまりここで佇んでおると、怒られるでござる」


 そう言って促すジョウゲンに連れられて、俺達は奥へと向かう。

 ドアの奥は安宿の様に狭い廊下が真っ直ぐ伸びていた。木板が持ち上げられた窓から光が差し込み、右側に等間隔で並ぶドアを照らしている。

 所々、軋んだ音を鳴らす廊下を歩いていると、正面から衛兵が歩いてきた。

 こんな所に居るという事は光神教の信徒だろうな。直轄地から、この聖域を守る為に連れてこられたのか。もしくは、聖域を守る為に赴任していたのか。

 どっちにしても、運がない。こんな最前線に来るなんて。

 衛兵とすれ違うが、廊下が狭いのでお互い体を横に向けてかわす。

 何度か同じように衛兵をかわしていると、ひときわ大きなドアの前でジョウゲンが立ち止まった。赤と緑の布で作られた飾りが見える。ここに指揮官がいるんだろう。


「拙者が指揮官殿に紹介するまで、沈黙を保つよう願いしたいでござる」


 神妙な顔で振り返ったジョウゲンに、俺とリシェルは頷いた。

 ジョウゲンはドアに向き直り、ノックする。


「開いています。入りなさい」


 中から若い男の声が答えた。

 相手を確認しないのは、それだけここの警備に自信があるのか。ここまで敵が来たらどうしようない、と肝が据わっているのか。

 どっちにしても、前線の指揮を任されるだけあって、神経は図太そうだな。


「失礼するでござる」


 ジョウゲンがノブを回す。ドアが微かに軋んだ音を立てて開いた。

 部屋の中には机が一つ。継ぎ目の見えない組木で組まれた机は、木材の濃淡だけで幾何学模様を作っている。木材の選定とその加工の巧妙さ、かなり値の張る逸品だ。

 その机の上どころか、床にまであふれた羊皮紙の中で、司祭様が羽ペンを走らせていた。

 白い法衣の所々にインクの汚れが目立ち、袖や襟首に施された赤い刺繍には綻びが見える。右手に巻いた緑のスカーフも薄汚れていた。

 ずいぶんくたびれているな。それだけ、戦況が芳しくないって事か。


「ああ、君か。暫く待ちなさい」


 司祭様はチラリとジョウゲンに視線を向けると、丸々とした顔を歪めて顔を伏せる。骨や関節の凹凸がないソーセージの様な指が羽ペンを操り、羊皮紙に何か書きつけていく。

 司祭様は羊皮紙の端まで羽ペンを走らせ終わると、荒々しくインクの入った墨壺に羽ペンを突き刺した。跳ね飛んだインクが袖口の赤い刺繍と緑のスカーフに黒い染みを作る。


「それで、何の用です?」


 司祭様はウンザリとした顔を俺達に向ける。あからさまに、面倒なのが来た、と言う様子だ。


「司祭殿、報告したい事があるでござる」


「はぁぁ。今、街の防衛計画の途中なんだ。後にしてくれないか?」


 ジョウゲンが一歩部屋に入りながら切り出す。司祭はこれ見よがしに大きなため息を吐いて、両目を指で揉み始める。

 ずいぶん煙たがられているな。これで本当に話が通せるんだろうか?

 まぁ、これが失敗に終わっても、俺やリシェルに大したデメリットはない。お手並み拝見と行こうか。

 俺はジョウゲンがどうするのか、高みの見物をする事に決める。


「いや、それが緊急の事でして、実は勇者 ポンタ殿の知り合いが、勇者 ポンタ殿との面会を求めているでござる」


「なに?」


 司祭様が指を目から離す。表情もさっきまでとは違い、多少しまったものに変わった。

 上手い。勇者の名前を出して、司祭様に話を聞く気にさせたか。

 だが、この話の流れだと賃金交渉やら補給の話を持ち出すのが難しい。

 どうする気かな?


「それも、あの勇者試験で一緒に戦った方でござる」


 ん、ジョウゲンの言い方……

 リシェルを横目で見ると一見無表情を貫いているようだが、その頬が少しひくついていた。

 だよなぁ。俺も同じ気持ちだ。たぶん、俺の頬もひくついている。

 ジョウゲンの作戦は大体見当がついた。リシェルをヒルデルカと誤解させて話を有利に進めようというのだ。他に方法がないんだろうが、事前に一言あってもいいんじゃないか?

 付け加えると、俺を巻き込む気まんまんだ、このKIMONO野郎。


「実はすでに来ていただいているでござる」


 俺達の気持ちを知ってか知らずか。ジョウゲンは司祭様が戸惑っている間に、場を作った。

 これで余程の用事がなければ、司祭様は俺達を拒めない。ここで拒めば、勇者 ポンタの客人を無下にした事になりかねないからだ。

 ジョウゲンが一歩脇に引き、後ろに立っていた俺とリシェルが司祭様の正面に来る。


「これはとんだ失礼をば、わたくしこの街にて防衛の任に当たっている司祭です。どうぞ、中に入って下さい」


 慌てて立ち上がった司祭様が、俺とリシェルと部屋に招き入れる。


「突然の訪問申し訳ありません」


 俺はリシェルを隠すように一歩前に出た。

 ポンタがどれ位、俺やヒルデルカについて話しているか分からないが、リシェルを余り目立たせない方がいいだろう。リシェルにヒルデルカの真似なんてさせても、どこでボロがでるか分かったもんじゃない。


「貴方が、カールさんですか? 噂はかねがね勇者 ポンタから聞いていますよ。そして、隣にいる女性は……」


 司祭様は俺の顔からつま先まで無遠慮に眺めまわした後、リシェルに視線を移そうとする。

 まずいっ!

 今、ヒルデルカの名前を出されたら、明らかな嘘を吐かざるえなくなる。そうしたら、完全に共犯者だ。それは勘弁願いたい。

 俺は司祭様の言葉を遮って、事実だけを口にする。


「彼女は俺の仲間です。ここまで、仲間のポンタに会いたい俺のわがままに付き合って、お忍びでついて来てくれました」


 うん、嘘は言っていない。リシェルは俺の仲間だし、ポンタに会うのは俺のわがままで、魔族の国から特殊任務の為にお忍びで来ているんだ。

 まぁ、今の言い方じゃ、勇者試験で勇者になった俺の仲間が、俺の我儘に付き合う為に、本来の任務を放置してついて来てくれた様にも聞こえるかもしれない。

 だけど、そう誤解したとしても、それは司祭様が勝手に思った事だ。確認しない方が悪い。

 言外に追及するなと言うニュアンスを込めた気もするが、それはきっと気のせいだ。


「なるほど、それでお二人は勇者 ポンタに会いたいわけですね?」


「そうでござる。そしてお二人は、拙者が補給物資の輸送を任された事を聞きつけ、助力頂ける事になったでござる」


 俺達の代わりに、ジョウゲンが勝手なバックストーリーを語ってくれる。

 純朴そうな奴なのに、実は腹黒いな。嘘は言ってないけど、誤解させる話し方が身についてる。

 そんなジョウゲンの本性を司祭様は見抜いているのだろう。胡散臭そうにジョウゲンを睨み付けている。

 あの顔は、どうせお前から話を持ち掛けたんだろう? と思ってるんだろうな。

 司祭様、大正解です。だが、今ここでそれを言う事は出来ない。

 嘘だ。認められない。

 なんて言ったら、この話を受けた俺達の面子を潰す事になる。特にリシェルをヒルデルカと勘違いしている以上、潰す面子は勇者の面子で、それはとりもなおさず光神教の権威に傷をつける事になる。

 暫く考え込んでいた司祭様だが、リシェルとジョウゲンをちらりと見て頷く。


「うん、まぁ、ちょうどいいですね。一人よりは二人の方が良いでしょうし」


 ちょうどいい? ああ、砦の戦力で勇者が二人になれば、それだけ防衛力が上がるからな。ジョウゲンも人で不足だと言ってたし、戦力増強は渡りに船なんだろう。

 司祭様は如才ない笑顔を浮かべる。


「お二人が同行されるなら、構いません。ジョウゲン、補給物資の輸送を任せます。あなた達の他に二、三人、こちらで選定したものを同行させます」


「承ったでござる」


 こうして、思ったよりも簡単に話はまとまり、翌日には砦へ向けて出発となった。

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