第5話:勇者処理落ちする
「えっと、勇者様? ……な、なんでベッドに?」
起きた瞬間の反応は想定外のもの。
彼女に襲われて人生の墓場まで覚悟したのに、どうしてこうなっている?
照れたように……というか本当に恥ずかしいのか、灯りを付けた部屋で顔を赤くしているレティス。
「一応言うがここは俺の部屋だ」
「ふぇ? そういえば、夜に目が覚めたような?」
「…………部屋隣だしな、寝惚けて入ったのか?」
「うぅ面目ないです」
自分の失態を自覚したのか、顔をより赤らめながらも伏せる彼女。
レティスがそういう演技は苦手なのを知っている俺は、嘘はないだろうと思えるのだが――それだと今までの相談や行動の意味が分からなくなってくる。
「なぁレティスこんな状況で聞くのも変なんだけどさ、今日の飯旅の時より美味かったんだが、何か入れたか?」
「あのシエラさんから貰った特殊な調味料は入れたんですが、よく気付きましたね」
「あいつから?」
「はい美味しかったのなら良かったのですが……」
俺が魔王討伐のパーティーは、勇者である俺と賢者のレティス。
あとは魔法使いのエルフと盗賊で薬の調合が得意な吸血鬼の四人パーティーだ。
そういえばたまにシチューを食べるとき合う調味料作ったんだーって俺のシチューに勝手に入れていたが……よく考えればその日に限って火照ってた。
「あー……そうだな。今度聞かなきゃいけないこと増えたが美味しかったぞ」
「何でもかなり特別で疲れが取れるから出来れば使ってあげてくれと。今度使おうと思ったんですが、会ってからの勇者様は妙に疲れてそうだったので」
「心配してくれてありがとうな……でさ、もう一つ聞きたいんだけどさ」
「はい、なんでしょうか?」
そこまで言葉に出したところで俺は一度口をつぐんだ。
これは、一歩間違えたらセクハラ。それにマジで悪手の可能性すらある。
だけど、聞くタイミングが今しかないと思ってしまった俺は……。
「子供ってどうやって作るか知ってるか?」
もう、ここで終わってもいい。
というか口に出した時点で終わりかもしれないが、覚悟を決めろ。
「――――お恥ずかしながら、実は私知らないんです。なんでか知り合いの皆様全員が勉強しようとすると止めるので……本当に何でなんでしょうか?」
「そっか、うん。レティスは……そのままでいいんだ」
「むぅ、勇者様も同じこと言わないでください」
「いや、うん。大丈夫、この先何があってもお前はそのままでいてくれ」
あぁ、これが救いか。
なんだろうか、今までの気苦労が一気に消えた。
でも、なんでだろう――俺の勇者故の勘が、何か他に聞かなきゃいけないと言っているような、とかそんな事を思ってれば。
「あ、でも。近々勇者様に会ったら教えてくれるってシエラさんが――あの勇者様、顔が怖いです」
「いや、怖くないぞ。ただちょっと、シエラと話したいことがあるだけだからさ」
「二人きりでお話ですか?」
「まぁそう」
「……むぅ」
よく分かったレティスは変わってないという事を
ただしアレだ。シエラは許せねぇ、というかあの愉快犯なんで俺に薬盛ってるんだよ。悪戯にしては度が過ぎているというか、マジで説教。
「……あのぉ勇者様、もう戻ってよろしいでしょうか? 一緒の部屋にずっといるのは、恥ずかしくて……ですね」
今更だが薄明かりしかない部屋で一緒にいるって事実に恥ずかしさを覚えたのか、再び頬を染めながらも彼女は顔を逸らした。
「そうだな、もう寝惚けて入るなよ?」
「はい……そうします。おやすみなさい」
その日はそれで終了。
盛られたという薬の効果のせいで、眠れなかった俺は庭で久しぶりに鍛錬して過ごすという事になってしまったが……それはそうと安心した。
「よし……今日も来るか分からないが、最終確認だ」
バイト先の懺悔室。
そこで俺は、覚悟を決めて椅子に座り……来るか分からないが彼女を待った。
始まる時間までに嫌に響く時計の音を聞きながらも、扉が開くのを待って……誰かが座った気配を感じた。
「その今日も来てしまったのですが、あのシスター様」
「はい、なんでしょうか?」
案の定というか今日も来たレティス。
心臓がバックバック鳴りながらも、なんとか平静を装って次の言葉を待つ。
「大事な人と、同衾してしまったのですが……これ、子供出来ますでしょうか?」
「………………まじですの?」
「え、シスター様?」
拝啓、住んでた村の両親及びレティスの親父様へ。
俺の幼馴染兼貴方の娘は、立派な純情に育ちました……ですが一つ言わせてください。流石にここまでは予想外です。
というかすっごい今更だけど、これレティスに惚れられてるのか?
一切気付いていなかったが、この懺悔室のせいで彼女の想い知ることなった? え、これからどう接せば良いの?




