黄金
ある日黄金を見つけた。小さい金の延べ棒のようなもので御神木の前に忘れ物化のように置いてあったのだ。
この黄金を見たらきっと私以外の人たちは黙って持って行くのがこの世の中での通例だろう。しかし私は宮司だ。この神社の最高責任者でありリーダーだ。私はその黄金を盗まれないように、この黄金の持ち主がここに戻ってくるかもしれないので家の中にある大きな二重金庫に入れた。
夕方になったので私は外に出てお賽銭箱のお金を回収しようとする。
「今日もないか……。参拝客がたくさん入れたのに…」
毎回、この神社はお賽銭箱に入っているお金が消えてしまうのだ。盗んでいる人がいるのではないかと思って監視カメラをつけてみたもののカメラには人が一人も写っていない。それなのに消えてしまうのだ。不思議である、これは呪いだろうか…神社に呪いは受け付けていないのだが困ったものだ。
原因不明のまま、今日も、参拝客がお賽銭箱にお金を入れたのに硬貨は一つたりともない。
収入源は他にまだあるがお金にはあまり余裕がないので何かと厄介だ。しかし妻はいつも沢山の食材や私の晩酌に使うものたちを買ってくる。なぜ買うことができるのかといつも疑問に思っている。
私は神社にある家に帰り、お風呂に入って冷蔵庫から缶ビール一本と枝豆を取り出し、今日の仕事の癒やしを自分に与える。今日は金曜日だったのでこのまま豪遊するのだ。冷蔵庫には他にも妻が作ったチーズ入りちくわや焼き鳥なんかもある。妻にも迷惑はかけたくないので、ビールはこの一本の缶だけと決めている。
「あなた、今日金庫に何を入れたのですか?」
テレビを見ながら晩酌していた私に妻が話しかけてくる。私は「黄金を御神木で見つけてね。警察に届けようと思ったけど……」と言いかけた時だった。
「あなた、警察に届けようと思ったなんて嘘をおっしゃい」
妻の視線がテレビのニュースに向けられた。その内容は、近隣にある博物館から江戸時代の小さな金の延べ棒が盗まれたというニュースだった。
「お賽銭箱の中に入ってあったお金が消えていると前に言っていたわよね?あんなのは呪いじゃありません。あれは私が盗んでいたんです。生活費に当てるために……稼ぎが足りないんです。神社の維持管理に使うなんてしたらこっちが危うくなってしまう。それにあなたが黄金を見つけた時、私は、ようやくこの神社からおさらばできると思ったのに…」
私は顔が青ざめて、テーブルに置いた缶ビールが起き上がる足と同時に倒れて中のビールがこぼれてしまった。金庫の方へ行き、震える手で金庫を開けた。だが、そこにはあるはずの黄金は影も形もなく、ただ来週飲むように冷やしていた一本のまだ生ぬるい缶ビールが私を嘲笑うかのように堂々と立っていた。
「どういうことだ…」
私は血相を変えて妻に問いかける。
「神様は等価交換がお好きなんです。あなたが黄金を金庫に隠したから、来週飲めるかわからない缶ビールと引き換えたんです。今頃あの黄金はお賽銭箱に入っているはず…。監視カメラに映らない『何か』が運んでいったんです」
私が唖然としていると外からパトカーのサイレンが聞こえる。お賽銭箱にあった黄金は今日の昼頃、ある参拝客によって見つけ出されたらしい。私は『窃盗罪』の疑いとしてとして私は捕まってしまった。
檻の中で私はあの黄金はなぜ御神木の前にあったのか、そして妻はなぜ黄金をお賽銭箱に入れたのか、『何か』とは何なのかを考えていた。そして今は宮司ではなく無職としての存在となっていた。
その夜、妻は来週飲むはずだった私の缶ビールを大事そうにすすりながら、夫が逮捕されたという速報を愉快そうに眺めていた。
「これで自由になった……」
妻はチーズの入ったちくわを食べてはこう呟いていた。妻はお賽銭箱から神へのお供えではなく『生活費』として使っていた。そして妻は黄金を盗んだ張本人であった、私を追い詰めるために…。
後に妻に容疑がかけられて私は再び宮司に戻ったのだが、みなからの評判は悪くなってしまい、収入がゼロに等しいほどになってしまった。
小さな犯罪という穢れを着てしまった私は、神社がどんどんボロくなっていく様子を見ては金に食らいつくように新しい仕事に励んでいた。もう神社などどうでも良くなってしまったのだった。
御神木の前には新しい芽が生え始めていた。人間からすればこの神社は見捨てられたが、神様からすれば自然には味方していたのかもしれない。




