07 - 白線
あの道路の白線部分だけ渡るヤツをしたい。
私は子供の頃、横断歩道の白い所だけを渡った遊びを思い出していた。
しかし私はもういい大人だ。
そんなことをしていたら奇異の目に晒されてしまうし、なにより危険だ。
人とすれ違う時邪魔になるだろうし、
地面ばかり見ていたら、曲がってきた車に気づかないかもしれない。
でもやりたい。
大人だって遊びたい。
駄菓子が急に恋しくなる時だってあるんだ。
そうだ。道路でできないなら家でやればいい。
我ながら素晴らしいアイデアだ。早速やろう。
私はトイレットペーパーを一定の長さに切り分け、
ちょうど横断歩道くらいの太さになるように並べた。
うーん、もうちょっと太かったかな。
まぁいいや、飛んでみよう。
私は軽やかに一歩目を踏み出した。
私が足を乗せたトイレットペーパーとフローリングがお互い良い感じに作用し、
フィギュアスケートの選手がスケートリンクで開脚するように、
私の片足だけが前方になめらかかつ勢いよく滑っていった。
「アァッッッダアアァアー!!!」
恐怖のあまり奇声をあげてしまう。
ついでに股の痛みを避けるように体をねじったら、代わりにゴンと膝を強打した。
「アァォ…」と英語圏の俳優ばりの絞り出すような声を出して、
膝を高速でスリスリしながら床を何度もごろごろ転がる。
危なかった。
いや危なかったじゃねぇわ。終わってんだわ。
しかし前に滑るだけで良かった。
転倒して頭を打っていたらシャレにならなかった。
「家でトイレットペーパーを踏んで遊んでいたら生命の危機に瀕しました」
とでも説明するつもりだったのか。いやこれは危険だ。
絶対に誰もこんなことを真似してはならない。
私はトイレットペーパーを片付けると、膝をさすりながら再び思索を巡らせる。
そうだ。運動公園に行けばいいんじゃないか。似たようなものがありそうだ。
という訳で、次の休日、
私は近所の運動公園に来ていた。
うーん。タイヤすらないな。
私が通っていた小学校には、下半分が埋められた連なったタイヤがあって、
休み時間などあれの上を渡って遊んだものだが、
そういった物もここにはないようだった。
間隔をあけて埋め込まれた木製の道もないし、
歩ける場所は綺麗に整備されてしまっている。
私はガッカリとしながら、下を向いて石畳の道を歩いていた。
しかしそこでハッとした。石畳の色がとてもカラフルで、
モザイク柄のようになっているではないか。
これだ。しかも都合の良いことに、
白いブロックだけがかなり飛び飛びになっている。
私はつま先で白い部分だけを何度もぴょんぴょんと飛んでいく。
素晴らしい。これが私の求めていた物だったんだ。
私は童心に戻ったようで、
しばらくこの遊びに心を奪われていた。
そして私はこの運動公園に何度も何度も通い詰め、
白いブロックの上だけを飛ぶ訓練を積み重ねていたのだが、
偶然その足さばきを見た忍者に認められ、私も忍者になることになった。
私を含めた忍者たちは皆、運動公園でこの修行をするようになる。
周囲の者共も、我らの修行を邪魔せぬよう、遠くから見守るようになった。
それで良い。我らには崇高な使命がある。
そなたたちの振る舞いはいずれ世の礎となるのだ。
拙者はこの功績が認められ、気づけば忍者の里を束ねる長となっておった。
もはや我が忍者帝国があらゆる公園とかの白い所とかを、
悉く占拠とかする日も、そう遠くはないであろう。




