チーム初打ち合わせ
仕事から帰り、気持ちスピーディに晩飯やお風呂を済ませ部屋に戻り次第すぐゲームを起動する。
若干ご飯のときに家族(特に娘)の視線が痛かったが、今となっては些細な問題だ。
今日は、ガンズロ内でチームで集合する初めての日だ。
と言っても、いきなり本格的に対戦せずチーム内でお互いの機体を見せ合うという約束。
それと同時に、お互いの所信表明をしてチームとしての目的を定めるということも決めていた。
本当は前回そこまでやってしまうつもりだったのだが、チーム申請をして許可されると共用のスペースやチームでのトレーニングモードなど便利な機能が開放されるので、そこで諸々決めた方が捗るだろうとその日は申請までで解散となったのだ。
この日許可が降りて、チーム用の共用スペースが解放されるということだった。ちょうど他のゲームのハウジング機能のようなものだ。
待ちきれない心地でゲームに入りそこを目指す。
これまで、誰かのチームに入れてもらって既存のスペースに入ったことは何度かあったが、新たに許可されたばかりのまっさらなスペースに入るのは初めてだ。
ゲーム内のワープ機能でその場所に入ると...
「あらタンクさん、おかえりなさい!」
既にBBさんが居た。しかも思いっきりルームの改装をしている真っ最中のようだった。
「BBさんお疲れ様です、ここが我々の共用スペースなんですね!」
「ええ、そうみたいね。機体を弄るのと同じ感じで内装も家具とかインテリアとか凝ったモノが配置できそう。」
おばあさんはこういったことも好みなようで、既にかなり手が入っているようだった。
まっさらな部屋を見れないのはちょっと残念な感じはするが、このスペースをどんどんオシャレにしてくれる人がいるのはそれはそれで嬉しい。
そういうのは疎いのだ。
「ありがたいです。多分BBさんが一番ゲーム内にいる時間が長いので、お好きな感じにしちゃってください。」
「一応、リョウさんの許可を頂けるまでは、簡単な配置換えに留めているつもりなの。」
「それが間違いないですね」
まだ約束の時間まではしばらくあるので、BBさんに共用スペースの機能について教わる。
「確かゲームを頑張ってチームのランクを上げると、使えるスペースとか壁紙とか家具とか色々グレードが上がるみたいなのでその為にも頑張りましょう!!」
「へー、そういうのがあるのね。私は空飛ぶことしかできないから、あんまり役に立たないかもだけど」
「いえ、あんなに綺麗に飛べるんですから何かしら対戦でのアドバンテージになりますよ!」
このゲーム歴が一番長いこともあり、チームを組むことを望んだ立場でもあることから、必然的にリーダーとなった。
ということは、何かしらの判断が必要になった際は最終的に方向性を示さなければならないということになる。
しかし、これまでの経験からチームメイトに何かを強制するようなことはしたくなかった。既にチームを組んでもらっている以上、さらなるわがままを聞いてもらうのは忍びない。
その為に、まず高すぎる目標を示さず、楽しく遊べる位置を目標に据えること。その上で、何か楽しくない役割が発生するようならそれは率先して受け入れなければならない。
勿論二人のうちどちらかがやむを得ずつまらないと感じてしまった時は、無理に引き留めたりはしないつもりだ。
しかし、そうならないようにリーダーとしてみんなが楽しめるように細かい手を...
「うわあもうお揃いで!お疲れ様でーす!」
「あらリョウさん。おかえりなさい」
どこからともなく出現したリョウさん。まだ待ち合わせには10分以上あるはずだけど、我々と同じように早く来てくれたようだ。
「いやー、いいですね、おかえりなさいって言われるの!!実家に帰りたくなっちゃいますよ」
「今日からは、ここに来た時に私がいれば毎回言ってあげるわよ」
「ホントですか!?BBさんとチームを組んでよかったー!!」
めちゃくちゃリラックスしているリョウさん。なんか打ち解けるのが早い気がするが...?
「それとは別に、ご実家にもたまには帰ってあげてね」
「私は帰ってる方ですよ!!年に二回は帰るようにしてますしね」
ともかく、これで全員揃った。
「どうしましょう、そうしたらこのまま目標決定の会始めちゃいますか」
「異議なし!皆さんの機体を早く観たいです!」
「そうね、ささっと終わらせちゃいましょうか」
おばあさんは早くも部屋を弄るのにお熱のようだ。お言葉の通りサクッと終わらせよう。
「今気づいたんですけど、この共用ルームってこのままブリーフィングルームになってるんですね」
そういうと、リョウさんが自分のメニュー画面をささっと弄って部屋の中に大きな画面を呼び出す。
ちょうど、試合前に経由するブリーフィングルームと同じ機能のようだった。
「そうなんです、だからこのままトレーニングモードも共用の状態で直通できるって訳で」
「なるほど、私も少し前やってたけどこの機能は知りませんでした!」
「ということは、作戦会議室でもある訳ね。もう少し話し合いしやすい雰囲気の部屋にしなきゃ...」
そんな話を聞きつつ、トレーニングモードに入る。
このモードは、機体の操縦を練習するのに特化した空間に移動できる。
また、そこから機体の武装を変えたり、構成するパーツを変更することも可能なのだ。
このモード自体はゲームの基本機能として誰でも使えるが、それを他のプレイヤーと共用するには今回のようにチームを組むのが手っ取り早かった。
今回は、この機能を利用してそれぞれの機体を見せ合うことで、チームとしての強さをどの程度出せるのか。ひいてはチームとしてどのくらいの目標を目指していけるかを確認する会ということになっていた。
一度画面が真っ暗になり、少しするとコックピットに座った状態になっていた。
「えー、コクピットにつきました。じゃあ、練習場の真ん中で集まりましょうか」
「はーい、コチラ了解です。」
リョウさんはすぐ返事してくれたが、BBさんから帰ってこない。
何か手間取っているのだろう。そちらはしばらく待つことにする。
いつも乗り込んでいる四脚を巧みに動かし、トレーニングモードの舞台になる練習場で真ん中まで移動する。
すると、大きな剣を二つ携えた人型の姿が見えた。コチラに手を振っている。
「へー、剣で戦う機体なんですね!!」
となりにまで近寄ってみる。このゲームで一番オーソドックな人型の機体で、尚且つ目を引く大きな二つの剣が印象的だ。
しかも、よく見るととても見覚えのある姿をしている。
「はい、実は、この機体はセラ君のを参考にしてまして」
機体のカメラ越しに細部を確認する。
確かに、あの機体で特徴的だったマントこそないものの、体格はほぼ瓜二つだ。
たった1試合で一緒に遊んでいた時間は数分ではあるものの、印象的だったのでよく覚えている。
「お二人は、彼と一緒に遊んだんですものね」
「ええ、そんで俺がBBさんにゲーム教えてるのを見たセラさんが、リョウさんを紹介してくださったって流れですね」
「うんうん。聞いてる通りです。」
そういえばこうやってリョウさんとサシで話すのは初めてだった。
「実際どうスか?オレとBBさんとチーム組んでやってけそうスかね?」
「いやいやいや、まだ1試合もこなしていないからわからないですけども」
そこまで言って、リョウさんは少し言葉を選ぶように言った。
「でも、お二人とも良い人なのでチームの居心地は良いです。この雰囲気のまま対戦で遊べるならやっていきたいなと」
「そうですか、よかった!!」
かなり安堵する。正直懸念事項ではあった。
「とはいえ、いつもの感じで戦闘中もイチャイチャされると、ちょっと嫌かもですけど?」
「え、イチャイチャ??オレとBBさんが?」
イチャイチャはしていないだろう。談笑しているだけで。
え?イチャイチャしてるかな?
「あぁごめんなさい、半分冗談です」
コチラがフリーズしたのを見て向こうからフォローが入る。
「良かった、大丈夫です。試合中はちゃんとゲームに集中しますよ」
少しドキドキしてしまったので、話題を変える。
「そういえば、セラさんは大きな大剣を一本持ってたと思うんですけど、リョウさんは二刀流なんですね」
「そうなんですよ!!これも彼からのアドバイスなんですけど、この手の質量兵器は盾にもなるから、二本持っとくと潰しが効くし、何よりカッコいいって!!」
なるほど、確かにあの手の武器を盾がわりにして射撃をやり過ごしているのは上位陣のプレイでも見たことがある。
ロボット同士の撃ち合いだが、小口径の兵器しか積んでいないと有効打に欠ける、という話はよく聞く。
実は、オレが四脚に乗っているのも火力不足を嫌っての選択なので、理屈はよくわかる。
「良いですね。そうやってゲームのアドバイスをくれる人がいるのは凄く羨ましいです。」
そこまで話していると、ザーザーと通信にノイズが入る。
「おまたせ、ちょっとこっちに夢中になっちゃってねー」
BBさんからだった。どうやらコチラのスペースに移ってきたようだ。
「あー、BBさんもこっちに合流しましょう!このマップの真ん中にいます!」
「まんなか、まんなか、えーっと」
どうやら軽く迷子になっていそうなので、チーム用の座標信号を送る。
ゲームの基本機能で、チームメイトに自分の座標を共有できるのだ。
「BBさんは、バリバリ対戦こなしているんですか?」
「いや、まだセラさんとご一緒した一試合だけなんだけど、航空機にすごい慣れてるんだよね」
「空を飛ぶのが好きなだけよ」
ご本人から追加情報が入る。一応これまでの会話も全てチーム用のチャットなので聞こえているはずだ。
程なく空からドラゴンが飛んでくる。
「ふえーーすげーー!飛んでる機体は初めて見ました!」
リョウさんが変な声で喜ぶ。確かに言われてみれば、こうしてドラゴンを見るのは2回目だが、これまで航空機は見たことなかった。
「今話題になっていたセラさんにも指摘されたけれど、この子は空を飛ぶための機体だから、あんまり壊すための兵器は積んでないのよね」
そう言いながら、なぜかオレの四脚の上に着地を試みるBBさんのドラゴン。機体が少し軋む。
「あの、BBさん?」
「あらごめんなさい、ちょうど良かったから」
街にいるカラスや鳩が着地する時のように、ドラゴンが羽を広げ、ばたつかせながら無事着地。地面じゃなくて俺の四脚の上に。
こういうのがイチャイチャと呼ばれるのだろう。
「今BBさんドラゴンが乗ってるタンクさんの機体は、かなり重武装ですよね。」
「はい、一人のプレイヤーが乗せられる最大の積載量だと思います。」
改めてドラゴンを載せたまま四脚を動かして、乗っている武装を展開、射撃姿勢をとる。
機体左側にロケットランチャー、右側にガトリング、このゲームの全ての機体に通じるだけの火力だ。
「今回からお二人と一緒に遊ぶってことなので、積載する武装は何か要望があれば適宜リクエストに答えようと思います。」
これまでずっと連携の取れない中で戦ってきたので、とりあえず対戦相手の機体に打撃を与えるという一点に特化して機体を組んだ。
特に連携が取れなくても、射程に捉えた機体を射撃して倒すことは最低限可能な仕事だという考え方からだ。
まあ、武装を盛りまくったのはロボットアニメの影響もある。
しかし、今後はこの二人と連携ができる。
何も武装を積載せずとも、例えば索敵に使えるセンサーなどがあればそれでチームを助けられるかもしれない。
「いや、このままでいいかもしれないわね」
「え、そうですかね?」
「アタシもBBさんに同意です。こっちもこの二刀流で倒せない相手は受け持って貰う必要があると思うので、重武装はあったほうがいいと思います」
「なるほど...」
真っ当な意見だ。チームを組む以上、三人全員が対応できない機体が出てくれば負けは確定する。
「それにかえってちょうどいいかもしれません。アタシの機体が注意を引きつけたり、逆にこっちと距離を取りたがる機体もいるので、そういった機体を撃ち抜いてもらえれば。」
「私の方も、前の時みたいに追いかけ回されてたら、誰かに助けてもらいたいのよ。」
言われて思い出せば、初陣の時も無我夢中で助ける方になっていた。
...何かこう、しっかりした意見をもらえて感動する。
どうやら二人とも戦術的なところもそれぞれ考えがあったようだ。
「伺った話だと、BBさんの機体の索敵能力がずば抜けてて、見つからない限りは常時位置を把握できるレベルっていう話を聞いたんですが?」
「それは言い過ぎかも。でもまあ確かに、空中から近づくから、バレずに相手の位置を把握するのは得意かも。」
「剣で戦う私にはとってもありがたいんですよ!!不意打ちさえ決まればほぼ一機倒せますから!!」
なるほど、これも前回の試合の復習だ。実は、この二人はとても相性がいいらしい。
「あとは、アタシたち二人はそれぞれ自分の仕事に集中するから、このゲームの経験豊富なタンクさんに少し引いた視点で司令塔と火力支援をやってもらえれば、チームとして成立するんじゃないですか?」
「そうね、私もタンクさんの指示なら聞けるわ」
相性も要領もいい二人によってとんとん拍子に話が進んでいく。
「うーん、まあそうなりますね。了解です」
一瞬、自信がないと言いかけたが、流石にほぼ経験のない二人よりかは適任で間違いない。チームとしてもリーダーなのだからむしろ最適なのだろう。頑張ろう。
「大丈夫よ、私たちだって初めてなんだから。やりながら慣れましょ?」
こちらの自信のなさをおばあさんに一瞬で見抜かれる。ありがたいような情けないような。
「うし、あとは実戦あるのみじゃないですか?なんか決めておくことあるかな」
「このゲームの目標をどの程度に掲げるかってのも、簡単に決めるべきかと。上を目指すのか、あくまで楽しく遊ぶのか。」
「でもそれを決めるなら、戦いを何回かこなしてみたほうがいいと思いません?」
リョウさんから即座に返される。
「確かに、遊びながら目標を決めるほうがいいかもしれないわ、私もまずこのゲームの遊び方すら掴めていないんだもの」
さらにBBさんも同調。
先ほどから、リョウさんとBBさんはなかなか息があっているようだ。
よし、こうなったらこの二人のパッションのまま任せてみよう。
「わかりました。俺もこのチームのリーダー経験を積みたいし、何回かと言わず何十回と戦って、それで目的を決めましょうか!」
「よーし!頑張りましょう!」
ということで、女性陣のテンションに促されるまま、初陣をすることになった。
勝っても負けても、せめてこの二人のテンション下げないような楽しい対戦ができるように導かなければ。
なんというか、凄いゆっくり進行で...。
次回からは戦って戦って戦いまくります。