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フェアリー・カカオ

作者: 志鳥かあね

「私はカカオの国からやってきた、チョコ妖精よ!」

 突然、お子様向けアニメのキャラクターが言いそうなセリフが耳に入った。

 俺は別にテレビをかけているわけではない。突然目の前に人が現れたのだ。

 それは『妖精』というイメージを覆すただの中年のおっさんだった。

 おっさんはにこやかな表情でこちらを見ていた。

 俺はあまりの出来事に一瞬、固まってしまった。

「……だ、誰かー! 不法侵入者です! 警察を!」

「ちょっと、やめてくれ!」

 おっさんは先ほどのかすれかすれの甲高い声から一般男性の低音声になって、俺を止めに入った。

「勝手に人の家に入ってきて、何言っているんだよ!」

「私は君のチョコから出てきたんだよ?」

 と、また急に高い裏声に変えて答えるおっさんだった。

 事の発端はこうである。



「直樹くん。はい、これ」

「え? え?」

 俺はクラスの女子、池谷みことに屋上へ呼び出された。

 そこで、池谷は照れくさそうに何かの包みを渡してきたのだ。

 一年に一度のイベントを覚えている俺は、大体の状況は把握していた。

 よりにもよって、全く好みじゃない女子からプレゼントを貰うことになるとは。

「俺甘いもの好きじゃな……」

 と、言い終わる前に、池谷は俺の手に包みを握らせ、走り去ってしまった。

 そう、今日は年に一度のチョコの日。バレンタインデーであった。


 屋上には俺と、手には紫色の包みだけが残った。

 しょうがなく貰ってしまったが、学校のゴミ箱に捨てようと思った。

 だが、あの池谷の不気味な顔を思い出すと、なんとなく呪いがかかりそうな気がしたので、家に持って帰った。

 包みを開けてみると、案の定チョコレートが入っており、手作りなのか若干いびつなハート型をしていた。

 やはり捨てようかと思ったが、何気に俺は甘党だったりする。

 普通は嫌なやつからもらったものなんて食べないが、好奇心から一つ食べてみるかと、口に運んでみた。

 だが食べた瞬間、口から勢いよく、煙が噴出したのだ。

「うお!!」

 咳き込み、涙目になりながら俺は後悔した。

 まさか、俺をハメるためにわざわざこの日バレンタインデーを選んだのか?

 これはやられた。とてつもなくやられた。

 そして目を開けると、そこにはチョコ妖精と名乗るおっさんが居たわけである。


「んで、おっさんあんたなんなんだよ」

「おっさんじゃなくてチョコ妖精よ!」

 おっさんは胸を張り、言い張っていた。

「もういいよそれは。で、なんで家に侵入してるわけ?」

「侵入じゃない、召喚されたんだ」

 自分では召喚という言葉が格好良いと思っているのかよく分からないが、自信たっぷりな表情に見えた。

「あーなんかよくわかんね」

 いきなり自分の部屋におっさんが来るって事は、もしや親父の客なのかと思ったが、考え直した。

 こんな変なおっさんを客に迎えるほど俺の親父は変人だったか?

 そんな事を考えているとおっさんは話を切り出した。


「直樹くんにはみことちゃんと結ばれる運命にあるんだ」

 俺は突然のおっさんの発言に驚いた。何故、俺と池谷が結ばれなくてはならない。それに、何故池谷みことのことを知っているんだ?

「おっさん、もしや池谷の親父さんだったり?」

「違う違う。私はチョコ妖精だといっているだろう」

 だんだん口調が普通のおっさんになっていく、チョコ妖精と名乗るおっさん。

 全く状況が把握できないので、とりあえず話を聞くことにした。

 話によるとチョコ妖精は愛のキューピッド的存在であり、バレンタインデーに現れるらしい。愛情込めたチョコレートに宿る妖精で、俺と池谷をくっつかせたいようだ。


「みことちゃんのことを好きになってくれ」

「無理」

 俺は即答した。

「何故だ! 確かに彼女は頭も悪いし、時間にルーズだし、短気かもしれない」

「あ、そうなの? 知らなかった」

「でも君を思う気持ちは誰にも負けないはずだ!」

「そんな事言われても、好きじゃないものは好きじゃないし。それに」

「それに?」

「キューピッドっていうのはお互いが知らない間にこっそり手助けしてやるものだ。愛っていうのは誰かが強制するものじゃない。」

 そして俺は一息ついて言った。

「愛は自然と生まれるものだ」

 その言葉におっさんは何か衝撃が走ったかのような顔をした。

 そして、そうかと納得したかのようにつぶやいた。

「分かったなら帰ってくれ」

「よし、君が望むなら私は影ながら応援するぞ!」

「え? 応援しなくていいって!!」

「ではさらばだ!」

「おい、おっさん!」

 なんだかよく分からないが、おっさんは帰っていった。

 俺は安心して、いつも通りの夜を過ごした。


 翌日、学校に行くとあのおっさんの影がチラチラしているのがウザくてしょうがなかったのは言うまでも無かった。


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